外食の潮流を読む(99)コロナ禍で新しい顧客を求めて 新立地で強烈な店の魅力を磨く

2023.09.04 535号 11面

 コロナ禍は飲食業にさまざまな方向転換を促した。

 東京・新橋は「サラリーマンの飲食街」である。ここで「まこちゃん」といえば大ぶりのホルモン串焼きが1本160円と超お値打ちで、18時ともなればまさにうなるような満席となり、外でグループが常時2、3組待っている状態。同店はこのエリアで5店舗展開していた。しかし、コロナ禍の最中には人通りがパタリとなくなった。さて、同店を経営するマックスフーズジャパンではどうしたか。

 まず、「社員の採用」に注力。代表の西田勇貴氏(40)は「大手企業が人員整理を進めたと知って、優秀な人材を確保する絶好のチャンスだと思った」と語る。こうしてマネージャークラスの人材やデザイン事業に取り組むべくデザイナーなど十数人を採用した。そしてさまざまな事業にチャレンジした。

 これらのメンバーでカレーパンを開発してキッチンカーで販売。次に「まこちゃん」ブランドでやきとんの催事を行った。キッチンカーはガソリン代がかさみ、売上げが大きく望めないことから撤退。催事は「まこちゃん」の知名度と商品力によって好調。五反田の商業施設では2週間で900万円を売った。これを事業として定着させていった。

 店舗は新橋に5店舗あったが、2店舗を閉店して近接する3店舗に集中。この3店舗でも新橋で5店舗当時の売上げと変わらない状態になった。

 コロナ禍ではオフィス街近くの飲食街にはお客がいなくなったが、住宅街を背景にした若者が集まる街はにぎわっていた。そこで同社では、新橋とは異なる顧客がいる新天地を求めた。そこで見つけたのが中目黒で30坪の物件。

 西田氏は「ここで営業することは、リスクヘッジであり新しい客層を発掘すること」と語り、若者をターゲットにしたデザインで食事も楽しむことができる店づくりを心掛けた。内装はおしゃれとレトロを融合した「おしゃレトロ」、フードメニューはビブグルマン(ミシュランで5000円以下の優れた店)を取得した料理人が監修。客単価は3500円を目指した。店名は「まこちゃん ナカメグロ」。狙い通りに20代のお客や新橋の「まこちゃん」を知る中高年など、さまざまな客層から愛される店となった。昨年11月にオープンして以来、月商は1000万円を超えている。

 さらに「凍眠生酒」をラインアップして、店の特徴を際立たせた。これは搾りたての生酒をマイナス30℃に急速冷凍する技術で、飲みたいときに解凍すると搾りたてと同じ状態の生酒を飲むことができるというもの。300mlの瓶詰を3種類2200~2700円あたりで提供している。5月の下旬から1ヵ月で約100本提供したという。普段は日本酒を飲まない人も注文してリピートするきっかけになったようだ。人材の採用、新事業の発掘、新天地と新しい客層、新しい強烈な魅力、という具合に「まこちゃん」は新しい道を見いだした。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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