地域ルポ 川口市、キューポラの街から文化・商業都市へ
JR川口駅地区の商業ゾーンは、東口を軸にして東方向、国道一二二号線あたりまでの一~二kmくらいが範囲で、メーンストリートの「六間通り」をはじめ、「本町大通り」「八間通り」「市役所前通り」、そして南北にそごうデパートと丸井の間を貫く「産業道路」「銀座通り」「ふじの市商店街」などが展開しており、この商店数は四〇〇~五〇〇店を数える。大型の商業施設ではそごうデパートをはじめ、丸井、イトーヨーカ堂、忠実屋、ダイエートポス、キンカ堂など。西口は再開発地区で複合都市施設の川口総合文化センター「リリア」や住宅棟「リプレ川口」に、若干の商店が展開しているのみで、ボリュームとしての商業集積はない。これら商業ゾーンにおいても飲食ビジネスは、東口地区ではマクドナルド、ファーストキッチン、KFC、サーティワンアイスクリーム、ジョナサン、てんやが、また、西口ではマクドナルド、モスバーガーなどの大手チェーンが目立った存在だ。
埼玉県川口市は、かつては“キューポラのある街”“鋳物の街”として全国に知られた存在であったが、昭和50年代に入って鋳物産業が寂れたために、街の賑わいも廃れ、つい数年前までは活気に乏しかった。
しかし、それが平成3年10月に完了したJR川口駅周辺の再開発事業によって、街は大きく活性化し、再び活気を取り戻した。
川口市は東京・北区の赤羽から荒川を渡った北側に拡がる街だが、前記の地場産業の衰退とは逆に、一方においては東京のベッドタウンとしての機能を増幅させている。
電車が荒川を渡ってJR川口駅に近づけば、西側に高層ビルが、そして、東側には商業ビルや古い街並みが眺望できる。
川口はJR京浜東北線が乗り入れるが、鉄道はこの一本しかない。一日平均の乗降者数は約一五万人で、単純に計算すれば、人口の三割強がJRを利用しているということだ。
車窓から見えた駅西口に出る。そこは駅通廊から二階建ての人工地盤(歩行者専用道路)になっており、一二~二〇階建ての中層や高層ビルの集合住宅棟、複合都市施設などの十数棟の建物群と、駅前交通広場や公園などが展開している。
これらの施設群は「川口駅周辺市街地整備構想」によって具体化したもので、地下二階、地上一五階建ての川口総合文化センター「リリア」が中核施設となっている。
同センターは地下二階、地上六階建てのホール棟を併設する形になっており、会議室をはじめ、和室、茶室、フィットネス、リリア事務センター、スタジオ、コミュニティフロア、ギャラリー、市場情報コーナー、レストラン、音楽ホール、多目的ホール、駐車場などの施設を集積する。
レストランサービス分野は中国料理「銀座アスター」(一三、一四階)、カフェレストラン「森永」(三階)、「リリア」(一階)など六店が出店しているが、東口地区に比べて来店者も少なく、施設の賑わいも乏しいという印象を受ける。
住宅棟は「リプレ川口一番街」(一~七号館)四三〇戸、「リプレ川口二番街」(一~二号館)二一三戸から成っているが、単なる集合住宅だけではなく、一~二階の低層階に物販、飲食、サービスなどの店舗が出店しており、複合都市施設としての機能を発揮している。
飲食店舗はハンバーガーチェーンの「マクドナルド」、「モスバーガー」ほか、しゃぶしゃぶ「京」と日本料理「賀茂川」、居酒屋「たちばな」など五店舗が出店している。
駅西口の人工地盤は駅舎内の通廊ほか、駅北側のオープン歩道(ペディストリアンデッキ)で東口とつながっている。東口も西口と一体化する形で人工地盤になっているわけだが、都市、商業施設は圧倒的に東口地区に集積している。
東口地区においては人工地盤を整備しただけではなく、その最大の再開発事業は連動して市が平成3年10月、そごうデパートを誘致したことだ。
東口の駅広場前に立地するベストロケーションで、川口市初の大型都市百貨店として、また、そごうデパート三〇店目の“記念店舗”としてオープンしている。
地上一一階、地下一階建て、延床面積一万一二〇〇坪のスケールをもつデパート。
レストランサービスは一〇階に「川の流れる名店食堂街」を展開しているほか、九階にファミリーレストラン、八、七、六、四、三階の各階に喫茶・パーラーを出店している。
一〇階の名店食堂街は、西欧料理「サファイア」、中国料理「桃源」(ホテルオークラ経営)をはじめ、オムレツ・フランス菓子「メゾン・ド・フランス」、イタリア料理「アルフィオ」、すし「寿司幸」、天ぷら「天一」、そば「よし田」、とんかつ「とん亭」、懐石料理「清みつ」、甘味「梅園」など一一店舗を展開している。
“川の流れる”食堂街とは、通廊や店舗に沿って人工の小川を配して、自然の雰囲気と安らぎをアピールしたものだが、地域や施設内に和・洋・中の飲食店舗を一ヵ所に展開するケースはここだけだ。
このため、多業態を集約する飲食ゾーンとして、独自の賑わいをみせている。
川口駅周辺の商業ゾーンにおいては、都市型百貨店はそごうのみだが、大型商業施設や量販店では丸井、イトーヨーカー堂、キンカ堂、ダイエートポス、マルエー(各東口地区)、飯田百貨店(西口地区)などがあり、地域内で雑貨から耐久消費財までほとんどのものを買い求めることができる。
また、これら大型の商業施設に加えては、地域のメーンストリートである「六間通り」をはじめ、「川口銀座通り」(樹モール)「八間通り」「川口一番街」「アヴェニュー68」「川口駅前セントラルプラザ」「市役所通り」「産業道路」沿いなどに小売店舗の集積があり、独自の商業ゾーンを形成している。
しかし、これら商店街は昭和60年3月にモール化された銀座通りを除けば、道幅が狭い上に、一方通行も多く、また道も入り組んでいるので、ショッピング環境は快適ではない。
このため、街並みや買物動線(環境)に整合性をもたせる考えで、道路の拡幅や地域整備が検討されているほか、新たに駅東口のJR遊休地において、デパートの進出や都市、商業施設の計画が浮上してきているなど、川口はキューポラの街から文化、商業の街へと大きく脱皮を図ってきており、今後の発展が大きく期待されている。
◆ジョナサン
八階建てマンションの一階での出店。駅東口から国道一二二号線方向に伸びる本町通りに面しており、地域密着型の出店形態でありながら、ロードサイド立地としての趣もある。
店舗面積九〇坪、客席数一〇五席。昭和56年のオープンで、ジョナサンの中では古い時代の出店だ。このため、地域に大きく根を下ろしており、固定客が八、九割という利用状況にある。
「コーヒー一杯の利用でも、書斉やロビー代わりに気が済むまで利用していただいても構いませんから、中には毎日こられる方もいます。ですから、バブルがハジケた後でもほとんど客数は変わっていないのです」と話すのは金子伸二マネージャー。
メニューはスナック、ランチ、ディナーメニューなどトータルで約一三〇種をラインアップしているが、人気メニューはとんかつランチ九八〇円、タンドリーチキンとメキシカンピラフのミックス料理九三〇円、オムライス七三〇円、スペシャルカレー九三〇円、このほか、ハンバーグ類八三〇円などだ。
店の運営は二四時間営業で、時間別シフトを導入しており、時間帯ごとの客層、飲食ニーズに合わせてのメニューを提供している。平均客単価は九三〇円。
売上げは平日でも七五万円、土・日で八〇~八五万円といったところで、休日には客単価が一二〇~一三〇円ほどアップするので、その分だけ売上げが伸びるわけだ。
「単品の中心価格は一〇〇〇円を切っています、食材も冷凍ものを減らしてチルド製品を多く使って、クッキングも手づくり志向というように、料理の質を高める努力をしていますから、この面で消費者の支持が得られているのだと思います」(同氏)
◆てんや
直営三九店目の店として、今年3月30日にオープンした。九階建てのビルの一階で、そごうデパートの裏手「銀座通り商店街」の角地に位置する好立地条件にある。
店舗面積二四・五坪、客席数三六席。標準規模の大きさだが、売上げは水準を上回り、思惑以上の成績を上げている。
オープン当初は日商九〇万円ということもあったが、現在は平均的にみると、平日六〇万円、土曜日七〇万円、日曜日八〇万円に落着いている。しかし、平日の売上げが日商六〇万円といっても、これは坪売上げ二万四〇〇〇円の高水準で、ハンバーガーチェーンなどFFショップに比肩する数字だ。
客単価六三〇円、客層は平日の日中がサラリーマンやOL、夕方は主婦などのテークアウトが増えるが、土・日はカップルやファミリー客が主体になり、平日に比べ客数は安定している。
「この店は平日は11時くらいから2時ごろまでが大きなピークなんですが、土・日はひっきりなしにお客がくるという状況で、予想以上のいい結果を出しています。ですから、この水準を維持していくためのこれからの課題としましては、味づくりと店のオペレーションをどう高め、またどうキープしていくかにかかってくると考えています」(秋元和三店長)
◆桃源
そごう川口店の一〇階。和・洋・中一〇店で構成する名店食堂街での出店で、ホテルオークラが経営する広東料理のレストランだ。
営業面積一三〇坪、厨房・洗場七〇坪、客席数一五〇席のスケールの店だが、宴会などの利用があれば、最大二〇〇人を収容できる。
客席は四人、六人掛けのテーブル席が基本になっており、中国レストランによくある円卓は一二人掛けが一卓ある程度だ。
しかも、パーティションに山水画が描かれていなければ、淡いクリーム色の壁面が仏料理のレストランをイメージする明るく雰囲気のある店だ。
また、客席空間はゆったりとしており、客にアットホームな気分で利用してもらおうという配慮が理解できる。
料理はもちろん桃源のキッチンからデリバリーするわけだが、厨房はこれらパーティー需要を見越しての設備能力を備えている。
料理は単品メニューからコース、宴会メニューまで、また、客の希望があれば、特製メニューも提供できるというように、オークラの高級中国レストラン「桃花林」のノウハウを生かして、全方位のメニュー戦略を展開している。
もちろん、ランチメニューも提供している。これは二〇〇〇円前後のものだ。メーン料理は会食などであれば、「桃源ファミリーメニュー」(八品四〇〇〇円)「コースメニュー」六〇〇〇円、八〇〇〇円などがお勧めで、これは「桃源スペシャルコース」(六〇〇〇円=六名からの調製)であれば、盛り合わせ冷菜、カニ肉入りフカヒレ、カニ爪の揚げもの、若鶏のオイスターソース煮込み、牛肉とブロッコリーの炒め、車エビのチリソース煮、広東風五目チャーハン、椎茸蒸し煮スープなど一〇品をセットにしたリッチな内容のものだ。
中心客層は平日が買い物客の主婦や会食の女性客、サラリーマン、日曜がファミリー客などで、客単価は昼二〇〇〇円、夜五〇〇〇~七〇〇〇円。売上げは日商八〇~一〇〇万円前後(推計)といったところ。