外食史に残したいロングセラー探訪(58)よしだきしめん エスカ店「八宝きしめん」
味噌煮込みうどんと同じく名古屋名物の麺といえば、きしめん。きしめんは、うどんよりも麺が平たい。名古屋の人々は、早くゆで上がるから経済的だと好んだという。1890(明治23)年創業の製麺所「吉田麺業」は、約40年前、現在の社長・吉田孝則氏から直営の麺どころを始めた。お客の7割はリピーターという、地元をはじめ全国のファンを魅了している老舗店となっている。
◆創業120年の製麺所が経営するきしめん屋 つるりと軟らかでコシがあるきしめん
「きしめんはペラペラな麺というイメージがある。本来の名古屋きしめんのおいしさを全国の方に知ってほしい」。1970(昭和45)年、老舗製麺所の4代目である吉田孝則氏は、名古屋駅近くに飲食店「よしだきしめん」をスタートさせた。2軒目にオープンしたのが、名古屋駅西口側にある地下街エスカ店である。
よしだきしめんのきしめんは、シンプルに小麦粉、塩、水だけの昔ながらの製法で作られている。夕方に材料を練って、一晩寝かせる。翌朝3時から、伸ばして熟成させることを4回行い、材料をこねてから24時間後にやっときしめんとなる。作ろうと思えば、20~30分で作れる麺を手間暇かけることで、「讃岐うどんのコシの強さとは違った、本来の名古屋の味である、舌触りがなめらかで、軟らかくってコシがあるきしめんができるんです」(社長・吉田孝則氏)。
シンプルなきしめんや天ぷらきしめんだけでなく、秋から冬にかけて人気なのが「八宝きしめん」。この八宝きしめんは、40年以上前に同社が考え、始めたメニューである。ヒントは、中華料理店で食べた八宝菜だった。あんかけの野菜炒めは、ご飯だけでなくきしめんにも合うと確信し、試作を重ねて商品化。今では、名前は少々違うが多くのきしめん店で提供しているメニューという。
おいしさの秘密は、きしめんの質のよさだけではない。新鮮な卵、ニンジンやピーマン、玉ネギなど“顔が見える”国産の野菜を使い、豚ばらはリンゴをたっぷり食べた信州豚。あんは、赤だしと白だしをあわせて作っている。だしは、鰹節や宗田節、鯖節、ムロアジ節を自社で削り、毎朝4時半からその日の分のだしをとり、冷やして店舗で使用するという徹底したこだわり。全てにおいて妥協しない姿勢は、おいしさと信用につながり、長い間ファンを獲得している理由だろう。
よしだきしめんの手間暇をかけた商品づくりは、もちろん八宝きしめんだけではない。「カレーきしめん」(820円)や「カレーなんばん」(820円)のカレーは、ルーから手作りしており、「みそきしめん」(700円)も数種類の味噌を独自でブレンドし熟成、夏に人気の「ごま酢きしめん」(850円)はごまを炒り、擦るところから作っている自家製のたれである。
おいしいものを食べてもらいたい、100%間違いないものをつくりたいという情熱が、商品にあらわれ、リピーターの多さにつながっている。2005年の愛知万博開催時には、当時の首相である小泉純一郎氏も訪れた。“ツルッとして軟らかいのに、モチッとしたコシ”のあるきしめんが、地元や名古屋を訪れる人々の舌を楽しませてくれる。
●企業データ
「よしだきしめん エスカ店」 /所在地=愛知県名古屋市中村区椿町6–9 エスカ内/経営=吉田麺業(有)/営業時間=午前11時~午後9時、無休(元旦休)/坪数・席数=32坪・52席/平均客単価=780円/来店客数=平日350~400人、休日500人