ヘルシートーク:俳優・玄理さん

2024.08.01 349号 05面
映画『めくらやなぎと眠る女』 7月26日(金)よりユーロスペース他全国ロードショー

映画『めくらやなぎと眠る女』 7月26日(金)よりユーロスペース他全国ロードショー

映画『めくらやなぎと眠る女』

映画『めくらやなぎと眠る女』

 ◇村上春樹さんのみが知るキョウコの願い事を想像して

 村上春樹原作、初のアニメ映画『めくらやなぎと眠る女』は、音楽家でアニメーション作家のピエール・フォルデス監督が、村上春樹の6つの短編を翻案して映像化した作品です。ミステリアスな世界観を描いた物語の中で、ヒロインのキョウコを演じた玄理さんに、作品への思いや映画の魅力、さらに野菜にまつわる話も伺いました。

 ●本作で演じたのは、激動の人生の中多くを語らない芯のある女性

 村上春樹さんの作品は大好きで、小説はもちろん、エッセイも読んでいました。中でも一番衝撃を受けたのは、高校生の頃に読んだ『ノルウェイの森』。ヒロインの直子のとある長い台詞が心の奥に残り、韓国の演劇学校に通っていた時に、韓国語に翻訳して演じたこともありました。いま考えると、その時すでに韓国語訳はあったと思うのですが、考えが至りませんでした(笑)。

 お芝居を本格的に始める前から、村上春樹さんの作品やその中にある言葉はいつも身近にあって、影響を受けてきたので、オファーを頂いた時は本当にうれしかったですし、素晴らしい作品に巡り合えたと思いました。声優のお仕事は今回が初めてだったのですが、緊張や気負いはなく、とにかくいい作品にしたいという気持ちが強かったです。

 私が演じたキョウコは、作品の中で17歳、20歳、30代半ばという姿で登場します。17歳の時は恋人の死、30代半ばの時は東日本大震災など、どの年齢の時も大きな出来事を経験しているんです。でも、内側に秘めている激しい葛藤は決して表には出さず、多くを語らない人間です。

 作品全体のテーマの捉え方はさまざまだと思いますが、「リスタート(再出発)」がテーマの一つにあるんじゃないかと。登場人物全員がスタイルやカタチは違っても、リスタートを促されていくんですよね。その中で、唯一キョウコだけは、能動的に変わろうとしている人物。だからこそ、その部分を一番大切に、意識して演じました。

 ●千本ノックだと感じるほど何度も録り直したラストの台詞

 この作品は6つの短編小説が一つのアニメ映画になっていて、キョウコが20歳の誕生日の時のエピソードがあります。願いが一つだけかなうと言われたキョウコ。でも、キョウコの願い事は何だったのか、語られないまま物語は終わってしまいます。

 私は、役を準備する上で、キョウコに起こった出来事を年表に書いて考えました。彼女が何を願ったのか–収録初日、ピエール監督に聞いてみると、私が考えていたことと全く一緒だったんです。原作は村上春樹さんなので、本当の願いはピエール監督も知らないんですよね。少なくともこの映画の中の、私が準備してきたキョウコは間違っていなかったんだと思えたし、ピエール監督と共感できたこともうれしかったです。

 見る人の経験や年代によって願い事をどう捉えるかは違ってくると思うので、楽しみながら見ていただきたいポイントでもありますね。

 ピエール監督は音楽家でもあるので、日本語の意味は分からなくても、言語の音色にとても敏感でした。作品のラストに出てくる「ワタナベ(猫の名前)」という台詞が、なかなか監督の求めている音にならなくて、千本ノックだと思うくらい、何度も録り直しました。それでもOKが出ず、「飼っているワンちゃんを思い浮かべて」と言われて臨んだら、本番で愛犬の名前「モモ」と叫んでしまったり(笑)。収録後、スタッフの方たちと火鍋を食べに行ったのですが、部活帰りに行くかのような雰囲気で、本当に楽しかったですね。ピエール監督がこだわったラストシーンにはいろいろな思い出も詰まっているので、見た方が気にいってくれるといいなと思います。

 ●撮影当日は、むくみ解消のためにすいかジュースを飲むことも

 収録は、オリジナルの方法で行われました。ブースにこもるのではなく、一つの部屋に、俳優と監督、音を録るマイク技師さんなどが入り、俳優がアニメのキャラクターの動きに合わせて演技するのをマイクが追いかけるというスタイル。英語台詞と日本語の台詞の尺を合わせるのは大変でしたが、自由に動きながら演じられたので、やりやすかったですね。

 物語の色彩は、重要な人物や物には色が付いているのですが、それ以外は乳白色や線だけで描かれています。きっとそれは、私たちが日常の中で、見たいものにピントを合わせて無意識に差別化していることを、アニメの中に落とし込んだんじゃないかなって。それを発見した時、本当に感動しましたし、改めて素敵な作品だと思いました。

 野菜は大好きで、私の食生活は、米と野菜で成り立っていると言ってもいいほど(笑)。産地直送の野菜を取り寄せるなど、できるだけ新鮮な野菜を食べるように心がけています。野菜がもたらす身体への作用を意識して取ることも多いですね。

 夏になるとよく食べるのは、きゅうり。味が好きなのはもちろん、きゅうりには身体の熱を取る作用があると言われていますからね。トマトも好きな夏野菜の一つです。サラダにして食べることが多いのですが、生野菜は身体の冷えにつながりやすいので、夏以外は、トマトソースにしたり、グリルで焼いたりしています。

 むくみが気になる日に食べているのは、すいか。すいかにはカリウムが多く含まれていて、むくみを改善する働きがあると言われているからです。いまの季節は撮影当日に、すいかをジュースにして飲んでいくことも多いですね。

 ●プロフィル

 ひょんり 1986年生まれ、東京都出身。日本語、英語、韓国語のトライリンガル。2014年に映画『水の声を聞く』に主演し、第29回高崎映画祭最優秀新進女優賞などを受賞。2017年ソウル国際ドラマアワードでアジアスタープライズ受賞。近年の出演作は映画『スパイの妻』『偶然と想像』、ドラマ『君と世界が終わる日に』『アトムの童』『Eye Love You』『院内警察』『TOKYO VICE Season 2』など。

 ●映画『めくらやなぎと眠る女』

 7月26日(金)より ユーロスペース他全国ロードショー

 〈Story〉

 2011年、東日本大震災直後の東京。置き手紙を残して突如家を出たキョウコ、妻・キョウコの失踪に呆然としながら北海道へ向かう小村、巨大な“かえるくん”と共に迫りくる大地震から東京を救おうとする片桐。人生に行き詰まった彼らは本当の自分を取り戻すことができるのだろうか…。

 [監督・脚本・日本語版監修]ピエール・フォルデス [原作]村上春樹

 [日本語版キャスト]磯村勇斗、玄理、塚本晋也、古舘寛治

 [日本語版演出]深田晃司 [翻訳協力]柴田元幸 [音響監督]臼井勝

 [配給]ユーロスペース、インターフィルム、ニューディアー、レプロエンタテインメント

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