トップインタビュー モスフードサービス・清水孝夫代表取締役社長

1994.10.03 61号 3面

‐‐6月に櫻田会長、渡邉元社長に次ぎ三代目として社長に就任されましたが、まずは抱負をお聞かせ下さい。

清水 自分の役はまさかという大役です。社長就任の話がありました時に知人に相談しましたら「人生には三つの坂がある。登り坂、下り坂、そして“まさか”」といわれました。専務の職にありましたので、うろたえることなく、きちっと後任が出来るまで務めなくてはいけないと引き受けました。「全力投球で全うしよう」。これだけです。

‐‐ファストフード(FF)が軒並み苦戦を強いられているなか、モスさんは平成5年度の売上げが五五〇億円で九%増、チェーン全店末端売上高は一一〇七億円で一一%増やし、初の一〇〇〇億円を突破、経常利益は六五億円で伸び幅も過去五年間で最高の二九%増と途中で上方修正するほど順調。一人勝ちの感がありますが、新社長は今後どのような方針を展開していきますか。

清水 モスでは「仕事は確認、確認、再確認」といわれています。私は三代目でもありますので再確認の徹底に努める立場と思っています。今まで継承され、二二年間で築き上げられたモス文化をそのまま正しく根づかせるために、いろいろなことをいろいろな人に教えていくのが私の仕事です。

‐‐具体的にはどのようなことですか。

清水 商品は食品に限らず全てに共通すると思いますが、「魂を込めて誰が作るか」が一番大事なことです。それには人づくりしかありません。顧客第一精神、HDC(ホスピタリティ、デリシャス、クリンネス)などの文化、商売の仕方を正しく一〇〇%理解してもらいたい。ただ、そういう願望はありますが、今の若い人はそういうのを古くさいといやがる人も結構多いんです。ですから結果はどうなるかわかりませんが、とにかくそういうことを教えていきたいと思います。

‐‐売上げなど、数字的にはどうですか。

清水 直接数字をどうしようということは考えていません。直近の数字はがんばれば上がります。将来的にみると、それにも増して、「何人に私の気持ちをきちっと染め抜くことができるか」これが一番大切と思っています。目標に対しての結果はコテ先だけの努力でも出やすいですが、一回で終わってしまいます。しかし、売上げを上げるために顧客の立場に立って取り組むと、半年後には必ず良くなり、口コミでその後もさらに伸びます。ですから数字のことは叱りはしますが、あくまで気のゆるみではないかと牽制するために使う程度です。

決められたことをきちんとすること、あたりまえのことを毎日することはむずかしい。それを徹底するために、まずは私自ら実践しています。店にも電話したり、直接行ったりと現場になるべく多く足を運んで緊張感を維持するよう努めています。

‐‐社長は理論より行動の人ですね。

清水 理論武装はしません。私は体験から、自分の中に信念を持つと成功すると思っています。机上の理論で事業は成り立ちません。モス精神の継承といっても、社員は増える、新人も増える、古い人は忘れるで同じことの繰り返しなのですが、血液と同じで活性化が大事なのです。これで良いという終わりはないでしょうね。お客さんの「おいしくて、きれいな場所で、安いものを食べたい」という気持は不変です。むしろ、売る方が客が変わったのではないかと勝手に方法を変える風調がある。さらに飛躍するためにも、今は、変わることなく二二年の継承が大事だと思います。

‐‐東南アジアやアメリカに進出されていますが、今後の海外対応はどうなりますか。

清水 アメリカ、台湾、シンガポール、香港に子会社や合弁で会社を設立、モスバーガーやヌードルショップを現在一五店舗(8月末)展開しています。海外にはエリートを送って注力していますが、じっくり取り組んでいきます。チャンスをのがすことがあるかもしれませんが、堅実に、まずは国内をしっかり固めることが先だと思っています。

‐‐昨年は冷夏でコメ不足、今年は猛暑で水不足と改めて自然環境の大事さを知らされた形となりましたが、何か環境対策は行っていますか。

清水 モス(MOS)の社名は山、海、太陽の頭文字を取ったもので、社名から自然とは深いつながりがあるんです。商品開発には二つの掟がありまして、「健康に良い」「世の中に余っている食材を使う」ことなんです。当時余っているコメをなんとか利用しようと考えたのがライスバーガーですし、脂身が少なくパサつくなどで敬遠されていた鳥の胸肉からつくねバーガーが生まれました。間接的にはこれも環境対策でしょうね。直接的には使い捨て容器を少なくしようとしています。“環境対策”は永遠のテーマですね。

‐‐ありがとうございました。“モス文化の継承者”清水社長のご活躍を期待しています。

(文責・福島)

櫻田会長には「無欲な人」、渡邉元社長からは「誠実な人」といわしめている。そのいちずな気性は小学校から中学卒業までの日課だった家業の農業の手伝いで培われたもの。自らの麦踏み体験を人材育成の教材、食文化談として語ると受けが良いという。「麦踏みは今では珍しく新鮮なことなのでしょうね」と時代の流れを感じることもしばしば。優に年間200店は訪問し、現場を第一とする。趣味はゴルフでハンディは28。埼玉県出身、54歳。

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら

関連ワード: モスフードサービス