人情屋台、ロイヤルティーはゼロ、サービス基調に完全分担の共同運営
徹底したサービスと、屋台をモチーフにしたユニークな展開で、「人情屋台」は居酒屋業態のなかでも最も急成長を遂げている。
同店は一つのフロアに六~一二の屋台、すなわち専門店が集合体となった出店形式で、その地域の業務用酒販店が管理会社として運営。専門店へロイヤリティーを課さない代わりに、業務用酒販店が食材、酒類の受注を一括して行う。いわば、問屋から飲食店という流通の図式を、飲食店のフロアレベルに縮小したシステムだ。
このシステムの特徴は二つある。専門店のオーナーは売上げのほとんどを自らの手に残せること。業務用酒販店は運営する専門店との取り引きを独占、確保できること。つまり、専門店と業務用酒販店が、それぞれ独立しながら一つのフロアを共同運営する発想で、売上げは当事者の努力次第とするものだ。最近流行の“屋台村”の形態とは一線を画している。
また、出店コストは一区画当たり三〇〇万円と手頃でリスクも少ない。そのため独立出店を諦らめかけた調理人の夢を再現できる業態として、出店希望者が相次いでいる。
売上げについても、坪当たり平均で二万~二万五〇〇〇円と一般の居酒屋の約三~四倍と驚異的な数字を記録している。「居酒屋チェーンはアルバイトが主力なため一人で行ってもなじめない。人情屋台は従業員全てがオーナーですからサービスも万全。親切な接客をするため、お客の顔は全て覚えるように心掛けています。個人レベルの常連客が多いのはそのためです」(東京本部・小口徹代表)と胸を張る。
最近の飲食トレンドは、とかく女性の動向やヤング層を意識しがちだが、それについて「そのような客は流行に流される傾向が強いので、常連客となる可能性は薄く、腰を据えたサービスや経営が困難。むしろ落ち着いた中年男性にターゲットを絞った方が有利。ハッキリいってうちはスキ間商売ですから」とキッパリ。
今後の課題として「地域一番店を目指して専門店(屋台)同志がより切磋琢磨すること。それが継続すれば、自然とその屋台は地域一の専門店と化すでしょう」と語る。人情屋台流のシステム構築に余念はない。
従来、居酒屋はオジさんの安堵の場として展開して来たが、酎ハイブームや一気飲みブームの頃から女性層、ヤング層に乗っ取られた感がある。
最近は確かにヤング層が多く、居酒屋業態では一人で飲む光景は少なくなった。「仲間で連れだった客に対する人的サービスは、おせっかいになりかねないため、メニュー開発、業態開発に注力してきたが、肝心な人的サービスをアルバイト任せにしてきた代償は大きい」(某チェーン店)と指摘する声もある。
ユニークなシステムと、基本に立ち戻った人情屋台の展開に参考になる点は多く、居酒屋業態の今後の行方を占う好機といえそうだ。