スイーツ、1兆5000億円の市場規模に CVS1800億円を突破

2013.12.02 417号 02面
商戦激化の中、各チャネルでは強みを生かした価値戦略が目立つ=阪急うめだ本店洋菓子売り場

商戦激化の中、各チャネルでは強みを生かした価値戦略が目立つ=阪急うめだ本店洋菓子売り場

 根強いデフレ基調と節約志向、消費の二極化などを横目に、スイーツ市場が質・量ともに国内を代表する優良市場に育ちつつある。有名店では1個500円のショートケーキが飛ぶように売れ、4粒2000円の限定チョコレートに長蛇の列ができる。配送料が別途かかる地方の旬の人気スイーツに、予約申し込みが殺到する。コンビニエンスストア(CVS)では高単価にもかかわらず、売り場が急激に拡大–閉塞感からの打破を待ち望む日本国内を今、食の側面から強く後押ししているのが、スイーツだ。(日本食糧新聞・村岡直樹)※日本食糧新聞「スイーツ特集」から転載

 ◆市場規模:躍進目立つ駅ナカ 路面店は地方で格差

 スイーツ市場は昨年、路面店を除くCVS、量販店、百貨店、駅ナカなどの交通施設でいずれも前年を上回る市場規模を記録、販売金額ベースで前年比約1.9%増となる1兆5000億円で着地した。大型のヒットアイテムは生まれなかったものの、CVSにおけるワンハンドスイーツなどの低価格帯アイテムが浸透。百貨店・路面店の高価格帯アイテムもギフト需要で堅調に推移した一方で、中価格帯のアイテムは苦戦を強いられた。

 伸長傾向が強いのはCVSと交通施設で、CVSでは店舗数と売り場面積がともに拡大、和スイーツなどの新ジャンルも定着し、1800億円を突破した。和スイーツは震災影響で来店頻度が上がった高齢者以外にも、30代以上の女性の人気を獲得、100億円に肉薄する規模にまで到達している。

 また、近年急速に台頭している駅ナカ施設は、土産需要に加え、お手頃価格の人気ショップ店が数多く出店。百貨店不在のエリアでもパティスリー系のスイーツが手軽に購入できることもあり、百貨店とCVSの各長所を併せ持つチャネルとして注目を集めている。全国の駅ナカ・駅ビル施設を合計したスイーツ類の市場規模は、小売ベースで2000億円前後に達し、空港やサービスエリアを含めた全交通施設において半分以上を占める。

 トレンド発信地である百貨店は近年ほぼ横ばいの状況が続いており、駅ナカや通販スイーツとの競合が激化。市場規模は約4000億円前後でほぼ安定しているが、08年のリーマン・ショック以前は4500億円前後の売上げに達していたことを考えると、やや減少傾向にある。中元・歳暮シーズンでは贈答機会が減少する中で、多彩な価格帯のアイテムを展開、若者・女性層をつかんでいる。

 量販店もホールセール大容量から個食向けまで近年、幅広いアイテムが揃っており、2500億円前後の安定した規模を堅持。一方で高価格帯アイテムの需要が伸び悩んでおり、特売による集客アップが必須の状況だ。ただし、プレミアム商材の品揃えに着手するチェーンも多く、今後はある程度の高単価商材の躍進も期待できる。

 一方で近年、苦戦が続いているのが、パティスリーや和菓子店などの専門路面店。店舗間格差が如実に表れ、特に地方における店舗経営は厳しさを増す。パティシエ人口の増加に反し、昨年も前年を3%割る2600億円で着地した見込みで、通販の取り扱いや百貨店の催事参加などの取り組みが求められている。

 ◆トレンド:鍵握る共感・“コト” 明るさ・大人数・らしさ

 ●多様化極める購買理由

 スイーツを購入する理由は以前まで、ギフト目的や「おいしいものを食べたい」という単純なものだったが、平成以降、ジャンルの多岐化やメディアの注目度アップなどにより、スイーツを通じて自らの見聞を広げたり、対人関係のコミュニケーションツールとして活用させたい需要が高まっている。これを背景に、近年では社会情勢や時代ごとの消費者心理、国際的な出来事などとリンクした提案訴求が主流化。背景にあるのは消費者の共感喚起だが、嗜好(しこう)品であることの特性を生かした、非日常的な“コト作り”が重要性を増している。

 この状況下、今シーズンのスイーツの主要トレンドを大きくまとめると、(1)前向きな明るさ(2)大人数でのシェア(3)スイーツらしいスイーツ–の3点が考えられる。

 「前向きな明るさ」は低価格志向や節約疲れなどを背景とするもので、「プチぜいたく」や「元気」「高級」などのキーワードが挙げられる。例えば昨年は大型のヒットジャンルは誕生しなかったが、CVSドリップコーヒーと安価なワンハンドスイーツの組み合わせが全国的に浸透した。日常消費の代表格といえるが、今年は春先から高単価スイーツの人気が上昇。例えば素材提案型のスイーツとしてかんきつ類やクリ、豆乳(大豆)などを活用した差別性の高いアイテムが再度脚光を浴びている。

 「大人数でのシェア」は、プチ土産に代表される対人関係のコミュニケーションツールとしての需要を代表するもので、複数入りスイーツやシェアが可能な大型アイテムなどが相当する。同分野は量販店や百貨店チャネルで品揃えが充実しているが、例えばCVSでもファミリーマートでは今夏から5個入りの「みんなのカスタードシュー」を展開。「○個入りセット」や「○人分」などの分かりやすいメッセージを発信することで、潜在需要の掘り起こしが加速するとの見方が強い。

 「スイーツらしいスイーツ」とは、健康感や低カロリーなどから一線を画す嗜好品としてのスイーツを求める動きで、濃厚な甘味やズシリとくるボリューム感など「スイーツの王道」を行くアイテムを意味する。「ハワイアンパンケーキ」や「キャラメルポップコーン」のヒットは代表例だが、新鮮味がありながらも王道を行く点が共通している。

 ●本紙予想のヒットトレンド

 次に、具体的な予想をしてみる。近年のスイーツ市場はパティシエや製造メーカーの技能・技術に加え、原材料メーカーのアプリ(最終製品)提案も、重要な鍵を握っている。特に08年からは原料メーカーでは展示会などによるアプリ提案が本格化、有名パティシエが採用する例も多い。冷凍パンケーキによるパンケーキブームや、マカロン素材によるマカロンの日常販売化などが近年では知られる。

 その中で今シーズン注目したいのが、パウンドケーキを“生”化した「生パウンド」と、コーヒー人気で注目を集める「コーヒースイーツ」だ。

 前者は素材系メーカーが発案する新ジャンルで、春先から着実に導入店が増加。人気チェーンからパティスリーまで広がりを見せている。通常のパウンドケーキと比較してしっとりめの生地の中に、ふわりとしたクリームを含有するもので、手作り感が特徴だ。鮮度の高さや、取り分け時にトロリとあふれるクリームの形状なども国内消費者の好みのポイントを押さえており、年末年始にかけてブームの可能性が高い。

 「コーヒースイーツ」は従来までのモカスイーツからの派生系と呼ばれるもので、コーヒー独自の品種や産地、文化性などを最終製品に落とし込むことで、複合的な提案が可能。ケーキやゼリー以外にもプリン、シュー、ガトーなどジャンルを選ばずに開発できる強みもある。ショコラにおける産地人気に続くムーブメントとして注目に値するだろう。

 ◆注目ジャンル:トレンドの発信地 CVSスイーツ付加価値商材も

 百貨店と並ぶスイーツトレンド発信地として、注目を集めているのが、全国で強力な販売網を持つCVSチャネルだ。09年のローソン「プレミアムロールケーキ」を皮切りに、有力チェーンが続々とオリジナルブランドを発表。パティシエの監修作品やタイアップアイテムなど話題喚起型の品揃えも充実し、現在では強みであるマーケティング戦略を生かした付加価値商材が多数並ぶ。

 CVSスイーツは昨年、カウンタードリップコーヒーと相性の良い焼き菓子などのワンハンドスイーツを中心に、低単価商材が比較的好調に推移。また、「あんこや」(ローソン)など和スイーツの特化ブランドも登場し、売り場に変化が加わった。

 今シーズンは「セブンプレミアム」(セブンイレブン)、「Uchicafe」(ローソン)、「Sweets+」(ファミリーマート)の3強を中心に、高価格帯商品も多く登場。男性向けアイテムも充実しており、需要期に向けてのラインアップが揃った。

 富士経済によると今年のスイーツ市場の小売ベースの見込みは前年比2.5%増の1812億円に達するという。猛暑の中、パフェゼリーやプリンなどの売上げも好調に動いていることから、2000億円規模までは無風で上昇しそうな気配だ。

 ◆課題:パティシエの身分保障・格差が 原材料の価格も急騰

 売り場の拡大を背景に、食市場としての進化を果たしているスイーツ市場だが、近年では「人=作り手(パティシエ・パティシエール、以下パティシエ)」「モノ(原材料)」の両面で新たな課題に直面している。パティシエ職の身分保障と格差、そして原材料価格の急激な高騰だ。前者はパティシエ人気のいわば“裏側”に存在する、組織体系や国策にも起因する問題で、後者は国際的な情勢の変化と食糧問題に端を発する。

 ●地方での格差深刻

 90年代以降、日本人パティシエが国際舞台で活躍するにつれ、パティシエ人気は短期間のうちに過熱。「将来なりたい職業」では上位常連に名を連ね、メディアでは連日、スターパティシエがカリスマとして登場している。人気パティシエの新作には予約が殺到、1個800円のカットケーキが飛ぶように売れ、人気・収入ともに若手の憧れの的となっている。パティシエの総人口は日本国内で約30万人と推定されるが、この数値は20年前と比較して約6割増加した。

 一方で、パティシエ間の格差、特に地方における店舗間格差は深刻だ。一部、ファンを多く囲み、通販チャネルでの取り寄せスイーツなどで成功を収めている店舗もあるが、ここ数年は閉店・休店数が増加。都市集中型の人口問題に端を発することに加え、手頃な価格で良質なアイテムを揃えるCVSや量販店が進出していることから、苦戦を強いられている。地方出身の若手パティシエが都内で修業を積み、地元で成功を収める–そのケースは近年、減少している。

 また、パティシエの身分保障に関しても課題が多い。パティシエに就くためには製菓学校での基本的な知識・技能の習得と実地での研修を経て、製菓・調理関連の資格を取得するのが一般的だが、教材も統一されておらず、資格認定に関しても統一性が薄い。大手ホテルや料飲店、人気パティスリーなどに所属するほかは、コンテストに出場する機会も少ない。

 フランスではパティシエは医師や弁護士と並ぶ地位とされ、国策での身分保障や表彰制度が存在する。日本における食の最先端をいくスイーツ市場だが、欧州と比較すると、その対応体系は未熟だ。業界団体の垣根を越えた、行政との連動が不可欠となっており、今後は具体的な対応が必要となるだろう。

 ●原料高騰も価格転嫁厳しい

 原材料価格高騰によるコストプッシュも、近年市場に打撃を与えている。世界的な人口増を背景に、スイーツの原料である乳・小麦粉・油脂・砂糖などの需給がタイト化している。乳・小麦粉・砂糖は国策も絡み、油脂の原料油種も含め、TPPによる安価・粗悪原料が出回る可能性もある。いずれにしても原材料も中国を中心に世界的な需要が活発化している状況で、今後も解決の望みは非常に薄い。

 原料相場・価格の高騰は08年のリーマン・ショックを契機に注目されているが、昨年からはさらに一段、高騰のレベルが上がっている。原料メーカーでは価格改定を通じた収益確保が不可欠な状況で、これに応じたスイーツアイテムの値上げも重要になる。嗜好品であるスイーツの場合、付加価値提案による価格転嫁は他の市場と比べ実施しやすい特性はあるが、人気パティシエや人気ブランド・製品に限定されるものであり、特に量販店スイーツなどでは販売チャネルの特性上、非常に困難だ。

 また、年末からの円安もコストプッシュを大きく後押し、昨年9月比でレートは約25%円安に振られるなど、これが直接的な調達コスト増に直結している。輸入に依存する原料メーカーでは継続的な価格改定も視野に入れており、原料の大半を海外に依存する国内スイーツの問題点が浮き彫りとなっている。

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