ペリエの魅力を探る 料飲店での人気の秘密

1994.09.05 59号 18面

ナチュラルミネラルウォーターの産業としての歴史はペリエから始まる。イタリア、フランスを中心にヨーロッパ各国では保養地に行って、健康にいい水を飲んだり浴びたりする習慣があったが、一九世紀からはそれが瓶詰されて薬局などで販売されていた。ペリエは二〇世紀はじめからレストランや普通の小売店で販売をはじめ飛躍的にその量を伸ばしたのだ。日本でも昭和62年から本格的な販売が始まったが、黎明期、第一成長期を経て、大きな飛躍が見込める第二成長期に入った。ここでは業務店での使われ方を中心にして、その魅力を解剖する。

本来はストレートで飲むのがフランス風の楽しみ方だが、まだ慣れていない消費者が多いので、ミキサーとして使うのもおもしろいだろう。

スコッチやバーボンにもあうが、おすすめはやはりリキュールだ。

天然の炭酸ガスは泡が非常に細かく、リキュールが持つ本来の色を楽しませる。ノンシュガーなので香りも十分引き出せる。

リキュールの味を引き出すが、飲んだ時に舌と喉でパチパチとはじける感じを与え、甘い酒は苦手という客にもすすめることができよう。

果汁についてはどうだろうか。喫茶店などではレモンライムのカットをつけて客が自分で絞って飲むケースが多い。柑橘系にはだいたいあうので、果汁を使えば多様なメニュー提案ができるだろう。

ソーダ水とは、炭酸ガスの量と質が違うため、味わいが異なるが、びんのデザインにも注目したい。グリーンのファッショナブルなびんと、ジュース、リキュールの色が客の目を引くはずだ。

◆「カフェ花水木」柑橘系と組み合わせて

「カフェ花水木」は、世界的なデザイナー、森英恵氏が関係するファッショナブルな喫茶店だ。顧客に外国人が多いため、ペリエが利用されていたが、知名度が高くなってきたため、日本人の利用も増えてきている。この店ではストレートのほか、レモンかライムをつけて提供するメニューがある。柑橘系の味と香りをつけたペリエが受けているのだ。

花水木は表参道に面したハナエ・モリ・ビルの一階にある。場所柄からファッション関係者、業界人など流行の最先端を走る顧客が多く、打ち合わせなどに利用している。加えて近くのオフィスのOL、ビジネスマンなども多い。土・日、夏休みなどは学生、観光客などいわゆる「一見さん」が増える。

飲料はブレンドコーヒー、カプチーノなど、また食事のメニューはカレー、サンドイッチなど、目新しいものはあまりない。ただし、一四種類の自家製のケーキがあり、デザートが楽しめるようになっている。

また場所柄、価格を高くしているのが普通だが、コーヒー一杯五〇〇円など表参道のファッショナブルな喫茶店とは思えない価格だ。ペリエも二〇〇ミリリットルで五〇〇円と低価格である。

これは利用頻度の高い顧客を重視しているためで、新しいメニューを頻繁に提案して目新しさを訴えるよりも、低価格で長期間にわたって利用してもらおうとする考えによるものだ。

ペリエは本格的な輸入が始まった頃から販売しており、当初は外国人、海外旅行帰り、流行を追いかけている顧客が中心だった。現在は知名度が高くなってきたため、利用する客が増えている。

ペリエのストレートや、ライム、レモンつきなどで販売している。ストレートで飲む顧客も多いが、ペリエはレモン、ライムの香りや味とマッチする特徴があり、果汁を少しだけ混ぜても楽しめるからだ。

さらにコーヒーとペリエと二品同時に頼んでくる顧客も増えている。「普通の水ではない水」「ソーダ水ではない発泡性の水」としてペリエを利用しているのだ。

花水木の提供の仕方は氷を使わず、グラスを冷やしてそのままペリエを入れる。なによりも天然の味を大切にするためだ。

しかし、ペリエを知らないで頼もうとする顧客もまだ多く、特に休日などの利用客が「どういう飲料ですか」などと質問をしてくる。店側は「天然発泡性」などの説明をして対応している。

・店名=カフェ花水木(はなみずき)

・所在地=東京都港区北青山三‐六‐一、ハナエ・モリ・ビル1F

・電話=03・3406・1980

◆「オリガミレストラン」単品で食事とともに

キャピトル東急のなかにある「オリガミ」レストラン。朝は宿泊客を中心に、昼は宿泊客に加えて周辺のビジネスマンを対象にして、商談にも使えるパワーランチを提供。夜はOLのアフターファイブにも対応している。もともとはカフェだったが顧客の要望に応えながら展開してきたため、食事に力を入れてきているのだ。ペリエは商社マン、外国人などが多く利用しているため常備しているが、食事と一緒に利用する顧客が増えてきている。

オリガミの平均客単価は三〇〇〇円。この数字は朝昼夜を平均したもので、朝は価格二三〇〇円のアメリカンスタイルのブレックファストメニューが中心となっているため、昼夜の単価は平均より高くなる。ラーメン類が二五〇〇円、ステーキが約四〇〇〇円となっている。この金額では普通のビジネスマンが毎日昼食に利用できるわけではない。ホテルらしさといえばそれまでだが、商談、接待などに使う金額だ。

メニューに出ていない料理についても「できうる限り対応する」という。それがホテル内にあるレストランのやり方。ただし焼き魚や味噌汁などは和風のレストランの範囲でできるので断り、洋風にこだわるという。洋風へのこだわりは、顧客の要望に応えて開発した排骨麺(二二〇〇円)に表れている。中華麺としては都会風の味にまとめ、パーコーヌードルとでもいえそうな味になっている。

メニューそのものはほぼ二年に一度替える。しかし固定客に目新しさを訴えるために、シーズンごとに特別の商材を提案する。夏場には排骨麺(パーコーメン)の冷やし中華バージョンを出した。

ペリエは実はメニューにのっていない。本来ならば飲料類はメニューにのせない考えだったが、ビール、コーヒーなどは値段がわからないと困るという顧客の声があったためのせたという。ホテルとしての常識的な範囲内でというのが本来の料金体系だ。ペリエの知名度は高く、顧客はメニューにのっていなくともオーダーしてくる。

店舗も当然のように三三〇ミリリットルを提供、ライムかレモンのカットを一緒に出す。ストレートでも、香りや味をつける客にもあわせた。

そのまま単品で飲む顧客も多いが、ランチの時にビール、ワインの代わりに飲むケースが多いという。テーブルワインならぬテーブルウォーターになりつつある。三三〇ミリリットルを選んだのは食事に対応させるためだ。

・店名=「オリガミ」レスト ラン

・所在地=東京都千代田区永田町二‐一〇‐三、キャピトル東急ホテル

・電話=03・3581・4 511(内線3250)

◆なぜ炭酸ガスが含まれているのか

天然の炭酸ガスが豊富に溶けるペリエ。この秘密を解き明かすには白亜紀(約一億四〇〇〇万年前)にまでさかのぼらなければならない。

ヨーロッパ地域はイタリアの南部を除き今でこそ火山活動はないが、白亜紀の頃は活発な地殻変動が起きていた。

ペリエの故郷、南仏のプロヴァンス地方もその例に漏れず、約五〇〇〇mの地中で大規模な地殻変動が起きた。

この時にできた断層や亀裂は、炭酸ガスが充満している地層と豊富な地下水を持っている地層を結びつけた。長い時間を経て地下水は炭酸ガスを溶かしたのだ。

こうした例はフランスだけでなく各国にある。日本では六甲山麓で明治22年に発見されたウヰルキンソンタンサンは、明治23年から販売され、欧米、中国、東南アジア、ロシアなどに輸出されていた。

フランスではペリエのほかにバドアという発泡性の水が売られているが輸出されていない。これは埋蔵量が少ないためにフランス政府から制約を受けているのだ。

ペリエのすごさはその埋蔵量の多さ。年間一五億本の生産を行って世界一二〇ヵ国の消費者に対応している。

ペリエは、降った雨が長い時をかけて幾層もの地層をくぐり抜け、濾過され、再び地表から湧き出たもの。ペリエを味わえるのは地球の歴史から考えれば、全くの偶然なのだ。

◆ペリエ3種類の容器の使い分け

日本で販売されているペリエは正確には現在四種類ある。三五〇ミリリットルの缶入り、二〇〇ミリリットル、三三〇ミリリットル、七五〇ミリリットルだ。缶入りは一般消費者が家庭や屋外で飲むためが中心なのでここでは割愛する。

ペリエの原点は二〇〇ミリリットルだ。一〇〇年前にデザインしたとは思えないような緩やかな曲線をベースにした斬新さがある。同じように曲線をベースにしたコカ・コーラが近代工業を背景とする米国の文化を運んできたならば、ペリエは伝統と斬新さをあわせもつヨーロッパの文化を持ち込んだのだ。

高いファッション性を持つガラスびんは色の強いリキュール類や果汁と並べると視覚的にも楽しめよう。

輸入元のペリエ・ジャポンは、二種類のびんについて、二〇〇ミリリットルは使いきりのサイズ、七五〇ミリリットルは大人数でワイワイ騒いで食事を楽しむ時や、業務店で大量にグラス売りをする時と説明する。三三〇ミリリットルはその中間で、七五〇ミリリットルと同じようにスクリューキャップを採用して、ヘビーユーザーに対応するためだ。

店舗を取材すると、店での価格から逆算した仕入値、顧客の好みへの対応などで、ペリエ社の思惑と異なっている。商品がひとり歩きを始めているのだ。

◆なぜ洋食、中華など食事にあうのか

ペリエは天然の炭酸ガスが地下水に溶けたナチュラルミネラルウォーターだ。安全性についてはフランス政府の基準に基づいて、二〇〇項目以上の検査を行って万全を期している。しかし今の消費者は安全性だけではなく、おいしさを望んできている。

ペリエは洋食、中華を中心に食事にもあう。フランスでは昼食時にペリエを注文すると七五〇ミリリットルのびんがテーブルに「ドン」と置かれ、食前、食中、食後と何人かで飲むパターンが確立している。

この謎を解き明かすにはミネラルバランスについて説明しなければならない。

ペリエはカルシウム、マグネシウム、カリウムなどが多く含まれる硬水だ。日本人は硬水に慣れておらず、飲みにくい印象を与えるが、苦みを与えるマグネシウムが少ないため、飲みやすくなっている。

またガスの圧力は普通のソーダ水の半分で飲みやすくなっている。またその成分も炭酸ガスに加えて、ネオン、ヘリウムなどのガスがごく微量含まれているので、まろやかな味わいとなっている。

食事に使える飲料として必要な条件は、(1)味が強くない(2)舌を洗い流す力のある(3)胃を刺激する‐などだが、ペリエはいずれも満たしている。

特に胃の刺激については、人工の炭酸のように圧力が強くないので、腹がはらずに軽い刺激を与え、食欲を刺激し続けるのだ。

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