外食史に残したいロングセラー探訪(16)ドトールコーヒーショップ「ジャーマンドック」
ドトールコーヒーショップの第1号店が開業したのは、今から28年前の1980年4月。それから数ヵ月後に発売が開始された「ジャーマンドック」は、手ごろな値段にもかかわらず、品質の高さ、おいしさに定評があり、現在、全国で1日2万食以上も販売されるという超ヒット・ロングセラー商品だ。
「ジャーマンドック」誕生のきっかけは、ドトールコーヒーの創業者、現名誉会長の鳥羽博道氏が、ヨーロッパ視察の際にドイツ・ハンブルグの街角で食べた一個のホットドッグ。「ソーセージとは、こんなにおいしいものだったのか」と鳥羽氏を感動させたその味が原点という。
だが、そのころの日本では魚肉ソーセージが主流であり、「粗びき手作り天然羊腸のソーセージ」など、どこを探しても手に入らなかった。おいしいソーセージを求めて世界各国を回り、ようやくドイツで理想の味を見つけたものの、当時は輸入規制対象商品だったために、日本への買い付けは不可能だった。ならば、「どうしても日本で、あの味を再現したい」と、国内のハムメーカーと共同開発をスタートし、使用する肉の種類、割合から、練り具合など何度も試作を重ね、ついに「あの味」のソーセージが完成した。
(株)ドトールコーヒー商品統括部購買部購買課の石田敬一氏によると、ソーセージの味付けに使われている香辛料は、ドイツのハーゲジュード社製。白コショウを主体に約10種類の香辛料がブレンドされたジャーマンドックオリジナルレシピで、日本人の味覚に合わせ、和風の調味料が隠し味に使われている。
人工の皮では出せない、独特のパキッとした食感は天然羊腸ならではのもの。オーストラリアやニュージーランド産を使用しているが、大量に均一サイズの羊腸を確保することは、なかなか大変らしい。
そしてソーセージの風味付けに欠かせないスモークチップは、ドイツから招いた技術顧問からのアドバイスで、いがらっぽさが比較的少なく、マイルドな風味に仕上がるブナ材を使用している。スモークした後、室内に蒸気を満たして肉の内部まで火を通すのだが、ジャーマンドック用のソーセージはチルドで流通しているため、食品衛生法で決められた基準よりも高い75度まで加熱している。
パンは、さくさくとかみ切れる軟らかさのソフトフランスパンで、少量ずつのラインで製造され、毎日、店舗に納品される。
食感をよくするためにソーセージの充填を増したり、テークアウトの際に紙の包装材では湿気で破れやすいためビニールにかえたりなどの改良はあるものの、味に関する基本的なレシピは開発当初のまま。現在でも鳥羽氏は、店舗視察の際には、思い入れのある同商品を必ず試食するという。四半世紀以上変わらぬ味は、これからも多くのファンに親しまれていくことだろう。
●店舗データ
「ドトールコーヒーショップ」/経営=(株)ドトールコーヒー/本社所在地=東京都渋谷区神南1-10-1/第1号店開業=1980年4月/店舗数=1144店舗(直営149店、FC995店、2007年12月末現在)
◆こだわり食材
ソーセージに使われているのは、牛肉と豚の腕肉、背脂。豚肉だけのソーセージとは違い、牛肉を入れることで、うまみが増し、味も濃くなるらしい。これを種類ごとにチョッパーでミンチした後、さらにサイレントカッターという機械を使って、細かくペースト状になるまで練り上げる。練り上がるまでの時間やカッターの刃の回転数は、現在はコンピューターで制御している。しかし、機械では判断できない微妙な肉質の差を、カッターマンと呼ばれる開発当初からの専従の職人が見極め、回転数や時間の設定などを微調整する。この練り具合で弾力と粘りが変わり、ソーセージの食感を大きく左右するという。
3種類あるホットドッグ用に、1食分45~47gのソーセージが1日平均約3万5,000~4万食分作られる。