アポなし!新業態チェック(89)「のものキッチン」秋葉原店

2014.08.04 425号 07面

 ●JR地産品ショップに併設の飲食店

 ジェイアール東日本フードビジネスは3月、秋葉原駅中央口改札内に「のものキッチン」をオープンさせた。「のものキッチン」は独立した飲食店ではなく、ジェイアール東日本商事が開業した、地産品ショップ「のもの」2号店の2階に設置された飲食スペース。「のもの」とは「地域と首都圏がつながる場」として東日本の食を中心に地域の製品を紹介する地産品ショップ。現在、JR東日本の上野駅と秋葉原駅に2店舗展開し、上野店には喫茶コーナーである「のものカフェ」が、秋葉原店には「のものキッチン」が併設されている。店名の「のもの」は、「旬のもの、地のもの、縁のもの」というコンセプトに由来する。

 「のもの」で販売される商品はそのときどきで変化するため、「のものキッチン」のメニューもそれに応じて入れ替わる可能性があるが、主なメニューはカフェスタイルの「東北盛合せ丼」(単品890円/ドリンク付き1090円)や「信州いろは堂おやきセット」(690円)など。「おやきセット」は、おやき5種類からお好みで2個と好きなお茶を選べる。ドリンク類は「ブレンド珈琲」(300円)の他、「奥久慈紅茶」(300円)など地域の特産品も取り入れている。

 店内では、「各地域の食や旅行に関する情報発信」を行い、JR東日本の沿線各地を鉄道で旅する気分を盛り上げる。また、各地の食材や食文化にこだわったメニューを提供するだけではなく、地域の食材を採用することで新たな生産者の発掘をも狙うという。

 この「のもの」プロジェクトが、今度どのように展開するのか興味深い。

 ★けんじの評価

 JR各社は、民営化されてからさまざまなビジネスの展開を行っており、改札内のスペースを商業化することを指す「エキナカ」のように、JRが始めた新規事業のアイデアが汎用化され、全国に広まったという例も決して少なくない。

 そうしたJRの旺盛なビジネス志向を考えたとき、この「のもの」プロジェクトの微妙なニュアンスが、以前からずっと気になっていた。商品を販売するビジネスとして事業化するには、どうも店舗の規模が中途半端であるように思えるのだ。特にこの秋葉原店は、上野店よりもさらに(物販の)売場面積が小さくなったようだし、改札内にあるという点でも上野店より集客要素は低くなる。民営化当初ならばともかく、現在のJRが商業店舗の基本セオリーである売場面積と売上高の関係を知らないはずはない。しかも、「のもの」の仕掛け人は、あのエキュートを立ち上げた人物だというのだから。

 とすれば、回答はひとつしかない。「のもの」とは、流通業のプロジェクトではないのだろう。「モノを売る」ことを目的とした店ではなく、JR東日本沿線の地域活性化を目的とした地産品のショールームあるいは(おそらく)ワークショップとしての機能を担ったスペースに違いない。それは、地域の製品や組織や人材をつなぎ、育成するといった、もっと遠大なプロジェクトの一環なのだろう。

 そう考えると、飲食スペース設置の目的のひとつは、店舗を運営するためのコストと人材を確保するためではないのかとさえ思えてくる。もしそうだとしたら、JRという企業は、何と恐ろしいほど奥が深い会社なのだろうか。

 (外食ジャーナリスト・鷲見けんじ)

 ◆鷲見けんじ=外食チェーン黎明期からFFやFRなどの動向を消費者の目線で見続けてきたアンチグルメな庶民派ジャーナリスト。顧客の気持ちを外食企業に伝えるべく甘口辛口を取り混ぜた乱筆乱文でチェーンの新業態をチェック。朝マックとロイヤルホストのカレーフェアをこよなく愛する外食ウォッチャー。

 ●店舗情報

 開業=2014年3月7日/所在地=秋葉原駅中央改札横(改札内)

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