外食の潮流を読む(33)独走状態「いきなり!ステーキ」に老舗あさくまが参戦し市場を拡大
ペッパーフードサービスの快進撃については4号前の本コラムで書いた。その最大の要因は2013年12月に展開がスタートした「いきなり!ステーキ」の出店ラッシュ。また同社で先にチェーンレストランとして定着している「ペッパーランチ」の既存店も好調なことが挙げられる。総じて同社はプラスのスパイラルに入っている。
「いきなり!ステーキ」はステーキ単品の業態で、ステーキというごちそうを提供する一般的なレストランの価格2分の1ないし3分の1で提供するというものだ。同店は客席を詰めたり、オペレーションをシンプルにすることでこのお値打ち感を創出している。すぐにまねられると思われてきたが、展開を開始して以来丸4年、同チェーンは200店舗を目前にして独壇場にある。この業態をまねるところが現れない理由は、お客さまが大挙して来店しない限りコスト高になるために他ならない。だから、ワンマンな企業体質でなければこの業態に追随することはできないと思っていた。
すると、想定通りの店が現れた。店名は「やっぱりあさくま」。展開する企業はステーキの老舗あさくまで、現在はテンポスホールディングスの事業会社となっている。同社は創業者の森下篤史氏が1997年に飲食業を対象とした厨房機器専門のリサイクル販売会社として設立し、現在は10を超える事業会社によって飲食業のトータルなサポートを行っている。
あさくまは1948年に名古屋で創業。創業家の近藤誠司社長が采配を振るい、ステーキを基軸として売上高180億円という比類ない業容を誇っていた。その後売上高30億円に落ち込みテンポスグループとなった。経営状態は安定しなかったとはいえあさくまは「ステーキの大衆化」をもたらした。テンポスグループとなってからリストラが進み、業績は回復して今期売上高93億円を想定している。
誤解を恐れずに述べると、あさくまは近藤社長という強烈な個性から、同様の森下氏に引き継がれた。森下氏は近藤社長が築いてきたあさくまの文化をリスペクトしている。だからこそ「いきなり!ステーキ」の快進撃をとらえて、あさくまのノウハウを持ってこの市場に参入したのである。客が好みのボリュームでカットしてもらい、それを焼いてもらうというメーン商品の提供方法しかり、店のオペレーションのあらゆるものが「いきなり!ステーキ」と同じである。しかしながら、私が思うに「やっぱりあさくま」の独創性は「コーンスープ」にある。クリーミーで濃厚な味わいは近藤社長時代に開発されたもので、あらゆる食ビジネスが対抗できない強さがある。
「いきなり!ステーキ」は今年200店舗を新規出店し、400店舗体制にすることを標榜している。一方の「やっぱりあさくま」は20店舗の新規出店を行うとしている。両者には規模の違いがあるが、消費者に選択肢が生まれることでこの業態はこれから文化として定着していくことであろう。
(フードフォーラム代表・千葉哲幸)
◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。