シェフと60分 東京ベイヒルトン中国料理「王朝」宮本荘三料理長

1995.06.19 78号 9面

「料理人は手間を売る仕事だと思っている。手間を惜しむと良い料理はできない」といい切る。また、「何かありきたりでないものを作るのが好き」というだけに、中華料理をベースにしながら、和・洋の味わいをミックスさせた演出をする。

例えば、フライパンだけでは似たような味になるため、オーブンで焼き軟らかい肉の仕上げにしたり、箸のかわりにナイフとフォークを使う料理を一品設けたりして、「メリハリを効かせている」。

自らが料理長となり、初めて“四季”というのは本当に大切なことだと実感する。

かつては中国野菜も少なく、限られた時期のみ中国から送られて来たもので、ごく自然に季節を表せた。今は、一年中豊富な種類の中国野菜が出回り、季節感がなくなった。

「逆に日本の旬の素材を使って中国料理に季節感を出している。今の季節では、カツオ、山菜のこごみなどで、ソースを中国風にするのです」。和と中国料理のドッキングを、どうメニュー化させるかに挑戦する。

「これもすべて基礎をキチンとしておけば、いろいろアレンジでき、それが料理の面白いところ」という。根っからの料理好きであり、チャレンジ大好き人間である。

「宮本、コレをやれ!」と声がかかるのを待ちながら、いつもスタンバイの状態にしていた修業時代。

フライパン洗いを一~二年みっちりやる。「当時は見て覚える時代」、フライパンの中のものをなめて味を叩き込んだという。

厨房内は、一番鍋、二番鍋、三、四、五番鍋という段階がある。それぞれ一番鍋はフカヒレとか伊勢エビのみ、二番鍋は料理長の補佐、三番はタレを使っての炒めもの、四番は揚げものをやりながら酢豚、麻婆豆腐、五番はそばを揚げたり、焼そば、炒飯のみを担当する。

五番鍋から始まった料理の世界。ポジションアップには、「常に与えられた仕事を早めに終え、いつも何かありますか、何かありますかというのが日課だった」という。

自分の仕事をキチンとこなし、余裕をもっておけば、ほかの仕事を「やってみろ」といわれた時やれるチャンスが巡って来るわけだ。

「何も知らずにこの道に入ったのが、逆に良かった。料理学校へ行った人は、あるイメージを持って仕事に就くため、続かない人もいた。学校では、フライパン洗いから始まりますとは教えませんから‐‐」と、専門学校の授業のあり方にも一苦言。

料理は、いつも緊張したほうが良いという。

昨年、上海でオリンピック開催年に行われる中国料理世界コンクールに個人として参加した。

見事に第二位という栄冠を勝ち得たが、初めての場所でのコンクール。様子もわからず不安な中、トップバッターに指名され、あとは居並ぶ観客の前での実演だ。

「必死でした。料理の鉄人のように助手もいませんから」と当時の緊迫感を噛みしめるように語る。

「終わった後は一仕事終えた感じでした」。こうした緊張感は、レストランでおこなうイベントの時、メニューをガラッと替えた時など、あらかじめ入念なチェックの上、ゴーサインが出ているはずだが、お客の反応は気になるところ。

「ワクワクする良い緊張感です」。

厨房の中では、フライパンに食材が入ったらとたんに口数が少なくなるという。

「熱中してやりたいからです。余計なことは考えないでやりたい」。二三人のスタッフを抱えながらも、自らフライパンを持つ姿は、根っからの料理人だ。

何でも勉強しなくてはと、ジャンルを問わず食べ歩く。食べて良いと思うものは、メモをしておくが、カメラにも収めておく。

「写真だけでは時がたつと忘れる。両方で記憶に残し自分なりにアレンジしてメニュー入れ」、お客がどう反応するかが楽しみという。

食べたお客が人に話すことで話題ができる。「どこかで話題になれば今度はどんなものが出るのかと期待する」

作り手、食べ手の両方が楽しめるのが“料理”でしょうと余裕の一言だ。

文   上田喜子

カメラ 岡安秀一

昭和27年北海道生まれ。昭和43年中学卒業と同時に集団就職で上京し、新宿「美華」でラーメンの出前持ちを三年間経験する。

「この三年間は、料理に直接関係はなかったが、根性がついたと思う。後の雨や雪の日に出掛けなくて済む厨房の仕事は、どんなに辛くても我慢できた」と述懐する。

中華といえばラーメンしか知らなかった上京当初と違い、だんだん知識を得るに従い、小田急ハルク「豪華」、銀座「東京飯店」へと店を移り、ポジションアップをする。昭和52年旧東京ヒルトン「星ケ岡」を皮切りに、以後新宿・東京ヒルトン「王朝」、浦安・東京ベイヒルトン「王朝」とヒルトン一筋で修行を続ける。

昨年は、第一回中国料理世界コンクールに出場、一二一人の参加者の中、見事銀賞を勝ち得た。

「次回はスタッフを率いて団体部門にも挑戦したい」と抱負を語る。

いつも何かにチャレンジし、緊張感を楽しんでいるようにも見える人である。

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