飲食店成功の知恵(58)開店編 失敗しやすいポイント(8)

1995.01.16 68号 6面

最近は女性が仕事を持つことが当たり前になっている。そのせいか、主婦が副業で飲食店をオープンするケースが目立つようになってきた。昔から飲食業は女性が独立する典型的な業種だったが、主婦の副業というのはやはり、最近になっての傾向といえよう。

私は主婦の社会進出を腐すつもりは毛頭ない。サービス業である飲食業は、女性ならではの感性が生きる場面が多い。おもてなしの心遣いなど、男性オーナーが見習うべき点はたくさんある。しかし、それにもかかわらず、主婦の副業は失敗するケースが後を絶たない。非常に残念なことである。その轍を踏んでほしくないという気持ちから、あえてこの欄に取り上げることにした。

主婦が失敗する最大の要因は、本気になれなかったということに尽きる。夫の収入で十分に食べていけるからだ。だから副業なのだともいえるが、飲食業のサバイバルにはそんないいわけは通用しない。世の中にはサイドビジネスという言葉がある。それで成り立つ仕事もたくさんある。しかし、こと飲食業に限っては、サイドという言葉はない。なぜなら、客商売だからである。お客にとっておカネを支払う以上、正業も副業もない。プロとしての商品やサービスを要求する。当然のことである。たしかに、副業という甘えが通用しているケースもなくはない。しかし、それは例外である。

一方、本気で取り組んでもなかなかうまくいかないということも少なくない。これは個々の資質によるのだろうが、専業主婦だった人はどうしても、視野が狭かったり妙に我を出してしまう傾向がある。要するに、他人に合わせられない人が多いのだ。何かにつけて自分の好き嫌いで判断してしまいがちなため、お客が限定されてしまうのである。これは大きなポイントだ。

また、開店の動機が甘い、というのもよくあるケースである。料理をつくることやお客をもてなすことが好きなのは結構なことだ。だから、という気持ちもよく分かる。ただ怖いのは、家庭や周りの人たちから「おいしい」とほめられたことが、即商売になると短絡してしまうことなのだ。“家庭料理のお店”という看板があることは事実だが、やはり家庭料理も“商品”は別なのである。原価もかかりすぎることが多い。本当においしくても、利益が出ないのではビジネスにならない。

主婦だからダメだということではなく、趣味的になってしまうところに問題の根があるといえよう。だから、投資ということについての認識も甘くなりがちなのだ。

よほどの資産家でもない限り、開店資金を全額自己資金でまかなうことはできないから、銀行などから借りることになる。が、ふつう銀行は専業主婦に大金を貸してくれない。夫名儀で借入れをすることになる。そのため、お店を始める主婦にとって、自分のお店であって実は自分のではない、という中途半端な状態になる。借金というのは誰にとっても一種の魔物であるが、こういう状態だとどうしても、現実感に欠けるというか、シビアさがなくなりがちだ。

そこで、投資の回収速度を考えずに、自分の好みのお店をつくろうとしておカネをかけすぎてしまう。誰でも好きなようにお店をつくりたい。しかし、回収してこその投資である。客単価が低いのに高価な食器を揃えては、それだけで損益分岐点が高くなってしまう。

最後に、家族の協力態勢についても触れておきたい。まず、営業時間が制約されては、まともな経営ができるはずがない。夜、帳簿づけやイベントの構想、準備などの時間をやりくりできるかも、実は大きな問題なのである。家庭を壊しては何にもならない。

フードサービスコンサルタントグループ

チーフコンサルタント 宇井 義行

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら