column:飲酒業態の未来を探る 「客単価アップ」傾向 昼飲み文化拡大も

“目的来店” 傾向が強い消費者ニーズと、調理オペレーションのシンプル化を見込み、居酒屋業態でも名物メニューを前面に打ち出すメニュー特化型の店が増えている。写真は「豚カツ酒場」をうたって今年5月にオープンした東京・目黒区「食事処GOEN」のメニュー群

お得感がある低価格業態とミドルアッパー業態の二極化が進む中、両ニーズを取り込もうと低価格帯の居酒屋運営企業がミドルアッパー業態に挑戦する例が増えている。写真は「世界の山ちゃん」運営会社が展開中の、「山 ワンランク上の世界の山ちゃん 有楽町店」。平均客単価は従来の「世界の山ちゃん」の倍で5,000~6,000円

すかいらーくレストランツが運営する「しゃぶ葉」はインバウンド需要の増加を受け、銀座エリアに7月、ブランド初のグローバル旗艦店「しゃぶ葉 マロニエゲート銀座2店」をオープン。店舗限定の「生本ずわい蟹食べ放題コース」(大人1万3,199円・税込み)や、北米・ヨーロッパ圏で人気の高い日本酒の飲み放題プレミアムラインを新設した
日本フードサービス協会の外食産業市場動向調査によると、2024年の外食需要はコロナ禍のダメージからの回復傾向がみられ、外食全体の売上げは前年比8.4%増、飲酒主体のパブレストラン・居酒屋業態では同5.5%増で引き続き伸長した。利用客数も前年を上回り、外食全体では同4.3%増、パブレストラン・居酒屋業態でも同3.0%増に。客単価は外食全体では同3.9%増で、パブレストラン・居酒屋業態が同2.4%増となったが、原材料費などのコスト高騰による値上げの影響が大きい。
インバウンド需要は好調で、24年は過去最高だったコロナ前の19年を上回り、25年も伸長が見込まれる。富士経済の調べでは、25年は前年比23.4%増の2兆818億円と予測。外食におけるアルコール需要の視点では、「外国の観光情報サイトで日本酒バーが盛んに取り上げられているようで、昨年ごろから外国人客が倍増した」(日本酒バー店主)、「日本酒を注文する外国人が増えている」(都内日本そば屋店主)と日本酒人気が高まっているが、「訪日外国人は料理目当てで、お酒をあまり注文しない」(日本料理店店主)、「ドリンクの注文数が少ないため、一定の売上げが見込める飲み放題コースを設けた」(神奈川県高級焼き鳥業態オーナー)といった声も漏れ聞こえた。
●「高い銘柄ほどお客に刺さる」 プレミアム消費も
飲酒業態の現状では、コロナ禍により消費者の行動が変容した影響が今も続く。「遅くまで飲み歩く人が減った」(新宿歌舞伎町居酒屋オーナー)、「午後9時以降が厳しい。以前はそれなりの客数が見込めたが、現在は遅い時間帯はスタッフも減らしている」(都内ビジネス街大衆居酒屋店主)など2次会ニーズは戻っていないが、「客の平均滞在時間が延びた。それに伴い、客単価もアップしている」(都内バル店長)、「たまの飲み会だから一つの店でたっぷり楽しんで帰る、という人が増えた。ドリンクの平均注文数もアップしている」(都内居酒屋店主)と、店舗単体で見ると好材料に転じた側面もある。
特に、昨今の“推し活”ブームでも見られる「自分が気に入った付加価値には大きな対価を支払ってもいい」と考える「プレミアム消費」傾向は、飲酒業態の顧客にも表れている。「日本酒、ウイスキーなどは高い銘柄ほどお客に刺さっている」(都内バー店主)、「飲みに行く回数を減らしているためか、価格の高い酒の注文が好調」(都内居酒屋店主)という。
●昼飲みが新しいレジャーに
一方で、一時激減した法人宴会需要は復活した。ホットペッパーグルメ総研の24年時点での事前調査になるが、忘・新年会における参加回数の見込みは「昨年度より大きく増えそう」「昨年度よりやや増えそう」の“増加派”が計12.7%、“減少派”が計3.2%で、増加派が減少派を大きく上回った。
その相手は「会社・仕事関係」(32.7%)の割合が最も高く、男性30~50代では「会社・仕事関係」の割合が4割を超えた。
新たな潮流として注目されるのが「昼飲み需要」だ。週末や休日に早い時間帯から飲む人が、右肩上がりで増加している。「明るい時間から飲むことに抵抗感がなくなった。むしろ、昼飲みが新しいレジャーになっている」(新宿歌舞伎町居酒屋オーナー)と、多くの飲酒業態が“昼飲み文化”の拡大を実感。早い時間帯の「ハッピーアワー」を打ち出す飲食店も多く、今後の飲酒業態は昼から夜までどの時間帯でも集客できる店づくりが求められる。
●大衆価格の居酒屋がミドルアッパー業態に挑戦
新店開業の傾向に目を向けると、「低価格帯の居酒屋運営企業が8000円程度のミドルアッパー業態に挑戦する例が目立つ」(飲食店PR会社)、「大衆価格の総合居酒屋はもう難しい時代。居酒屋でも“〇〇酒場”など専門性を打ち出し、高価格を維持できる演出が必要」(飲食店コンサルタント)。
コロナ禍以降、「外食ならではの特別感」を消費者が強く意識するようになった。加えて世界情勢を鑑みても、さらなる断続的な値上げが予想される今、飲酒業態の活況を支えるにはやはり「プレミアム感」が一つのキーワードとなりそうだ。