フードコンサルティング 上場企業にモノ申す(42)ヒューマンウェブ 注目される食の6次化企業
まるでITベンチャーのような社名だが、「ガンボ&オイスターバー」と聞けば、フードビジネスに関わる方なら、一度は耳にしたことがあるのではないか。出店は直営のみであり、店舗は都内と関西エリアが中心のため、地方での知名度はまだまだ低いが、「カキ料理」という独特のジャンルにおけるチェーン展開の先駆者として、創業から15年かけて今年3月に東証マザーズに上場を果たした。
◆海洋深層水で洗浄してから出荷
同社の上場決定を聞いた時は正直、驚きを禁じ得なかった。少しずつだが、毎年お店が増えてきているとは感じていたが、まさかオイスターバーが上場できるとは思いもしなかったからだ。
ご存じの通り、カキは貝類の中でも独特の風味と食感があり、はっきりと好みが分かれる食材であることに加えて、栄養価は非常に高いとされながらも、特に火を通さない生ガキは食中毒が起こりやすく、小さい子どもや高齢者、病気治療中など、体の抵抗力が弱い人は避けた方が良いといわれるくらい、クセの強い食材でもある。皆さんの周りにも、「生ガキにあたった(食あたりになった)」という人がいるのではないか。
そのことは当然ながら、生ガキを扱う同社が一番よく分かっており、直営店への出荷に際しては、富山県にある自社センターにいったん集荷し、富山湾の海洋深層水を2日近くも掛け流して洗浄することで、厚生労働省が定めた細菌検査の基準よりも、はるかに厳しい基準をクリアした生ガキだけを出荷しているという。
◆生産から販売まで「食の6次化」実行企業
以前、当連載にて「塚田農場」を展開する「エーピーカンパニー」を「食の6次化企業」の先駆けとして取り上げたが、同社も「食の6次化企業」として、昨年から岩ガキの種苗生産を行う「中尾水産テクノジー」を愛媛県南宇和郡に設立したことで、生産から洗浄加工(日本かきセンター)、卸及び小売(直営店)の一貫した流通体制が整った。
「食の6次化」については、数年前から農林水産省が音頭を取って進めているが、ここ最近になってようやく同社のようなチェーン企業が、主にお客さまに向けて自社の食の安全を訴える手段として取り組みを始めてきたなと感じる。
◆なんと東大と共同研究も
さらに同社で特筆すべきは、沖縄県の久米島において「完全ウイルスフリーのカキ」の生産方法と、カキ貝のエサとなる藻類の栽培の研究を東大と続けているのだ。飲食業で東大と共同研究している会社は聞いたことがない。
もし、「あたらない生ガキ」が大量生産できるようになれば、同社の生ガキを扱う飲食店が一気に急増することは間違いないだろう。特に、寿司店や海鮮居酒屋などは、本当は値段も取れる生ガキを扱いたいのだが、食べた客の食中毒が怖くて出せないというのが本音だからだ。
この「あたらないカキ」が世に出始めた時、同社にとっては今回の上場に次ぐ第二の成長期が始まるのかもしれない。
●フードコンサルティング=外食、ホテル・旅館、小売業向けにメニュー改善や人材育成、販売促進など現場のお手伝いを手掛けるほか、業界動向調査や経営相談などシンクタンクとしても活動。