不況下伸びる低価格チェーン店 「バーミヤン」「サイゼリヤ」
すかいらーくグループの(株)バーミヤン(東京都武蔵野市、0422・33・1789)の中華FR「バーミヤン」は九四年度、客単価は四・二%下げて九五六円としたものの、日商ベースの売上げは二二・八%増、客数二八・五%増と好調で、九五年度末には一〇〇店体制となる。
同グループのガストが「ブームの頃の一店当たり年商二億円ペースが現在一億六〇〇〇万円ペースにダウン」(すかいらーく広報)、夢庵も「客単価ダウン分に客数が追いつかず、売上高が下がってコストアップになり利益を圧迫」(藍屋・小池社長)しており、低価店経営のむずかしさを露呈している。
バーミヤン好調の要因を同社の酒匂堅次常務は「厨房に鍋の火を残しており、料理にこうばしさがある」と中華の基本である鍋ふりを上げる。中華専門店聘珍楼、東天紅と同じことをしているということである。ただ違うのはフードメニューを四〇品強におさえていること。要は品数が少ないため、特別の技術・知識がなくても繰り返しの訓練で専門店に負けない味を提供できるというわけだ。
中華特性が消費者ニーズの「健康」にマッチするということもある。FF、FRはどうしても高蛋白、高コレステロール、“冷凍”のイメージを拭いきれない。中華は野菜と肉を均等に使うためフレッシュな生素材をふんだんに使う。消化もよく老若男女に好まれる。
フレッシュ素材はやはりロスとの戦いとなる。現在一次加工できる素材は毎日群馬県の藤岡コミサリーで作り、当日作ったものを当日使うように全店に日配している。「売上げの一・五%のロスはどうしても出る」という。冷凍を使っても一%は出るといわれているので、限りなく一%に下げるのが目下の課題だ。
もう一つの特徴はお客の需要はすべて“食事”ということ。喫茶利用はない。FRが平均客単価一〇〇〇円前後だが、この中には喫茶利用も含まれており、ディナー時のみでは一五〇〇円位といわれている。バーミヤンの九五六円がいかに低価格かがわかる。
現在の平均店は八〇坪、九六席で平日三五〇人、祝祭日六〇〇人を集め、年商一億七〇〇〇万円を売上げる。しかし、二年前は一億五〇〇〇万円に下がった時があった。九三年6月のメニュー改定から少しずつ回復し、現在に至るという経緯がある。「当時は客単価が一三五〇円位だった。単価以上の質とボリュームを出さないとお客は取れない」。低価格のみでは勝負にならないと酒匂常務はいう。
店舗投資も鉄骨のピロティの半値の価格で平おき木造店が開発され、一億六〇〇〇万円から八〇〇〇万円強と初期投資を下げている。人件比率二八%、食材比率三五%とマスのメリットも出てきており、数年後には株の店頭公開も予定している。
不況に強いとされた低価格の牛丼を扱う吉野家が長引く不況に客数を落とし低価格神話に危険信号を点して久しい。絞り込んだメニューで安さとシステムの簡素化を実現し、それが最大の強みであったが、ボリュームと安さプラス“何か”を客は望み始めた。FRすかいらーくから本格転換して一年半たった「ガスト」も“低価格”の斬新さは薄れ、それだけでは客を呼べないことを図らずも実証した格好となっている。バブル崩壊後「低価格」がキーワードになっていたが、やはり本質は「価格以上の質とサービス」と改めてレストランの質が求められ、早くも急増した低価格店の淘汰が始まっている。低価格店の中で、中華FR「バーミヤン」とイタリアンFR「サイゼリヤ」は客数を伸ばし好調だ。ともに単品メニューは三〇〇~四〇〇円台を中心とし、メニューミックスの楽しさ訴求に成功しており、ディナー時の客単価は八〇〇~九〇〇円台である。不況下に業績を伸ばす二チェーンに学ぶ店舗は多い。
イタリアンレストラン「サイゼリヤ」((株)サイゼリヤ、千葉県船橋市、0474・35・6201)は昭和43年の創業以来、一貫して低価格レストランを展開する元祖低価格レストランである。現在平均客単価は八一〇円。昨年の6月に全面的メニュー改定を行い、一割下げている。三八〇円、四八〇円を中心にしたフードメニューは別表の通り。サラダ、主菜、ドリンクで一〇〇〇円におつりがくるという勘定だ。初めてメニューを見て驚いた人は料理が運ばれてその質の高さに二度びっくりする。
全店直営で九一年三八店(売上高四五億円)、九二年六一店(同七〇億)、九三年七四店(同九三億)、九四年度は一〇一店となり、今年はさらに四〇店の出店を計画し一八五億円で三〇%増の売上げを見込んでいる。不況下でチェーンを磐石にし、伸ばしてきた。
特に昨年6月のメニュー改定では従来の価格力をさらに強化し、イタリアン・スペシャリティーレストランのコンセプトをより鮮明に打ち出した。売れ筋特化で食材を絞り込み、消費回転を高めて鮮度アップを図っている。
価格を下げたことが「もう一品」の選択食数増に寄与しており、購売点数は平均すると三~四品になっている。バーミヤンとは相反して、サイゼリヤはいろいろな利用動機を取り込むため、喫茶利用も破格(たとえばコーヒーとカントッチョ〈フィレンツェ特産ビスケット〉で二二〇円)で楽しめる。
「“食べることは人間の基本的本能で、提供する企業も食を楽しまなくてはいけない”という正垣泰彦社長の哲学のもとにチェーン化を行っている」(広報)
七〇坪、一一〇席の標準店で月商一一〇〇万円が平均売上高、今をチャンスととらえており、確立できた低価格ノウハウを武器に大きな飛躍を図ろうとしている。