地域ルポ 日吉、平成8年春に駅ビル完成

1994.06.20 54号 6面

渋谷から急行で二〇分の時間距離。日吉は慶応大学のキャンパスがあるところで知られた街だ。

ホームから地上の改札口に出ると、比較的広いスペースで自動改札口になっている。東側(東口)は綱島街道が走っており、横断歩道を渡ると即慶応大学の校門で、ストレートに伸びた美しいイチョウ並木のキャンパスロードになっている。

慶応大学は東京・三田(港区)が本校舎だが、ここは一、二年生が通うキャンパスで、経済、商学、文学、理工など七学部があり、学生数約一万人ということだ。

西口は小さな駅前広場(バスターミナル)で、駅舎をバックにその正面は即商店街になっている。真ん中の通りが日吉中央通り、右の通りが浜銀通り、その隣、線路に平行しているのが日吉サンロード商店街、そして、中央通りの左隣が普通部通り。

普通部通りとは変わった名称だが、慶応大学の付属高校があるのでそのキャンパス名をネーミングしたということだ。

これらの通りは二車線ほどの狭い道路だが、駅広場を軸にしてシメトリー(放射状)になっており、賑わいのある商店街を形成している。

賑わいがあるといっても、一五〇mくらいの距離で、後背地は住宅街になっているので、店舗が集積するのは駅前一〇〇m前後に集中する。

日吉は行政地番では駅舎を軸にしてみれば、東側が日吉、箕輪町、西側が日吉本町で、人口三万人ほどの小さな街だが、バスでの交通範囲を入れるとこの商圏人口は二〇万人近くにふくらむ。

しかし、元来が住宅地であるので街は狭隘で、このため、スーパーや百貨店などの大型の商業施設は存在しない。

通産省がレポートした「繁華街統計調査」(平成5年10月)によると、日吉地区の小売店舗は約四〇〇店で、このトータルの売上げは年間一一六億三〇〇〇万円。

小売店舗四〇〇店のうち、飲食店舗が約一三〇店で、全体の三割強を占める。小さな街の割には飲食店舗が多いという印象だが、事実、街を歩いてみると、マクドナルドをはじめ、ケンタッキーフライドチキン、ファーストキッチン、サーティワン、元録寿司、京樽、つぼ八、養老の滝、甚八、つけ麺大王など大手外食チェーンの出店が目につく。

ファストフードの店が目につくのは日吉に慶応大学ほか、同大学の附属高校や日大の高校など学生が多いからだが、これらの店は常に若者で賑わっているという印象だ。

街は小さいが、商店が多いので活気にあふれている。日吉駅の一日平均の乗降者数は約一三万人で、この四割前後は学生だが、商店街は住宅地と接しているので、購買力は強い。

しかし、前述したように百貨店やスーパーなどの大型の商業施設がないので、耐久消費財や一流ブランド商品の買物となると、自由ヶ丘や渋谷に客が流れる。このため、日吉は地域外から客が来街することがない。あくまでも、地域消費型のショッピングゾーンなのだ。しかし、平成8年の春以降には様相は一変する。東急電鉄が事業主体となって東急日吉駅ビルが建設中で、ここに百貨店ほか、専門店、飲食店などが出店することになっているからだ。

敷地面積約五〇〇〇坪で、地上五階、地下一階建、延床面積一万二〇〇〇坪の大型施設で、デパートには西南東急百貨店が出店することになっている。

この施設には四五〇台の駐車場を付帯することになっているので、地域外からの消費者を吸引することが可能になり、街はさらに活気を帯びることになる。

しかし、地域の通りは二車線道路で、現在さえ混雑状態にあるので、街は車の往来でさらに混み合うことになり、この対策も大きな課題だ。

駅西口に出ると即バスターミナルだが、車道と歩道の区別もないので、常に人と車が交錯しているという状況だ。

このバスターミナルを軸にして、日吉中央通り、普通部通り、浜銀通り、サンロードなどの商店街が放射状に展開しているわけだが、通りの入口にしゃれた感じの喫茶店が目に入る。

正面に見えるのは「神戸屋キッチン」だ。中央通りと普通部通りに挾まれる形で、四階建ビルの一、二階に出店している。一階がパンとサンドイッチ、二階が三〇席の喫茶と軽食というフロア構成で、地域住民の憩いの場としての使われ方で、客の出入りがひっきりなしだ。

普通部通りの左角に「マクドナルド」が出店している。ビルの一~三階のフロア構成で、一階がカウンター、二、三階が合わせて一七〇席のイートインスペースだ。

ハンバーガーチェーンはこのほかに、浜銀通りに面して「ファーストキッチン」が出店している。四階建てビルの一階で、昨年4月にオープンしたニューカマーの店だ。

客席数五六。現在、増量三五%のテリヤキバーガー(二八〇円)のキャンペーン中で、これを目当ての若者で店は連日の賑わいをみせている。

ファーストキッチンから二〇mほど前進すると、「ケンタッキーフライドチキン」が目に入る。イートインタイプの店だが、ハンバーガーと異なって日常性に欠ける面があるので、客はまばらだ。

三階建ビル一階での出店だが、二階は居酒屋「とおりゃんせPART2」になっている。

居酒屋といえば、近接地に「やるき茶屋」「つぼ八」「甚八」などの大手チェーンが出店しており、夜は学生や若いサラリーマンなどで賑わう。

狭いエリアに居酒屋チェーンが競合するという状況だが、店の造りやメニューコンセプトが異なるので、現在のところは共存しているということだ。

駅前広場から六〇mほど西側に寄れば、通りの賑わいは半減する。商業集積は日吉中央通りを中心軸にして狭い範囲に集中しているということだが、喫茶やパスタの店では若い女性の感性にフィットした店の存在も目につく。

日吉中央通りと普通部通りの間に位置するカジュアルカフェ「オークラ」はその代表的な店で、女子学生が七、八割を占める。

以前この店は喫茶オンリーだったが、二年前に改装して喫茶にプラスしてパフェ類やパスタを売る店にした。

店舗(三五坪、六六席)はアメリカ西海岸あたりにあるリゾート感覚の店で、外装の白と看板のモスキートカラーのコントラストが爽やかだ。

人気商品はオリジナルのパフェ類で、コーヒーゼリー、バナナパフェ(各九五〇円)、オレンジパフェ(七八〇円)がよく売れる。

食事メニューではハンバーグ・ピラフ(九八〇円)、タラコ、キノコスパゲティ(各八〇〇円)など。このほか、ケーキアラモード(九〇〇円)、ホットケーキ、クリームあんみつ(各六五〇円)、プリンアラモード(五〇〇円)もよく出る。客単価八七〇円。

「改装前の店は赤レンガのクラシックな造りの喫茶専門だったんですが、いまの女性志向の明るい雰囲気の店にしましたら、ほとんど女性客中心という感じで、男性客はカップルでもない限り入りにくいようです。売上げも大幅に伸びました」と話すのは、大倉健資店長。

やはり、日吉は学生の街でもあるので、若者の感性にフィットさせた店は強い集客力を発揮するということだ。

オークラから二〇mほどの近接地、中央通りに面した角地のカフェ・ティ「ぶどの家」、また駅広場に接するカフェ「桃の木」も、女性客にフィットした店で、独自の集客力をみせている。

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