業界TOPICS:「ラーメン1,000円の壁」打破 1杯の価格は最低時給目安

2025.06.02 556号 10面
訪日客でにぎわう「銀座篝本店」(東京都中央区)の「鶏白湯Soba」は1,800円(税込み)。約2年間で600円の値上げ。トッピングなどを追加すると軽く2,000円を突破

訪日客でにぎわう「銀座篝本店」(東京都中央区)の「鶏白湯Soba」は1,800円(税込み)。約2年間で600円の値上げ。トッピングなどを追加すると軽く2,000円を突破

大阪市浪速区のラーメン店「RAMEN えびの女神」の「女神の極みセット」は、伊勢エビ、アワビが入ったラーメンが5,500円(ライス、チーズ、レモン付き、税込み)。規格外で市場に出回らない伊勢エビを正規価格で漁師から買い取り、スープに仕立てている。今春実施したクラウドファンディングで話題を呼んだ。高級食材と組み合わせた思い切った提案で5,000円超えの価格設定も可能という好例

大阪市浪速区のラーメン店「RAMEN えびの女神」の「女神の極みセット」は、伊勢エビ、アワビが入ったラーメンが5,500円(ライス、チーズ、レモン付き、税込み)。規格外で市場に出回らない伊勢エビを正規価格で漁師から買い取り、スープに仕立てている。今春実施したクラウドファンディングで話題を呼んだ。高級食材と組み合わせた思い切った提案で5,000円超えの価格設定も可能という好例

昨年オープンした東京・築地「山田のうなぎ うな骨らーめん 築地本店」の「山田のうな骨らーめん」は1,500円(税込み)。ウナギを養殖から加工まで一貫した生産体制で行っている山田水産がその強みを生かし、

昨年オープンした東京・築地「山田のうなぎ うな骨らーめん 築地本店」の「山田のうな骨らーめん」は1,500円(税込み)。ウナギを養殖から加工まで一貫した生産体制で行っている山田水産がその強みを生かし、

 「ラーメン1000円の壁」が叫ばれて久しいが、昨今は1500円の壁を突き抜け、2000円の壁に向かう勢いにある。海外では3000円以上が珍しくなく、むしろ「国内が安すぎた」のだ。既成概念に縛られてきた反動が一気に起ころうとしている。

 「そもそも1000円の壁とは?」と疑問視するのは新横浜ラーメン博物館の広報担当・中野正博氏。「1000円の壁を神格化しているのは、500円程度の時代からフリークを続けてきた中高年層ではないか。800円程度から慣れ親しんでいる若年層は、あまり壁を感じていない。ラーメン以外の物価高の方が深刻」と指摘。「ラーメン1杯の価格は最低時給が目安。東京なら1163円、全国なら1055円。すでに有名店は軽く超えている」と説く。

 とはいえ、値上げが利益に直結するわけではない。ここ2~3年、個人店では食材原価が約5割、人件費が1割アップしており「過去の値上げ感覚では焼け石に水」というのが共通の本音。従来の利益を確保するには200円以上の客単価アップが必要だという。その即戦力が味卵・チャーシュー・替え玉だ。いずれも追加の定番であり「50円値上げしても注文は堅い」(東京都内有名店)と見込む。と同時に「ドリンクやサイドを充実させ、杯数(客数)より客単価のアップで収益を図る工夫が必要」と課題づける。

 一方、値上げに見合う付加価値の演出も活発だ。ある業務用スープ製造は「値上げを納得させるには、濃厚かつ具だくさんが有望。インバウンド客にも価値が伝わりやすい」と語り、「産業給食やフードコートへの営業では辛口と肉増しを組み合わせた提案が決まりやすい」と明かす。

 かたや付加価値に対する意識も変化している。外食ジャーナリストの亀高斉氏は「これまでは仕込みの努力や苦労が敬われ、一杯のストーリーが評価されてきたが、そうした情緒的な理屈をZ世代に押しつけるのは難しい。好みの味覚やコスパなど自己的かつ質実的な価値が支持される」と指摘する。また「タイパ重視からテーブルチェックなどの予約課金には肯定的。時短の環境整備も重要」と展望する。

 「一風堂」など約290店舗を展開する力の源ホールディングスの河原成美社長は、かつて「おいしければ許されると思ったら大間違い。プラスお客の精神的満足を徹底的に追求すべき」と強調していた。ラーメンの国際化を率先し、いまや海外14ヵ国・約140店舗を展開。国内の4~5倍と目される客単価を実現している。

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