徹底研究・丼メニュー 松屋=女性客の吸引が焦点に、24時間オープンが基本
牛丼は吉野家の成功に触発されて、いくつかのチェーン企業が存在するが、しかし、吉野家の影にかくれて目立たない。「松屋」(松屋フーズ‐本社東京・練馬)は、東京・中央線沿線を中心に、首都圏全体でのチェーン展開を進めており、現在直営六七店、FC九店を出店している。
標準的な店舗面積六六~八二平方㍍(二〇~二五坪)客席数二〇席。月商一〇〇〇~一五〇〇万円。店の看板メニューは牛丼並四〇〇円、大盛五〇〇円、徳盛五六〇円であるが、このほかに、牛定食、カレーライス、焼肉定食、ハンバーグ、しょうが焼定食、チキン、野菜など定食メニューをラインアップしている。
牛丼にこだわらず、多様な食事ニーズに対応する出店戦略をとっているわけであるが、看板の牛丼メニューは全体比五〇%のウエイト。このうち、牛丼の持ち帰りが一二%を占めており、弁当ブームの影響もあって、年々売上げが伸びてきているという。
店舗の出店は、原則的には直営出店の形態をとっており、FC展開には消極的で、この形態での店舗数は伸びていない。出店の立地条件は駅前、郊外ロードサイドなどで、人、車の通行量が多いところとしている。
営業形態は二四時間体制を基本としており、これによって収益性を高める戦略であるが、しかし、営業時間を拡大した今、当然のことながら、パートおよびアルバイト要員を確保しなければならず、人件コストが大きくのしかかってくる。
いまはアルバイトの時間給も一時間一〇〇〇円の時代である。深夜の営業となると五割増しの人件コストになる。昼間の売上げをどう伸ばすか。場所によっては客単価六〇〇~七〇〇円で、三五回転以上という店もあるが、立地のよしあしがあり、平均値は出しにくい。
「メニューを紋り込むと客層が限られてしまうし、拡げれば調理が繁雑になる。しかも客の来店時間は昼、夕方とある程度一定率である分けです。そうなると売上げの伸びにも限界が出てくる。この打解策として二四時間営業をおこなって、全時間帯の客を吸引していこうとしている分けですが、これも人の手当の問題、コストの問題もあり、なかなか思うようにはいかない」(松屋フーズ本部)。
抜本的な対策として、昼間の時間帯に女性客を吸引することも考えている。牛丼チェーンの場合は男性本位の店づくり、サービス形態にあるので、女性が入り難しい。否、むしろ、経営の効率追及の面から、デリケートな女性層をマーケットの対象外としている面があるが、しかし、女性主導型の消費社会が定着している今日、女性抜きの片肺飛行では、遠からずビジネスは成り立たなくなる。
いまや、例えば、居酒屋チェーンなどにおいては、店の雰囲気、メニュー構成からして女性層をもターゲットにしており、連日連夜男女が共存する居酒屋風俗を呈しているのである。それどころか、日曜日などはファミリー客もやってくる。女性がくれば多様な客層が吸引できるのである。
女性がいるから男もくる。これは一般的通念であるが、しかし、男がいるから女もくると、逆も真にはならない。女性の場合はメニューの拡がり、例えば、サラダ、デザートなどサイドメニューの導入や、しゃれた感覚の店づくり、内装にする、客席もカウンター席ばかりでなく、テーブル席を設置して、ゆったりと座われるようにするとか、おもいやりと愛情のこまやかさが望まれるのである。
余談になるが、メニューや客席など直接的なことばかりではない。女性のデリケートな感覚に対応して、トイレットルームを男女別にするとか、あるいはスペース的に余裕があれば、別途にパウダールームを設けるとか、間接的なこともおざなりにできない大事なポイントなのである。
店舗の造作コストが多少高まるかも知れないが、新たなマーケットを生み出していくには、早さばかりの効率追求では限界が出てくる。客回転本位の店舗運営ばかりではなく、客単価を上げる工夫、あるいはアイドルタイムを有効に活用して、客の来店時間を拡げ、安定して客を吸引する運営形態も考えていく必要があるといえる。
そういう意味においては、前述の吉野家が九〇年11月、東京・西神田に出店した新型店舗は、文字どおりに新しい試みの牛丼レストランとして注目されている。
このタイプの店舗は、「ウォークアップスタイル」の店といい、主として午後2時から5時までのアイドルタイムを活性化する目的で、出店コンセプトをまとめている。すでに東京、大阪などで計七店舗を開設しており、今後におけるチェーン戦略のために、各種データ収集をおこなっている。
同タイプの店はクイックオペレーションの店舗とも称しており、ハンバーガーレストランのように、よりファーストフード店を近ずけた運営形態になっている。
すなわち、セルフサービスの形態で、トレイに使い捨てのワンウェイ容器で、メニューが手渡されるということである。主力メニューは従来どおりであるが、コーヒー、コーラなどドリンク類をラインアップしており、午後2時以降のアイドルタイムにも気軽に来店してもらおうという狙いである。
第一号出店の西神田店の場合は、店舗面積一一七平方㍍(三五・四坪)に、カウンター一〇席、二人用テーブル三〇席の計四〇席の規模で、客単価は六〇〇円台で、既存の五一〇円を一七%以上も上回っている。
加えて、テーブル席とトレイサービスが吸引力となって、全体比四割もの女性客を堀り起すことに成功しており、このスタイルの店舗の可能性を暗示している。
松屋フーズも今年の6月10日に、吉野家とほぼ同じようなコンセプトで、渋谷のマルイ・ヤング館の並びにセルフ形態の店を出店した。この店の場合はテーブル席は設けていないが、壁面に向ってカウンター席がレイアウトされており、見知らぬ客同志が対面して食事をするというパターンが避けられるような形になっている。
もっとも、テーブル席の場合でも隣り合わせ、相席という状況もあるのであるが、しかし、女性層にある程度の来店を期待し、客席効率を考えると、壁面向きのカウンター席がベターといえるかも知れない。
四人掛のテーブル席に二人連れの女性客が長時間占領した場合は、客単価が二倍、三倍にならない限りはペイしないという結論にもなるからである。ファーストフードの形態にある牛丼チェーンが、メニュー、客席スタイル、客単価、客層、効率の五つのファクター、しかも女性客を吸引する前提としての出店、運営形態となると、どうバランスをとっていくか、多様な角度からの検討が必要といえる。