トップインタビュー:日本厨房工業会・福島裕会長

2012.04.02 397号 14面

 外食ビジネスの成長を陰で支えてきた業務用厨房機器。その厨房機器に携わる400以上の企業からなる日本厨房工業会が今年、設立50年という大きな節目を迎える。厨房機器の進化は、新しい外食ビジネスを生み出す大きな原動力となり、日本の外食産業、さらには食文化の発展に貢献してきた。少子高齢化が進み、外食産業が次の一手を迫られる中、それを縁の下からサポートする厨房業界はどのような役割を担っているのか。福島裕会長(福島工業代表取締役社長)に聞いた。

 ●外食ビジネス支えて50年 日本のノウハウを海外に

 –日本厨房工業会の役割とは。

 福島 厨房業界は外食産業の発展とともに成長してきました。食の安全・安心を陰ながらサポートするのがわれわれの大きな役割です。業界内で基準を定め、規格にのっとって生産されているかを確認して厨房機器の品質向上を図ること。これが工業会の大きな活動の柱です。

 –基準作りはさらに発展させていくのか。

 福島 そうですね。たとえば衛生面の基準を作ることもそうです。食品残渣(ざんさ)や温度管理など、規格を設けて自主的に検査する。そういう仕組みづくりにも取り組んでいるところです。

 –その他の取り組みは。

 福島 火災事故やCO事故が起こらないような器具そのものの安全対策も重要です。これはガス会社や関係官庁と一体となって、業界全体で取り組んでいかなければいけません。一方で、厨房に従事する人たちの人材育成も必要です。機器そのものだけでなく、厨房メーカーがオペレーションまで指導していく。それができる人材を「厨房設備士制度」を設けて業界で育成しています。

 –厨房業界の関心事は。

 福島 少子高齢化が進み、人口が減っていく中で、外食、中食、内食の違いを問わず、全体のボリュームが減少していきます。その中で次の時代の食をどのように支援していけるか。たとえば、高齢化施設や医療施設、配食サービスにおいて、厨房サイドからどのようなバックアップができるか。全体のパイが小さくなり、食の提供方法が変化しても、厨房機器もそれに合わせて進化していく。ビジネスチャンスは十分潜在しています。

 –小回りの効いた機器が必要になってきますね。

 福島 加熱調理した食品を短時間に急速冷却してチルド保存し、必要なときに再加熱する「クックチル」というシステムは、いまや集団給食だけでなく、一般レストランでも定着しつつあります。これはわれわれが食の安全・安心を推進していく中で核となる調理技術ですが、それがさらに進んだ「ニュークックチル」という手法も出てきています。具体的には再加熱カートを用い、クックチルした食材を冷却した状態で盛り付けし、提供前に再加熱する調理方法です。盛り付け時の衛生性向上と省力化が同時に図れる、これまでにないコンセプトの厨房機器で、新しい分野での活躍が期待できます。

 –その他、高齢化への取り組みは。

 福島 たとえば介護食や嚥下(えんげ)食、減塩食など、ネットでレシピ配信を行えば、誰でも用件に合った調理ができます。調理器具だけでなく、調理ソフトをも提供することで、調理の中身にまで入り込んでいく。そんな時代になりつつあります。時代の変化とともに厨房メーカーの役割も進化していきますし、工業会も情報発信と啓蒙活動に力を入れています。

 –ソフト面も充実ですね。

 福島 やはり、機器そのものだけでは世の中の要求に応えていけません。ハード、ソフト一体となり、日本の未来の食社会を支え、食文化の継承に貢献していきたいですね。

 –今年、50周年を迎えられます。

 福島 おかげさまで6月5日に50周年を迎えます。高度経済成長時代に産業を立ち上げた先輩たちに敬意を表すると同時に、次の50年に向けて次世代を育成し、彼らが大いに活躍できる場を構築していかなければなりません。それがわれわれに課せられた使命です。

 –次なる活躍の場とは。

 福島 日本食は今後、とくにアジアで価値が高まると期待されています。国内市場の飽和感から、海外進出を目指す外食企業も少なくありません。その際に大事なのは、ブランドと食のクオリティーの一体化です。ブランドとは価値であり、その価値を楽しんでもらうには、それに見合ったクオリティーが必要です。現地での教育やオペレーションも大事ですが、厨房機器もまた、料理の味を再現するのに大きな役目を果たします。外食企業の海外戦略、とくにアジア展開の中で、われわれはそれにキャッチアップし、ビジネスを一緒になって成功させていく。それが日本の厨房工業が海外に根付いていくために最も重要なことだと考えます。

 –日本の厨房機器が優れている点は。

 福島 日本で外食が産業化した背景には、厨房現場のマニュアル化によるチェーンオペレーションの進歩がありますが、厨房機器そのものも、コンパクト化、省力化、省エネ化してきたことが特色です。マニュアル化されたオペレーションの中で、少しのスペースに、ローコストで活用できるという面では、大きな強気を発揮します。

 –世界市場への可能性について。

 福島 少子高齢化は日本が最先端を走っています。これから世界が同じ問題に直面します。日本はそれを前もって経験しているわけです。その中でわれわれがどのように食を支えていけるのか。日本のノウハウを世界中に広めていくことが大きな役割でもあり、夢も広がります。

 –ありがとうございました。

 ◆(社)日本厨房工業会(本部所在地=東京都港区東麻布1-27-8、厨房機器会館)1962年業務用厨房業界の発展向上を目的に全国厨房機器工業会として創立。65年全日本厨房機器工業会と改称し社団法人化。91年日本厨房工業会と改称。2012年4月一般社団法人へ移行。業務用厨房機器メーカー、コンサルタント、設計施工・保守管理などの事業を営む法人をはじめ、関連業種と合わせて409社の会員を擁している。(12年2月末現在)

 ◆ふくしま・ゆたか=1950年8月6日生まれ。75年3月早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。同4月福島工業株式会社入社、81年2月同社常務取締役(営業担当)、85年12月同社専務取締役営業本部長、92年4月同社代表取締役社長に就任、現在に至る。99年9月(社)日本冷凍空調工業会理事就任(現任)、2003年5月近畿厨房機器協同組合副理事長就任(現任)、07年6月(社)日本厨房工業会会長(現任)、12年4月(社)大阪府工業協会理事就任。

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