外食の潮流を読む(19)「鳥貴族」が成長を続ける理由は、チェーンレストランの王道にある

2017.01.02 455号 10面

 焼き鳥チェーンの「鳥貴族」が今年創業30周年を迎えた。2016年度内に500店舗体制を確立し、1000店舗体制に向かっている。11月8日付の日本経済新聞に全面カラー広告を掲載していたが、企業継続に向けての並々ならぬ決意が感じられた。月次報告を見ると、10月度は売上高101.2%、客数102.0%、客単価99.2%となっている。この『客単価が下がり、客数が増えて、売上高が伸びている』という現象はずっと継続している。決算では売上高、営業利益ともに、30%増、40%増という勢いで成長している。16年4月1日に東証一部上場に指定された。

 「鳥貴族」の最大の特徴は全品280円(税別)というメニュー構成だ。サラダ、単品、ご飯もの、スイーツという具合にバラエティーが豊富であるが、メインは大振りの焼き鳥で、牛肉や魚は置いていない。「焼き鳥専門店」であり、他のメニューはサブに徹している。

 「鳥貴族」のような“低価格均一料金”の居酒屋は、08年のリーマンショックを機に続々と誕生した。他の低価格均一料金業態を開発した各社は価格を下げられたポイントについて「人件費を抑えた結果」であり、また「食品メーカーに仕入れ価格の引き下げを容認してもらったからである」と、盛んにアピールしていたものである。しかしながら、そういった低価格均一料金業態はその後ほとんどが撤退している。

 では、「鳥貴族」だけが成長を継続しているのはなぜか。撤退となった低価格均一業態のほとんどは“引き算”の発想で商品を組み立てていた。ところが「鳥貴族」は真逆の“足し算”で業態を磨き続けてきたのだ。「鳥貴族」のメニューには“サプライズ”がある。“安い!”という感動がある。メニューは短期間でリニューアルされ、店を訪れるたびに新商品が投入されている。客単価は2000円を切っていて、お値打ち感と安さが、頻度高く来店する動機をもたらしている。さらに、この10月に食材の全品を国産にすることを達成した。これによって「安全安心」というイメージを訴求している。

 私が訴えたいことは、「チェーンレストランが陳腐化した」と言われながらも、今ここに成長を継続しているチェーンレストランが存在しているということだ。チェーンレストランにアンチを唱えているのは、チェーンレストランの展望が崩れかけたときに、「トレンドが重要だ」という声に負けてしまったからではないだろうか。

 日本にチェーンストア理論を紹介し、日本の流通業界を大いなる発展に導いた渥美俊一氏(故人)が今健在であれば、業界人に「鳥貴族」の商品と店舗と接客について徹底的にベンチマークをさせて、「自社に欠けているものは何か」を書き出させて、「今の危機を乗り越えよう!」と訴えかけていることであろう。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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