メニュートレンド:卵が巻けないシェフの起死回生オムライス
駅から少し離れた住宅街に位置しながら、週末には行列ができるカジュアルカフェ「Ailnoir(アイノワール)」。行列客のお目当ては、淡雪のようなオムライスだ。ベジブロスと鶏肉で炊いたチキンピラフを、ふわふわに攪拌した卵で包み、鉄板で提供するという異色尽くしの一皿で、週末ともなると日販90食以上の人気ぶり。オーナーシェフが料理人生命の危機を乗り越えて考案したという裏ストーリーが隠された名物料理である。
●独創的な「卵×チキンライス」
元気が出る健康メニューをテーマにした「Ailnoir」のオーナーシェフ、原賢一氏は、かつて一流ホテルに勤務し、シェフとしてフレンチからアジアンまでさまざまな料理を担当してきた。ところが2010年に交通事故に遭い、薬指と小指を負傷して鍋が振れなくなってしまい、28年間務めたホテルシェフを辞任。しばらく療養した末に、「パスタなどを丁寧に1人前ずつ提供することならできるかもしれない」と思い立ち、駅から少し離れたこぢんまりとした同店をオープンするに至った。
当初、メニューにオムライスはなかったが、お客から「オムライスが食べたい」という声が多数上がるように。しかし、原氏はフライパンがあおれず、オムレツを巻くことができない。苦肉の末に、オムレツを作らず、卵も巻かなくていい「チキンピラフの鉄板ふわふわオムライス」を編み出した。
作り方は、15~16種類の野菜の皮や葉を乾燥させ、「大雪旭岳原水」で戻したベジブロス(野菜だし)と鶏肉を、炒めた生米と一緒に炊く。このチキンピラフを鉄板に盛り、全卵を湯煎で温めながらかき混ぜ、さらに7~8分かけてしっかり泡立ててふんわりとかける。2段階のこの工程を経ることで、泡立てた卵が立ち、時間が経ってもぺしゃっとつぶれにくくなるという。
原氏によると、「ベジブロスに乾燥野菜を使うのは中華料理の乾物の技、その後水で戻すのは日本料理のだしをとる技、生米を炒めるのは洋食の技、鶏肉と炊くのはシンガポールチキンライスの技、キメ細かくふわっとした卵に泡立てる手法はスポンジケーキ作りの技」と、さまざまなテクニックが生かされており、「各国料理の技が駆使されているんですよ。他店ではなかなかマネできないでしょう」と胸を張る。
指が動かなくなるという料理人にとっては大きすぎるダメージを乗り越え、再び料理人人生を取り戻すことに成功した原氏にとって、同メニューは「人生復活の一皿、起死回生のオムライスです(笑)」。
●店舗情報
「Ailnoir(アイノワール)」 所在地=東京都杉並区高円寺南2-37-13 ハイム山川1階/開業=2013年/坪数・席数=12坪・18席/営業時間=11時30分~14時30分、18時~20時30分。水曜、第2・4木曜休/平均客単価=1500円/1日平均集客数=平日40~50人、休日100人
●愛用資材・食材
「シードル バル・ド・ランス オーガニック(中辛口)」 輸入業者=ル ブルターニュ(東京都新宿区)
甘すぎずすっきり
有機栽培されたリンゴの天然果汁100%のシードル。砂糖、香料不使用。「おいしいオーガニックのシードルは意外と少ない。同品はべたつかない甘さで甘すぎず、すっきり飲みやすい。シードルというと濁ったタイプが多いのですが、このシードルはシャンパンのように澄んできれいなのも魅力」と、原氏。同品を飲みたくて来店する常連客も多いという。
規格=250ml