宅配サービス、高齢化社会対応で2~3兆円市場に

2010.02.01 368号 04面

 わが国は2025年に65歳以上の人口割合が30%に達する。すでに08年には70歳以上が2000万人、75歳以上が10%であり、高齢化の進展は早い。この高齢化社会では「在宅」までお届けの「宅配」サービスが重要視されるといわれる。毎日の食生活にはきめ細かい、しかも継続的配慮が必要だ。高齢者の食生活に対して何を、誰が、何のために、いかにして、を考え、永続的に実践される仕組みづくりが不可欠だ。国の補助に依存し、新規参入の試みで挑戦する事業でないことだけは確かだ。これらの観点から高齢化時代の食サービス、特に在宅宅配について検討を加えたい。(ボンドゥマン代表・織田邦利)

 ◆食品宅配の歴史と特徴

 宅配の歴史は古く、特定食品の配給、家庭配達という形では戦前から存在していた。宅配の対称軸にある「店舗」による小売店頭販売は巨大化した商圏だが、これこそ戦後の人口増、高度成長の中で生まれた大量消費、1億総中流文化を背景に発展してきた合理的な販売の仕組みであり、その歴史は浅い。

 一方、宅配の原型としては食品外ではあるが郵便配達、新聞配達がある。牛乳宅配は明治初年から、酒店の配達も古くから存在した。酒店の配達は、残念ながら今は少なくなったがお客の勝手口接点の、御用聞き、お通い帳、量り売りがその特徴だ。牛乳の宅配は早朝、日配、チルド、牛乳瓶、受函を売り物にして現在でも1割の家庭が利用している。昔から牛乳宅配が定着している英国では、今でも高齢者世帯の30%の家庭に牛乳が配達されている。各地に広まっているヤクルトスタッフの乳酸菌飲料直売も在宅宅配の一つであり評価は高い。惣菜、食材の宅配業も堅調で、適量の食材と作り方メニューを合わせて省手間ニーズ、育児世帯向けなどで発展している。生協の宅配も業態拡大して、店舗販売と両立する形となっている。

 昔からある豆腐屋、野菜、魚などの在宅顧客相手の販売があるが、移動販売で顧客を集め、直接的にサービスを提供するという店舗販売の広がりの一つの形と考えるべきだろう。

 このような宅配事業の共通項は、在宅の顧客を主人公にお届けサービスをするという取引形態であり「住所、氏名の共有」「日々の注文に応じて即届ける」「一定の範囲の商品」「後払い、付け売り」という特徴がある。対面販売の強みも大きい。商品販売プラス、信用、人、情報の交流を組み込んだ、まさに「ネットワークビシネス」ともいえる大きな仕組みだ。高齢化時代にはますます存在意義が増すと考えられる。

 ◆店舗販売と宅配

 店舗販売は、「集客力」が生命線で、「不特定多数の顧客相手に売れ筋商品の陳列、セルフ・ディスカウントで大量販売する方式」であり、食品量販店がその典型。

 CVSも集客数と売れ筋商品が決め手。百貨店は呉服衣料から食品までの高級な品揃えと、店内催事を重要視している歴史のある“集客型店舗業”だ。店舗販売商品は価格、ブランド、賞味期限、内容表示などを顧客に分かりやすく表現し、大量陳列、メーカーの広告宣伝で、ヒット商品、売れ筋商品化する。単品管理も徹底されている。従って店舗は、売れ筋商品優先の売り場ということになる。

 団塊世代に代表される消費者層に支えられた大型店舗、広域チェーンの商圏での役割は大きい。しかし集客と売れ筋商品中心の販売方法は、高齢化時代の要請に合った食品に関する「何を」「なぜ」という観点は弱い。集客型店舗業が在宅まで商品を届けるという試みがあるとするならば、異なった業態の単位で取り組まれることになるだろう。

 宅配は顧客主体で目的の明確な商品群を、家庭を顧客接点にして対面販売する、すなわち人肌感のある販売方法。商品の確かさを互いに確認、信用して売る、しかも継続する「ネットワーク的売り方」だ。

 店舗商売以前に発展して、大量消費時代には停滞し、近年少子高齢化時代の到来とともに再度評価され、伸びている分野の販売方式である。

 ◆宅配市場と通信販売

 在宅市場のチャネルは宅配と通信販売が中心だが、ほかに訪問販売がある。

 通信販売は在宅顧客相手にカタログ、TVなどの媒体活用による販売方法で、店舗集客販売と対をなす。IT時代を迎えさらに発展した。しかし通信販売は一つの販売方法であり、顧客は店舗のウインドーショッピング好みでもある。百貨店が店舗とカタログ販売を両立させているゆえん。通信販売は媒体で商品を伝え、店舗コスト、在庫リスクが少ない分、購入価格が安くなる特典が売り物。また、通信販売ならではの特別品(産直品など)の購入方法としても重宝だ。事業コストは媒体と配送料。

 食品の本来の目的は、日々の食生活習慣の充実が基本にあり、高齢化時代は特に毎日の食の良質、安価、安全を実現させることにある。通信販売、宅急便はスポット購入主体で、毎日の食生活支援にはなり難い。また密接な人的、情報的サービスの交流も少なく、安全・安心優先の売り方ではない。この面では高齢者顧客の日々の食生活応援の主流は、在宅宅配に譲らざるを得ない。

 ◆既存宅配チャネル活用の新業態挑戦

 既存の宅配チャネル、例えば牛乳宅配網活用の新業態挑戦の試みは多いが、成功事例は極端に少ない。宅配の長期継続顧客であっても新商品提案の反応は厳しく、定着しない。豊かさ、こだわり、高級感などのコンセプトは宅配の継続的購入にならないのが実態である。川上発の宅配チャネル活用の試みは簡単には通じないと考えるべきだ。

 しかし現在も宅配商品として継続している食品、業態は、健康習慣につながる分野であり、売上規模も大きい。オールマークの牛乳宅配網では約1000万軒が宅配購入の顕在市場であるといわれている。実質的に全国あらゆる地域に数千ヵ所のチルド配送網の拠点が存在している。

 この健康応援という特定化された目的、役割を生かし、川上発で売る発想を変え、在宅高齢者が何を求めているか、病院が何を勧めようとしているかという「顧客発」の考えに立った時、初めて未来の展望が開けて来よう。

 毎日習慣的に必要とされる食品、継続購入可能な条件、食べて飽きない、継続使用の効果の実感、満足感など、これらが宅配継続のキーポイントだが、病院が指導する高齢者向け食品はこれらの目的、条件のすべてが関連すると考えられる。顧客こそ現在の健康習慣につながる宅配商品群にプラスすることを望んでいる。この高齢化時代の要請を全面的にとらえて、社会貢献の観点から戦略発想をすると可能性は限りなく広がろう。

 ◆高齢化時代と在宅宅配の近未来像

 (1)病院給食を宅配する

 現在は退院後の在宅の食事、特に嚥下(えんげ)機能障害、低栄養などの対応に問題があり、病院側の給食を在宅にまで配食できればという要請は強い。09年4月施行の新特別用途食品制度は市販食品の在宅療養向け使用促進が趣旨だが、基本的に普通の食事メニューで摂取、療養できるための病院施設と在宅を結ぶ給食の宅配ネットワークづくりは、喫緊の社会的要請だ。

 幸い既存の宅配サービスには発展の余地が残されている。この両者をつなげることは難題でもあるが、今後の在宅高齢者応援に必要な、確実で人間性のある社会システムには既存インフラの宅配システムの起用が最善と考える。

 飽きない、楽しい、食べやすいに加えて、効果的な栄養管理が行き届く食事は、現在制度的システムとして機能している病院給食の役割そのもの。病院給食と在宅を結ぶ在宅宅配を根幹とし、在宅配食が可能になる調理法、保存法、個別パック化と品質管理、配送方法を考え出すこと。個々の病院の院内調理の仕組みを合理的に改革することも問題対応の切り口だ。

 (2)顧客基点の宅配ネットワーク

 高齢化時代の食事は、医学、栄養学術に裏付けられた権威と秩序あるサービス提供でなければならない。この面で病院との連携、管理栄養士の指導体制は欠かせない。この認識を前提にして高齢化時代は「病院施設が情報発信拠点となり」「顧客基点の商品、人、情報がリンクされた在宅宅配ネットワークの時代」が目指す姿だろう。一方通行的に特定商品を売る仕組みの宅配から、顧客基点で考え、各方面から商品と情報に関する多面的なサービス提供ができる在宅宅配システムを実現させることだ。

 病院と連携する分野、企業発の特別用途食品をはじめとする高齢者向け予防予後食の分野と、これからの健康食生活を応援する商品群を扱うだけで、現在の宅配商品も伸び、業態拡大プラスの効果で2兆~3兆円の大規模な宅配市場創成となろう。今後の在宅顧客数、高齢者比率の予測だけでも十分な裏付数値になる。

 地域包括支援センターの活動と並行して地域栄養支援センター構想実現の議論不可避。介護制度と食事提供は高齢者応援の両輪。在宅宅配ネットワークによる在宅の食事と在宅介護ネットワークの共同歩調は現実的な近未来像だ。

 (3)新発想で既存インフラの最大活用

 少子高齢化、低成長経済では総需要の減少は必至。社会貢献度が高く、成長性の確実な高齢者需要に対する、小投資で高品質、低コストの実現は有効な戦略。高齢化時代の食は安価、安定供給、高品質が第一義であり、低コストパフォーマンスできる既存企業の合理的な生産システム、技術革新の応援が不可欠だ。このための既存の社会・企業のインフラ活用、コラボ、再編を意図した既存機能の有機的結合が鍵となる。

 多くの食品関連企業の参加、病院医療・施設介護との連携、病院給食と学校給食施設の合同、管理栄養士の役割拡大、地産地消最優先など、既存インフラの有機的結合が在宅宅配のネットワークを通じて顧客に貢献することだ。高齢化時代は顧客基点の宅配ネットワークと既存インフラのコラボだといえよう。

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