焼肉業界若手座談会 若手経営者・後継者が語る焼肉業界の現在と未来

2015.01.05 430号 06面
「焼肉好調」「焼肉業界の未来は明るい」と意見が一致! 向かって左より 味和居:蓮川社長/桔梗苑:新井社長/本紙記者/叙々苑/新井副社長

「焼肉好調」「焼肉業界の未来は明るい」と意見が一致! 向かって左より 味和居:蓮川社長/桔梗苑:新井社長/本紙記者/叙々苑/新井副社長

 日本に「焼肉」が食文化として根付き、全国に広まってから約半世紀。さまざまな逆風がありながらもそれを乗り越えてきた焼肉業界。これから本格的な世代交代の時期に差し掛かっていく。

 全国焼肉協会青年部幹部に「焼肉業界の現在と未来」について熱く語り合っていただいた。

 ●出席者

 ○桔梗苑 新井昌浩社長

 全国焼肉協会青年部部長(41歳)

 本格的な焼肉料理を洗練されたサービスで提供。「本物の味」と「厳選された素材」でスターターからデザートまでの食事を演出。岐阜市内に3店舗を展開。

 ○叙々苑 新井昌平副社長

 全国焼肉協会青年部副部長(37歳)

 良質吟味、おいしさが最良のサービスをモットーに品質の確かな素材とおいしさをたゆまず追求。全国に57店舗を展開。

 ○味和居 蓮川昌実社長

 全国焼肉協会青年部副部長(41歳)

 全てはお客さまの「うまい」のために食文化の創造を目指す。「名古屋名物味噌とんちゃん屋ホルモン」「肉料理と赤ワインのニクバルダカラ」などの直営、FCを35店舗展開。

 ●若手が仲間として学べる 揉まれ、感化され得るもの大

 司会 まず全国焼肉協会青年部について教えてください。

 新井(桔) 全国焼肉協会の1つの部会として、後継者育成を目的に10年前に発足しました。現在会員は約60名です。協会に加盟されているお店・企業で45歳未満の方なら経営者、後継者、従業員と誰でも入部できます。具体的な活動は毎回テーマを決めて年4回、勉強会を行っています。14年は東京・大田市場(青果市場)の見学、エスフーズ姫路工場でユッケの製造工程の視察と熟成肉の勉強会、名古屋でグルメ情報サイト「ぐるなび」とタイアップした勉強会を行いました。1月には「焼肉ビジネスフェア」の日程に合わせて経営者・店長育成研修会を東京で開催しています。

 司会 青年部に入って良かったことは。

 蓮川 私が15年前に創業したときは居酒屋からのスタートでした。焼き肉店を始めたのは11年前です。その頃は肉のことは全然知らず、カルビでもトモバラしか使ってなくて、精肉店から買ったスライス肉をそのままこれはサシがあるから上物、これはないから普通のという具合でした。赤身肉はみんなロースと思っていたくらい肉に関して素人でした。シンポさんから肉について学べる勉強会があると全国焼肉協会を紹介していただき入会しました。しかし、当初は青年部の存在を知らず、出席しても重鎮ばかりで「続けられるかな」と思いましたが、青年部に入ると年齢的にも近くコミュニケーションも取りやすく助かりました。会員さんのお店に行くと同じカルビでも「この部位はうちで食べると硬いのに、なぜ柔らかいのか」とか同じカルビでも追求するとおいしくできることを学ばせていただきました。肉に対する思いが強くなるきっかけになったのが青年部です。

 新井(叙) 私は青年部が発足して数年後、まだ現場で仕事をしている時に入部しました。その頃から、若手経営者や後継者の方がたくさんいて、会社の「経営」というものを全く知らない自分がとても恥ずかしく、不安でいっぱいでした。

 印象に残っているのは、勉強会で初めてFL比率(売上高に占める材料費と人件費の割合、F=フード【材料費】、L=レイバー【人件費】)の言葉を初めて知ったことです。そのくらい何も知らない状態でした。

 今、青年部はちょっと敷居が高く感じられているのかなと思います。若手経営者・後継者だけの集まりというイメージがあるのかもしれませんが、実際には店長クラスの方、従業員の方もみえて、同じ業界の仲間として一緒に学べる場です。このことをもっと知っていただきたいですね。

 新井(桔) 敷居が高いと思っている若手はむしろこういう場でもまれた方がいいですよ。私は10年前、家業を継いだばかりの時に父親に強引に参加させられました。参加すると訳の分からない言葉ばかり飛び交うし「絶対だまされた」と思いました(笑)。私もFL比率なんて知りませんでした。それで帰って実際に自分の店舗の数字を調べてみたりしました。

 味和居さん35店舗、叙々苑さん57店舗と店数を比較したら敷居が高く感じるでしょうが、それぞれ店舗でやっていることはどこも同じです。いろいろな人たちの中でもまれて、お付き合いすると感化されて得ることは大きいです。

 うちの父親は「現場にでてナンボ」という職人肌ですが、「お前を青年部に入れてよかった」と言っています。

 ●世代交代の時期に差し掛かる 大切なのは企業精神・文化

 司会 若手経営者・後継者ゆえの悩みは。

 新井(桔) 親の世代が焼肉をやってきて、ちょうど今、われわれの世代へのバトンタッチの時期に差し掛かっています。その時、現在の焼肉業界の基礎を築かれた先輩諸氏の思いをどう継承していくか。世代交代した時に業態を変えたい方もいるでしょうし、私のようにスタンダードでいきたい人間もいます。これはどちらが正しいとかではなく、どちらも正解だと思います。それから青年部メンバーでもそういった悩みが増えてくるかもしれません。

 新井(叙) 本日の出席者で現在後継者の立場は私だけです。後継者としての悩みというのは特に感じたことはありません。社長も忙しく、あまり話す機会もありません。それが逆によいのかもしれませんね(笑)。

 当社の幹部は創業当時からのたたき上げで、現場出身者ばかりです。私は今、そのような先輩諸氏に教えていただいているところです。後継者の悩みというよりも、経営についての疑問や方向性を考える時がありますが、経営にはいろいろな形がありますし、私はこれまで築いてきた先輩方の思いを急に転換させるような気はありません。基盤があって社会の精神・文化があるわけです。人が変わっても経営者が変わっても会社は変わらないように同じ流れを継承していきたいですね。

 蓮川 私は創業なので自由にさせてもらっています。やりたいことが何でもできることが強みです。つかし、まだ創業15年なので今のうちから思いの継承をどうしていくか考えています。桔梗苑さん、叙々苑さんとも素晴らしい企業文化がありますが、当社はまだ企業文化をつくり上げているところです。今後20年、30年たって世代が変わったときに守らなければいけないもの、変えてよいものとあると思いますが、何でも新しい時代のニーズに合わせて変えていくだけではなく、ここだけは変えてはいけない思いを継承できる組織づくりをしっかりしたいですね。

 ●肉業界に新しい風 焼肉好調の実感!

 司会 外食産業の中でも特に焼肉業界をはじめ肉業界が好調ですが、その実感は。

 新井(桔) 焼肉業界は好調だと思います。リーマンショック後、ユッケ問題、東日本大震災と逆風が続き、どん底までいってそこから確実に回復しています。

 そして、熟成肉、希少部位、赤身肉など肉業界に新しい風が吹いていて、それがお客さまに受け入れられていると思います。

 新井(叙) 13年から毎月、売上げは前年を上回っています。札幌・沖縄・広島と新規出店にも成功しています。

 消費税増税に合わせて4月からサービス料をメニュー価格に組み込んだため、メニュー価格が上がりました。実際にお客さまが支払う金額はあまり変わらないのですが、メニュー表記が「値上げ」という形になるため、徐々に売上げに響いてくるのではないかと心配していましたが、順調に推移しています。

 蓮川 当社は焼肉業界だけでなくホルモン業態、肉バル業態を展開しています。焼肉業態は全店舗好調です。

 しかし、ここ1年で和牛が4割以上値上がりするなど仕入価格が高騰しており、利益的には厳しい状況が続いています。

 新井(桔) 和牛はと畜頭数が年々減少し、米国は大干ばつで肉牛飼育頭数が過去2番目に低い水準で、仕入価格の高騰にはどこも苦しんでいます。これは業界共通の一番の悩みですね。

 うちの状況は消費税増税の影響もなく、叙々苑さんと同じく13年から3店舗とも前年をクリアしています。増税後も値上げはしていませんが、客単価が上がってきています。これは週末の企業さまの接待、忘年会などが増えているためです。

 ●消費者ニーズ変わる 赤身肉、希少部位が人気

 司会 消費者嗜好の変化は。

 新井(桔) うちは男性65:女性35と男性客が多く、年齢的には35~45歳、45歳~55歳のお客さまが多いです。メディアの影響もあってか、赤身肉や希少部位に人気が集まっています。昔のようにロース、カルビをガッつりというお客さまが減り、今はあっさり系が好まれています。1組当たりの食べられる量も減っています。

 新井(叙) 昔は「焼肉=カルビ」でしたが、年齢層が高くなり、自然と赤身肉にニーズが移っているようです。

 3、4名で来店されてもいろいろな種類を1人前ずつ注文されるお客さまが増えました。それをシェアして皆さんで少しずつ食べられる。以前のようにロース3人前、カルビ3人前という注文は減りましたね。

 蓮川 焼肉の特集本が数多く発刊され、お客さまの知識が豊富になって、焼肉奉行のような方が増えました。そういう人たちがウンチクを語れる希少部位の人気が強いです。

 それとお値打ちに満足感を味わいたいというお客さまと多少高くてもおいしい肉を食べたいお客さまと二極化が進んでいます。お客さまの層のすみ分けを考え、ターゲットを分けたメニューづくりをしています。

 また、肉バル業態を始めて分かったことは肉バルだと付加価値をつけやすい。例えば、焼肉店だとイチボは1500円以上は難しいですが、肉バルだと1800円で提供してもけっこう売れます。焼き肉店だと2500円のサーロインはほとんど出ませんが、肉バルだと2500円のサーロインステーキが、「今どきサーロインがこんなに売れるのか」と思うほど売れています。しかも、お客さまからは「安い」と喜んでいただける。何を基準にしたらよいのか訳がわからなくなります(笑)。

 ●焼肉は日本人のごちそうナンバー1 ミシュランにないのはおかしい

 司会 焼肉業界の将来性とご自身の夢は。

 蓮川 当社にはレストランのシェフ経験者もいますが、けっこう「こんな良い肉使ったことありません」とか驚きます。いくらシェフでも肉のことは案外知らないんですね。

 硬い部位・柔らかい部位、厚くカットするとおいしい部位、薄くスライスした方がおいしい部位と肉の一番おいしい部位と肉の一番おいしい食べ方を一番よく知っているのは焼肉店です。そしておいしい肉をお値打ちに提供し、そのおいしさをお客さまに一番伝えられることができるのも焼肉店です。

 焼肉だけでなく、肉のおいしい食べ方の提案としてハンバーグにしたり、イタリアンのシェフとタイアップして肉料理が看板のイタリアンをつくったりといろいろな切り口でお客さまに提案していきたいと思います。

 新井(叙) 個人的には今の店舗をさらに磨きあげ、各県に1店舗は出店したいという近い将来像に重きを置いています。海外出店の計画も何度かありましたが、私は逆に海外のお客さまを日本の叙々苑に呼び込みたいです。

 焼肉は料理ではなく、肉を焼くだけの調理だと言われたりします。グルメ本もイタリア料理、フランス料理はあっても焼肉料理はない。「焼肉」とか「焼肉・ホルモン」と区分けされています。私はそれがすごく嫌です。焼肉店は、盛り付け法、よりおいしい提供法、よりおいしい部位の調理法と焼肉料理としていろいろ研究しているのです。グルメ本の中に必ず「焼肉料理」というジャンルが載るように、「焼肉は料理だ」という認識を広めたいです。

 新井(桔) 確かにミシュランガイドには焼肉店が1店舗もないんですよね。焼き鳥屋、すし屋はあるのに焼肉屋がないというのは納得できません。

 うちは岐阜市内の住宅街の中に店舗があり、正月・お盆は家族連れのお客さまが多いです。和の趣の店舗なので、以前はクリスマスは家族連れの来店しかなかったのですが、今は若い子たちからクリスマスの予約をいただくようになっています。

 日本人のごちそうナンバー1はイタリアンでも、フレンチでもなく焼肉です。ここまで焼肉の地位が向上したのは諸先輩方の努力のたまものです。この土台を確固たるものにし、さらに広げていくためにもレバ刺し事件など業界のモラルが疑われることだけは絶対にしてはならない。そして、皆が切磋琢磨(せっさたくま)して頑張っていけば焼肉業界の未来は明るいと思っています。

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