2025年3月度、外食動向調査 フードコンサルティング
●値上げによる客離れ深刻
日本フードサービス協会が発表した外食産業市場動向調査によると、2025年3月度売上げは、前年同月比7%増となり、40ヵ月連続の増加を記録した。
3月は後半から春休み期間に入り、春の行楽シーズンによる外出機会の増加に加え、歓送迎会や引っ越しの増加と、海外からのインバウンド客の流入も続いたことから、全体でみると外食需要は好調さを維持することができた。客数は前年同月比2.5%増、客単価は4.4%増となった。
業態別で見ると、前年比を下回った業態は、2月の29業態から22業態まで減少したものの、5%以上減少したのが4業態、さらに3ヵ月連続で前年を下回った業態は前月同様9業態、13ヵ月平均で100%を割ったのは10業態となった。
年間を通じて比較的好調な3月を迎えたものの、年末年始から続く低迷から脱却できていない業態が減っていないことから、値上げによる客離れが続いている事態を深刻に受け止めなければならない。
●「カスハラ対策」を考える
東京都は25年4月1日、カスタマーハラスメント防止条例(カスハラ条例)を施行。条例では、カスハラを「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの」と定義してる。中でも「著しい迷惑行為」とは、「暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為」を指すと規定されており、身体的な暴力行為だけでなく、精神的な嫌がらせや業務遂行を妨げる不当な要求も含まれる。
具体例としては、執拗なクレーム、土下座の要求、人格否定的な発言、客観的根拠のない要求を繰り返す、侮辱的な言葉を使う、長時間にわたり業務を妨害するなどの行為は、ハラスメントに該当。なお、現時点で東京都の条例には、カスハラを行った個人に対する直接的な罰則や罰金は含まれないが、身体的な暴行や脅迫は刑事告訴につながる可能性があり、ハラスメントによって経済的または精神的な損害を受けた場合、民事訴訟を通じて損害賠償を請求できる可能性がある。
ここで、外食大手チェーンによるカスハラ対策の代表的な事例を挙げてみよう。
(1)すかいらーくホールディングス
▽カスハラについて、身体的および精神的な虐待、過度または不当な要求、従業員の長時間の拘束、オンライン上の誹謗中傷など、内容を明確にしている。
▽カスハラ対応の手順を明確にしており、従業員任せではなく、組織的な対応を重視している。カスハラが発生した場合や対話による合理的な解決が不可能な場合、相手とのコミュニケーションを中止し、問題のある顧客へのサービスの提供を拒否することもある。
▽より深刻な場合には、警察や法律専門家と協力し、民事訴訟や刑事告訴を含む法的措置を追求する権利を留保している。
(2)吉野家ホールディングス
▽従業員の安全と人権を優先し、カスハラと見なされるいかなる行動にも断固たる対応をとることを明言。
▽ハラスメント事件への組織的な対応を行うことと、ハラスメントに関与した顧客へのサービスおよび今後の連絡の拒否の可能性、必要に応じた警察および外部の法律専門家との協力も含まれる。
▽従業員がカスハラに関する相談や報告を行うためのシステムを確立し、従業員に適切な教育と研修を提供。
(3)日本マクドナルド
▽世界中でチェーン展開していることから、同社はグローバルな「業務上の行動基準」と、倫理的な行動と尊重を強調する日本固有の「行動規範」ハンドブックの下で運営されており、これに基づき、不当な利益を得ようとする攻撃的な苦情を装った脅迫を容認しないという方針を掲げている。
▽従業員がカスハラのトラブルについて、相談や報告ができる内部通報システムとして、コンプライアンスホットラインを設置しており、カスハラに直面している従業員が事件を報告し、会社からのサポートを求めるために使用されている。
大手外食チェーンが採用しているカスハラ対策は、(1)カスハラの定義を明確にする(2)従業員に対する手厚い支援策を提供する(3)カスハラを行う顧客に対して断固たる措置を講じる意思を示す、などが挙げられる。日本のサービス産業では、長らく「お客さまは神様」的な意識が強かったが、カスハラ対策が始まってからは、カスハラを働く顧客に対してサービスを拒否したり、深刻な場合には警察や法律専門家と協力する可能性があるなど、従来の主従関係的な姿勢を大きく転換しつつある。
メディアやSNSの効果もあり、飲食店のサービスに対する顧客側の意識も変わりつつある。中小チェーンや個人店でも、理不尽な要求やカスハラ行為に対して毅然とした対応をとるためにも、事前にお店としての対応ルールを決めることと、普段から対応手順を共有しておくことが求められている。