クローズアップ現在:主役になる厨房機器 “調理”の概念が変わる可能性
厨房機器や調理機器の進化と市場拡大が目覚ましい。昨今のブームによるニーズの高まりもあり、商談イベントで増えたと感じたのはおにぎり調理器だ。誰でも簡単にふんわりおにぎりができる機器は小規模で展開でき、利便性が高い。また、環境対策のひとつとして今後さらに着目されるだろうといわれている、電力や水を使わずに水素を利用した調理機器も興味深い。食品業界では、慢性的な人手不足が大きな課題となっている。厨房機器の発展は人手の代替に加えて人件費削減に役立つと注目されている。昨今では、機器で料理を作る様子をあえて客に見せて店舗PRにつなげる傾向も出始めている。万博でも、調理を支援するロボットが注目を集めている。
●万博にみる調理ロボットは均一性が特徴
「大阪・関西万博」のサスティナブルフードコートでは「たこ家道頓掘くくる」が開発して出店した、たこ焼きのお助けロボットが話題を作った。仕上げのソースをかけ、“丁寧に”客前にたこ焼きを提供する。むらのないソースがけは人間よりも確実性が高い。
万博のスイス館では、金箔などの食べられる食材を動力とした動くケーキが登場している。熊の形のグミのようなケーキトップは、滑らかな動きだ。
昨今注目されているTechMagic(以下、テックマジック)の調理ロボットは、万博やスーパーマーケットにおいても「仕事」をしている。同社開発の機器は、惣菜メニューのレシピを機器に事前設定し、タッチパネルの指示に従い具材を投入するだけで、あとはロボットが自動で調理する。操作する人間に調理技術は不要だ。火力や鍋、ヘラの回転方向を自動調整してくれるため、誰が調理しても同じ味が再現可能という。
●商談イベントで紹介最新厨房機器
その他、アスティナの食品向けのAI異物除去装置は、人の目により選別していた異物をAIが発見し、瞬時に除去してくれる。確実性が高く、漏れがないそうだ。
中西製作所は、調理向け専用水素バーナーを用いた水素燃焼型の調理機器を開発している。燃焼の際に酸素と結合して水(水蒸気)が発生する水素燃焼の特徴を生かし、食材表面をカリッと中はジューシーに調理することができるのだという。燃焼の際、二酸化炭素を発生させないため、環境にやさしく、かつ無臭であるためガスなどの調理に比べ食材本来の香りや味を保持できるとしている。
昨今のトレンドとして、これまで裏方に徹していた厨房機器を表舞台に出す傾向にある。前出のテックマジックの同機器は、飲食店では店内のエンターテインメントとして“仕事”を来店客に見せている。さらにスーパーマーケットの客が見える場所にも設置されている。客が材料キットを購入して自ら機械に材料と調味料を入れ、スイッチを押すと料理が出来上がる。スーパーにはイートインスペースがあり、そこで作りたての料理が食べられるということだ。平均調理時間が2、3分ということで、電子レンジ並みの時間だ。
●厨房機器の役割の広がり
厨房機器は「縁の下の力持ち」から、「店にとって集客に導く主役」へと変貌を遂げつつある。省力化に留まらず、環境に対応し、演出もする存在に変わってきている。家庭料理の概念を変えつつもあり、私たちの料理の形もさらに変化していくのかもしれない。
(食の総合コンサルタント トータルフード代表取締役 メニュー開発・大学兼任講師 小倉朋子)