丼チェーン特集、海鮮丼、その魅力とは
海鮮丼ブームに先べんをつけた「ザ・どん」チェーン(大阪府吹田市、06・821・5206)は、“ヘルシー”という消費者ニーズを的確にとらえ、不況の外食産業の中で着実に業績を伸ばしている。ダスキン六〇%と日本水産四〇%の協同出資で平成3年5月にスタートを切ったが、その洗練されたオペレーションのノウハウと豊富な食材の融合は業界からも一目置かれている。三年目を迎え、新たな取り組みもみせている。
海鮮丼ブームは、男性的な丼の既存イメージを一新、一躍オシャレでヘルシーなメニューに仕立てあげた。とくに海鮮丼といえば、いままではすし屋の散らしずしをちょっとアレンジしたものにすぎなかったのだが、「ザ・どん」は、フランス料理のシェフによるユニークな味付、盛付を採用し、イメージさえも刷新した。
平均五〇〇~六〇〇キロカロリーのヘルシー志向、海鮮丼としては平均客単価七八〇円の破格なメニューは、女性の心をとらえるのに時間はかからなかった。三年目が経過した現在の店舗数は三八店(直営一五、FC二三)。平成3年度売上げは二〇億五〇〇〇万円。当初の思惑通り、女性客が全体で六〇%、八〇%に達する店もあり、展開は順調に推移。平成6年度は関西で二〇店舗、関東で一〇店舗の新規出店を見込んでいる。
既存店においても、大阪・心斎橋のアメリカ村にオープンした店で、開店から三日間連日で一三〇〇人が来客、四九席の店舗で二七回転の驚異的数字を打ちたて“大盛況”をきわめている。
今までの展開の経過について同社の栗田芳夫社長は「親会社の相生が良かった。ダスキンはミスタードーナツなどファストフード(FF)、レストランのチェーンオペレーションのノウハウを、また日本水産は豊富な水産魚介類および鮮度管理システムなど、両社が長年培ってきた独自のノウハウを持って結婚したのが良かった」と語っている。
すでにFC希望の問い合わせがJR、NTTなどから相次いでいることから、親会社の強力なネームバリューも遺憾なく発揮しているといえよう。
この「ザ・どん」の成功は、いうまでもなく合併した両社のノウハウが生かされているのだが、その第一はやはり品質の高さだ。全国各地に設けられた日本水産の物流基地が同店の配送拠点。システム化されたコールドチェーンは、他の追随を許さない。それに加えたダスキンのチェーンオペレーションだ。
同社が仕様書を発注し、日本水産がセントラルキッチンでポーションカットする。したがって店舗では食材の解凍と盛りつけだけでOK。職人は一切置かず、社員も店長のみで、全てアルバイトで構成。完全分業化のため厨房も敷地の六~七分の一にとどまる。
さらに火を扱わないため安全性に優れ、油を使わないため食器洗浄も機械任せにできる利点もある。食材原価率四五%、人件費一五%の数字が何よりもそれらの事実を物語っている。
順風満帆な同店の今後の課題は冬場のメニュー構成だ。同社の潟見圭一広報担当は「火を使わないことで冷物のイメージがあるため、冬場のメニュー戦略を考えなければ」という。冬場の売上げが一〇%も夏場を下回る店舗もあった。また昨年の冷夏にもそのような影響も受けたとしている。そのため、季節に左右されにくいメニュー開発を進めており、現在はサバ、ブリの煮つけ、イカのあんかけなど温メニューの試作を開始、今年の秋口からアンテナ展開に踏み切る方針だ。
また小山隆也東日本支部エリアマネージャーは「これまでは圧倒的な値ごろ感があったが、FRのDS戦略、FFのバリュー戦略が強まり、かつてのように値ごろ感を訴求できなくなっている」とし、客単価を一〇〇円ほど下げる必要性を説く。そのためには商品の絞り込み、さらに在庫調整の徹底で冷凍庫を省力化、厨房を狭くして、客席を増加、回転率で値下げ幅をカバーする必要があるという。具体的には6月から「親子丼」(五〇〇円)、「さけとろ丼」(五〇〇円)などの低価格メニューを導入して客単価引下げを図る。また現在一九アイテムのグランドメニューを半分に減らして、季節メニューを四五日周期で折り込んで行く計画だ。また女性だけでなく男性集客も狙ってボリューム感を訴求。ディナーメニューも充実させる。
食材仕入れ、加工ノウハウと店舗運営のノウハウを発揮させて順調に拡大を続けてきた「ザ・どん」は、今後もメニュー開発、店舗設計にも積極的で、さらなるステップアップをめざした取り組みを図っている。