外食の潮流を読む(54)ワタミ創業者の渡邉美樹氏が復帰、第二創業の巨大な構想をアピール

2019.12.02 490号 11面

 10月1日付でワタミの創業者、渡邉美樹氏が代表取締役会長(CEO)に就任。10月7日にマスコミ人を集めて新経営体制発足に伴う新規事業・新規戦略について発表した。2015年12月当時、「ワタミには1000%戻らない」と断言していたが、この席では「これから第二の創業を第一の創業と同じ29年間かけて行っていく」と抱負を述べた。

 渡邉氏は13年7月に政治家に転向し6年間経験を積んだが、率直にいって政治家としての功績はない。自ら「政治家としては0点だった」と述べていて、「政治家時代に自分の改革案はことごとく却下された」と悔しさをアピールする。また、「ブラック企業」というレッテルを貼られてしまったことには「真摯(しんし)に反省している」と語った。

 さて本題に入る前に、ワタミは「ホワイト企業診断結果」が87点と認定基準の60点を上回っていること。社員の離職率が1桁台にまで大きく低下したこと。障がい者雇用率が法定基準の2.2%を大きく上回り4.88%になっていることを述べ、ブラック転じて「ホワイト」を印象付けた。

 新規事業については、まず、環境問題対策をベースとしたものが盛り込まれている。その象徴的な施設として岩手県陸前高田市に「ワタミオーガニックランド」を21年3月に開業する予定。これは陸前高田市と連携した農業テーマパークで、約23ha(東京ドーム5個分)を確保し、1次から3次産業まで、さまざまな施設を設ける。

 次に、外国人材の活用、生産性と圧倒的な仕入れ力を追求する。海外から1000人の技能実習生を受け入れ、これによって適切な労働環境を維持して、海外との連携を深めていく。彼らが帰国してからはワタミのFC店舗を経営してもらう道も想定している。

 仕入れ力の一環として和牛生産企業のカミチクグループと業務資本提携。ここでは和牛に関する新業態を検討している。

 農業分野ではワタミファームを中心に有機野菜の生産量を増やしており、これらの加工品は「ワタミオーガニック」というブランドを立ち上げて海外に販路を広げる意向。

 直近のワタミの成長エンジンとして宅食事業に力を入れていく。現状は1日23万食となっているが、21年には30万食を想定。

 飲食事業はこれまでの直営主義を改めてFC店舗を広げていく。すでに唐揚げと卵焼きの専門店「から揚げの天才」、大衆居酒屋「しろくまストア」を立ち上げていて、投資が抑えられて調理加工度が低いことから、運営しやすい業態としてアピールしていく。

 飲食事業の市場は日本の他に中国とアメリカを想定し、28年の段階で売上高2000億円、営業利益100億円、ROE15%、ROA12%を想定している。

 要するに、これから10年間で現状の2倍の事業規模にする構想を発表したわけだが、政治家時代に抑圧されていた「改革」の情熱がこれから炸裂するような気配を感じた。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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