外食の潮流を読む(58)二戸市の食関連事業者中心に、「世界標準の街づくり」を推進
岩手県二戸市では食関連の事業者が中心となって1月に「二戸フードダイバーシティ宣言」を行った。フードダイバーシティとは食の多様性のこと。宗教や食の主義、アレルギーによって人々には食の禁忌が存在することを認めることだ。
この事業者代表は日本酒メーカー・南部美人の代表(5代目蔵元)の久慈浩介氏である。同社では1997年より海外輸出を手掛けて現在では世界46ヵ国に輸出をしている。久慈氏のフードダイバーシティに対する見識は、このように販路を開拓する過程で育まれた。
「世界には食に禁忌を持つ人がたくさん存在することを知った。アフリカのウガンダに行ったが、スーパーでも空港ラウンジでも当たり前にヴィーガンやハラール対応をしていた。先進国といわれる日本でそれがまだできていないことにショックを受けた」。
こうして同社では13年にコーシャの認定を取得、19年1月には日本酒では世界で初めてヴィーガン認定を取得した。
南部美人とともに二戸の経済をけん引する小松製菓(代表/小松豊)でも19年11月にヴィーガン認証を取得した。せんべいとしては世界初である。
このタイミングで久慈氏は、世界中からやってくるインバウンドのヴィーガンの人々に飲食や買い物を安心して楽しんでもらうために、二戸市に「ヴィーガンフレンドリーなまち宣言」をしてもらおうと考えた。
しかしながら、これには大きな課題があった。二戸市の基幹産業の一つに鶏肉、豚肉、牛肉という三大ミートが存在し、二戸市はそれを推奨していることもあり、「ヴィーガンを強く表に打ち出すと肉を否定することにつながりかねない」という意見があった。
このような議論を重ねる中で、南部美人がコーシャの認証を取得していること、そして同じく二戸の経済をけん引している久慈ファーム(代表/久慈剛志)が同社の「熟レ鶏」という商品でハラール認証を目指していることから、ヴィーガンだけなく、コーシャ、ハラールも加えて、通常の人は当然のこと、食に禁忌を持つ人にとっても優しい「フードダイバーシティ宣言」をするに至った。目指していることは「世界標準の街づくり」である。
今回の宣言は二戸市の事業者3社が主体となり、それを二戸市、岩手県、ジェトロ盛岡が応援する。現時点での事業者は3社であるが、ヴィーガン認証マークはつかないものの世界中でヴィーガンと認められる米農家や、野菜農家、果物農家の人々とも交流を重ねて、二戸市全体の事業者と連携しながらフードダイバーシティを創造していきたいという。
事業者代表の久慈氏はこう語る。
「フードダイバーシティは、地域社会の住民を定着させ、多くの人々を呼び寄せ、雇用拡大にもつながります。人口が減少する地方都市に、ぜひ取り組んでいただきたい。二戸市がこれからそのモデルとなります」。
(フードフォーラム代表・千葉哲幸)
◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。