徹底研究・丼メニュー てんや=独自のマーケット創造、クイック調理が自慢
丼メニューのマスマーケットといえば、牛丼チェーンを連想することになるが、「てんや」(㈱テンコーポレーション‐本社・東京)は、天丼メニューを掲げて、独自のマーケットを創造することに成功している。
丸紅七〇%、日清製油二五%、個人(岩下善夫氏)持株五%の出資で設立した外食企業で、“天丼・てんや”の屋号で平成元年9月に、八重洲地下街に第一号店をオープンしている。その後、早稲田、目黒、新宿、荻窪、大久保、蒲田、下北沢、八王子、大門、門前仲町、錦糸町、浅草、西新宿、吉祥寺と着実にチェーン化をはかっていき、現在一五店舗を出店するに至っている。
メニューは天丼四九〇円、かき揚丼六二〇円、野菜丼四九〇円、エビ丼八八〇円などが定番で、すべてにみそ汁が付いている。このほかに、てんぷら盛合わせ四八〇円、テンプラ定食六二〇円、さらには持ち帰り弁当として天丼弁当四六〇円、エビ弁当八五〇円などがあり、天丼メニューを看板とする和製ファーストフードレストランとしての性格をアピールしている。
天丼のファーストフードレストランというだけあって、オーダーからテーブル出しまで僅か五分で、クイック調理を可能にしている。客の滞留時間は平均して一五分。牛丼チェーンに比べてやや長目の滞留であるが、調理時間の短縮は一般のてんぷら・天丼の店と比べると三分の一ほどになっている。
てんぷら・天丼類は伝統的な和食メニューとして、消費者の根強いニーズがあるが、しかし、メニューがシンプルである割には調理(揚げ技術)が専門的で、そのために値段も高く、また料理の提供方法も高級感を伴ったものとなっている。つまり、非大衆的であるということである。
てんやの天丼はこの点を解決している。すなわち、大衆のニーズに強くフィットさせた提供方法を開発したということである。既存のてんぷら・天丼店の多くは、「調理人など人手の確保と労務管理の難しさ」「揚げ技術の取得に多くの時間がかかる」といった大きな問題をかかえているが、てんやはまず最大の課題である調理技術については、コンピューターで油温をコントロールするオリジナルのフライヤーを開発、これによって問題のすべてを解決することに成功したのである。
コンピューター制御(油温一八〇度)により、調理マニュアルに従えば誰でも簡単にフライできること、しかも、熟練のてんぷら職人と比べても遜色のないものが作れるということで、均一の味づくり、マス・プロダクツが可能となったのである。
店舗の多店舗化、チェーン化は、味づくりの均一化、量産体制、店舗オペレーションのマニュアル化が実現してこそ可能になる。てんやはそれを実現した。
「おかげさまで店舗の出店も好調に推移してきております。味、サービス、値段の面でそれなりの評価を得ておりますが、さらに質的向上に努力し、維持していきたいと考えております。まだFC展開はしておりませんが、多様なデータとノウハウをストックして、近い将来にはフランチャイズ展開にも踏切る計画でおります」(テンコーポレーション、総合企画室室長近藤博氏)。
てんやの標準店舗は八二・五平方㍍(二五坪)、三五席、客層はビジネスマン、OL、学生、主婦層、ファミリー客と多様。客単価六〇〇円。平均月商一一五〇万円。店内飲食のほかに、持ち帰り弁当もあり、この比率が三〇%。但し、テイクアウトの客単価は五〇〇円以内。みそ汁が付かない分だけ低くなる。
営業時間は午前11時~午後9時まで。従業員シフトは正社員二名とアルバイト五名。この陣容で昼間(ランチタイム)のピーク時に一二回転(四二〇人)させる。ランチタイムは午前11時から午後2時まで。客単価六〇〇円と計算すれば、この時間帯で二五万円強を売ることになる。
その後も客はまばらに入り続けるが、6時から8時前後にかけて第二回目のピークがやってくる。昼間の回転より落ちるが、それでも四、五回転はする。
以上の数値はあくまでも全店を平均したもので、出店の場所や店の大きさによって、その営業内容は異なってくる。これを第一号出店の八重洲店でみてみると、同店は地下街出店という特殊性があり、不特定多数にアピールするというような立地条件にはないが、客単価六〇〇円で、客席数四〇席で一日平均一七~一九回転。日商平均五〇万円。
やはり、午前11時から2時までのランチタイムが営業のピークで、全体比六〇~七〇%を売上げる。人気メニューは全店共通の天丼で、同じく七割のウエイトを占める。客層はサラリーマン八割、OL二割といった構成で、開設して満三年の強味で固定客が七割を占めているが、売上げはテイクアウト商品の伸びもあって、年二割もの向上をみせている。
「昼、夜のピーク時には大変に混みますので、これを円滑にどうさばいていくかが大きなポイントです。いろんなお客様がいますから、注文のメニューがすぐに出てこないとイライラして怒り出す人もいるんです。若いアルバイトの人たちはパニックになったりするときもあるんですが、これを一人一人の気転とチームワークで、スピーディに明るく対応していくことが大事なことと痛感しているんです」(畦間康弘店長)。
国内初の本格的な天丼チェーン。独自のオペレーションシステムに加え、親会社が商社であるので、新鮮で量的にも確保できる食材のバイイング機能もある。そして、最大の強味は消費者に支持されて、マーケットが拡大しているということである。
今後の出店計画においては、明年3月末には三〇店体制、さらに平成6年度までに直営出店で八〇店。同7年度にはFC出店を合わせて一〇〇店舗、売上げ一〇〇~一一〇億円のチェーン体制へと移行する。決して単なる目標ではない。てんやは女性客を吸引できる運営形態になっているので、後発の丼チェーンでありながら有利な出店戦略になる。
「……とはいってもまだまだ強化充実していく面がありますから、一店一店地道に積み上げていくことが重要です。そのためには本部スタッフはもとより、現場の店舗スタッフのパワーアップが要求されてくるのです。結局はチェーンシステム、オペレーションシステムといっても、最後のところはマンパワーが、ハートが大事になってくると思うのです」(総合企画室近藤室長)。