地域ルポ 東急新玉川線「用賀」(東京・世田谷) 山の手の“下町”

1995.09.04 84号 6面

東急新玉川線用賀は渋谷から一二、三分。東京は世田谷区の南部に位置しており、多摩川に近接した住宅街だ。駅の一日当たりの乗降者数は五万六〇〇〇人(九四年度データ)。これは横ばいという数字だが、駅前の旧厚木通りの交差点は人と車の往来で地域では最も賑わったところだ。この交差点は地域の要といった立地特性にあり、駅前東口通り、大山通り、美術館通りなどの商店街と結節し、地域の商業ゾーンを形成している。しかし、街は山の手の“下町”という雰囲気で、老朽化した小さな店舗が軒を連らねる。もちろん、ビルインの店舗も目につくが、住宅街を浸食して店舗を集積していったという印象で、商業ゾーンとしての広がりは小さい。ということは将来的にみれば、さらに商業集積が進む可能性があるわけだが、しかし、現状においては大手飲食企業の進出はまだといったところだ。

SBSの飲食分野はファーストキッチン、カプリチョーザ、京樽、カフェセクシオールなど大手チェーンを含め一三店が出店、地域最大の飲食空間を呈している。

これら飲食店舗の中でも最も大きく集客力を発揮しているのは、ハンバーガーチェーンの「ファーストキッチン」(地下一階出店)で、一日平均六〇〇~八〇〇人の来客数をみている。とくに日中と夕方は主婦やサラリーマン、学生で満席といった状態だ。

地域にはファストフードは近接地にモスバーガーしか存在しないので、駅に隣接するファーストキッチンは地域の憩いの場、語らいの場としての役割を果たしているのだ。

SBSの地上部分にも飲食施設が出店しており、地域住民や来街者の飲食動機を喚起している。

「カプリチョーザ」はタカノクリニックがオーナーのFC店だが、午後6~8時ごろにかけては常に満席状態で、他店にない吸引力をみせている。

イタリア直輸入のトマトベース、手作りの味、ボリューム感のあるメニューが評判で、とくに若い女性に訴求力を発揮している。

人気メニューはイカ墨のスパゲティ一五三〇円、ナスとホーレンソウ、ミートソース和えスパゲティ一五六〇円、トマトとニンニクのスパゲティ一五三〇円など。

客層の七割は二〇代前半までの若い女性、平日はサラリーマンやOL、土・日はファミリーやカップル客が主体となっている。

客単価は平日一三〇〇円、休日一七〇〇円。月商一四〇〇~一五〇〇万円。坪売上げ一日一万四〇〇〇円以上。高収益の店には違いない。

用賀駅の地下ホームから地上に出ると、そこは旧厚木通りの交差点だ。

北側の角地に大きなビルが建つ。平成5年9月末竣工。地上二九階、地下二階建ての「世田谷ビジネススクエア」(SBS)だ。

地上高一二〇mのノッポビルで、低層住宅やビルが多いこの地域においては、このビルだけが空高く突出するという形で、アンバランスなビル景観をみせている。

元東急の車庫があったところを再開発してのビル建設で、総工費六〇〇億円を投じて完成している。

事業主体は東京急行電鉄と東急不動産で、敷地面積六五〇〇坪、建築面積二七〇〇坪、延床面積二万九〇〇〇坪のスケールをもつ地域最大の都市空間だ。

施設は地上二九階建て高層ビルを加え、中層棟(地上五階、地下二階、同六階、同一階建て)四棟、低層棟(地上二階、地下二階建て)三棟および店舗(地上二階、地下一階建て)から構成されており、オフィス、物販、サービス、飲食店舗などを展開する。

街の賑わいとは別に、ビル施設でオフィスと商業ゾーンを形成しているということだが、オフィスビルには、日本サンマイクロシステムズをはじめ、NTTデータ通信、アップルコンピューター、マッキントッシュ、富士ゼロックス、東急コミュニティー、新キャタピラー三菱など三〇数社が入居、オフィス人口約三〇〇〇人を形成している。

同じSBSの低層棟一階部分に、日本市場に初めて登場するロテサリー・チキンレストランの「ケニー・ロジャーズ・ロースターズ」が出店している。

今年6月のオープンで、ノンフライあぶり焼きのチキン料理(低カロリー・低脂肪・低塩分)が売りものだ。この商品はアメリカ生まれで、米市場では九一年の開業以来、現在までに約二六〇店舗を出店している。

店舗面積七二坪、客席数八〇席。メニューは四分の一羽三八〇円、二分の一羽七四〇円、一羽一四三〇円など。FFレストラン同様にヤング層に受けているが、フライドチキン市場に切り込む出店形態になるだけに、その商品力は未知数だ。

平均客単価一〇〇〇円前後。用賀での成功を踏まえてチェーン化を進めていく考えだが、長期プランでは三〇〇店を出店する計画にある。

経営はカプリチョーザやハードカフェロック、トニーローマなどを展開する(株)ダブリュー・ディー・アイシステム(本社・東京)だ。

用賀駅前の交差点。通りの北側、世田谷ビジネススクエア前面のバスターミナルや広場が、山の手の街らしいパブリック空間を訴求している。

この広場に接して美術館通りを一キロメートルほど東に行くと、文字どおりに世田谷美術館にたどり着く。そこは砧公園の一角で、広い緑の空間が展開する。用賀はその最寄りの交通拠点であり、出発点でもあるので、この面での来街者も多いのだ。

交差点から上用賀および弦巻方向に伸びているのは大山通りで、ここは江戸時代からの旧街道筋だ。

山の手にしては時代に取り残されたような古い商店が軒を連らねており、昔の街道筋といった風情を残している。

車の往来や人通りの多いところだが、飲食店舗はとんかつ、すし、小料理屋といった小さな店が四、五店存在するのみで、この面での活気は乏しい。

交差点から一四〇~一五〇m、通りの左手に真言宗智山派の瑜伽山真福寺があり、昔はこの通りは門前町として賑わっていたようだ。

通りを一〇〇mほど前進すると、馬事公苑通りにぶつかる。用賀四丁目の交差点から馬事公苑前まで、南北約二キロメートルの通りで、通りに面して店舗が点在するが、集積度は小さい。

飲食店舗もスナックや居酒屋、小料理店などがわずかに展開するのみで、大山通り同様に賑やかさはない。

道路を挟んで「みこし寿司」の真向かいに、これもハデな外装の中華レストラン「東秀」が出店している。

(株)東秀(本社/東京・世田谷)の経営で、オープンして一〇年になる。

東秀は世田谷地区を勢力地盤にして、FC店を含め四〇店近くをチェーン化しており、同地区では知られた存在の飲食チェーンだ。

用賀店は店舗面積二〇坪、客席数一七席(カウンター席のみ)で、特製ギョウザ(六個)一九〇円、ラーメン三二〇円、カントンメン四二〇円、中華丼四五〇円、マーボー丼四二〇円、ホイコーロ定食五六〇円が人気メニューだ。

客層は学生、ヤングサラリーマンが主体で、客単価は六〇〇円前後。日商一五万円。営業時間午前11時から午後11時まで。無休。

東秀の右隣に軒を連らねているのは「珈琲館」だ。オープンして一五、六年になるが、この店はFC店だ。店舗面積二〇坪、客席数四五席。

コーヒー四〇〇円、トースト三〇〇円、スパゲティ六〇〇円、ピラフ六八〇円、カレーライス七〇〇円などコーヒー、ドリンク類一六品目、フードメニュー一六品目を揃え、地域のレストルームとしての機能を果たしている。

客単価七〇〇~八〇〇円前後。日商一五万円以上。営業時間は平日午前8時~午後10時、日・祭日9時~9時、無休。

用賀駅前東口通り。交差点の角地に用賀駅入口が展開するが、この通りには食品スーパーや八百屋が出店しており、買い物の主婦などで賑わっている。東西五〇mほどの短いショッピングゾーンで、周辺は即住宅街という立地特性にある。

飲食店はお好み焼き、ラーメン、スナック、小料理店などが点在するが、すべて地元客相手で、地域密着の運営形態にあるという印象だ。

表の通りに出て南方向(玉川通り)に歩く。首都高速三号線の手前左手にモスバーガーが出店している。

平成3年11月オープンのビルイン店舗でFC店だ。店舗面積二〇坪、客席数四〇席。地域ではSBS地下一階出店のファーストキッチンと並ぶハンバーガーチェーンだ。

このビルは平成3年10月に竣工した店舗ビルで、駅ホーム入口を併設するとともに、地下一階に居酒屋「村さ来」「和民」などの飲食チェーンも出店している。

しかし、用賀地区の商業および飲食施設が集積するのもこの辺りまで。だが、商業ゾーンの面としての広がりは、まだまだ可能性を有しているという印象だ。

駅前の交差点に戻って旧厚木通りを行く。この通りは玉川通りに結節するが、昭和52年、新玉川線の開通に伴って道路を拡幅、地域のメーンストリートとしての機能を発揮している。

交差点から三〇mほどのところ、道路に面してハデな看板の回転ずしが目に入る。8月1日にオープンしたばかりの「みこし寿司」だ。

(有)大成フードコーポレーション(本社/東京・大田区)の直営店で、銀座、四谷、馬事公苑、町屋に次ぐ出店だ。

店舗面積四三坪、客席数七〇席。営業時間午前11時から午後11時、定休日なし。店の売りは江戸前のすしで、メニューの六割が生鮮、残り四割が冷凍素材で、他チェーン店にない鮮度の高さが自慢だという。

メニューは一皿一〇〇円、一五〇円、二〇〇円、三〇〇円の三種があり、これは皿の色で分けている。

客単価昼八〇〇円、夜一二〇〇~一五〇〇円。客層は若者からファミリー客まで、地域唯一の回転ずしだけに、独自集客力を発揮している。

月商一五〇〇万円目標。FC展開も考えており、年内に二、三店舗を出店する計画。

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