料理人の野菜仕入れ活用テクニック(4)
新メニュー開発、売れるメニューの創造を応援する本紙は、素材の差別化と国産野菜の活用をテーマに全国の地野菜を紹介する「うまいぞ地野菜」を4年間にわたり連載してきましたが、専門店の料理人の間で大好評だったことから、このたび発行の臨時増刊『2003年度版・外食新メニュー実用百科集』の中に総集編を掲載しました。発行にあたり料理人のコメントを連載で紹介します。
◆濱田家 南雲和市氏
日本料理は春夏秋冬、季節の素材を必ず添える。
でも残念ながら山菜など築地に出回っているのはほとんどハウス物。
私は故郷が新潟なので天然のおいしさを知っているが、料亭に使える形の整ったものを安定的に仕入れるルートを確立することはなかなか難しい。
その中でも季節が感じられて好きな野菜は「浜防風」。
春先から5月まで出回るセリ科の多年草で、天然物は浜に自生している。
地方によって呼び名も違い、茨城あたりは「浜咲く」という。
葉の部分は硬いのでおいしくないが、茎は香りがすごくいい。
酢の物、あえ物、おひたしにする。
また、最近手に入らなくなった「松露」も欲しい食材。
春と秋、海浜の松林砂中に生えるキノコで、天然物しかない。
丸いムカゴのような形をしているが、中はスポンジ状でフワフワしている。
調理前に砂をブラシで落とすのが面倒だが、珍しいので喜ばれる。
うまみはないものの香りが高く、味を含ませて、吸い物、酢の物、蒸し物などにする。
最近お客さんも懐石に飽きて、普通の家庭料理を出して欲しいと希望されることがある。
そんな時はフキとタケノコなどを炊いたものが喜ばれる。
◆乃木坂神谷 神谷昌孝氏
好きな野菜は、どんな料理にも使える歯ごたえがあるもの。カブはクセがないため、生でもいいし、かつらにむいて、そうめんのようにもできる。軟らかくゆでたものを裏ごしして、椀のみぞれ仕立てにすることもある。あまり手を加えすぎると、カブの味がなくなってしまう。お客さんには煮物などのほっとしたものが受ける。トロトロに炊いて、すっと食べる時のアツアツ感とのど越しのよさ、カブの香りがすっとのどを通る。だしにはこだわっているため、調理自体はシンプルでも作るのは難しい。家庭ではできない味だ。
タケノコは、ウチでは細く切って、ワラビと牛肉のスライスと一緒に、小さな土鍋でしゃぶしゃぶにして出すと、お客さんはとても喜んで下さる。また菜の花やタイの子をふっくら炊いたものなどを合わせると、タケノコの食感をより楽しめる。ほかに、タケノコを細かく刻み、豆腐を混ぜて団子を作り、油でさっと揚げて、あんをかけたもの。低温で真っ白に揚げたタケノコの上に、中華のトウチを炒めたものを乗せるといった日本料理にはないアレンジも面白い。
西洋野菜もよく使う。簡単なのはレタスの煮物。一枚ずつはがして、さっと湯にくぐらせ、冷たい八方汁に浸して、豚のしゃぶしゃぶを一枚ずつ交互に挟み、一人前ずつカットする。レタスのシャキシャキ感と肉の相性が良い。料理の鉄則からすると、油のない野菜には油のある素材を加えるとおいしくなる。
◆分とく山 野崎洋光氏
いま素材として面白いと思うのはゴボウ。圧力鍋で軟らかく煮てから揚げるとすごく軟らかくなってびっくりする。煮るだけでは歯ごたえがなくなるが、それを揚げると香ばしさが出てアクセントができる。目先を変えるのも調理のヒントのひとつ。
野菜で重要なのは鮮度。鮮度が良ければ、野菜からだしが出る。京都が薄味なのは、野菜がおいしいから。鮮度のいいゆでたての大根は、ほんのちょっと醤油をたらしただけでも十分おいしい。切干大根も干したことでうまみが出るので、炊くときは昆布だけあればカツオだしはいらない。本来はそういうものだったが、素材に味がなくなると、ついつい濃い味になってしまう。
鮮度を見る目を養うのは訓練。でも野菜は他の食材に比べて安いので、どうしても真剣みに欠ける。値段に関係なく、良いものは良いと認められる能力が大切だ。
「おいしさの価値」を本当に分かっている料理人は少ない。野菜はいま一年中栽培されているが、やはり旬の露地ものにはかなわない。グリンピースなど露地の表面が枯れたようなものが本当はおいしい。山菜も天然物は甘い。もちろんいつも天然物を使うのは無理だが、そういうことがちゃんと分かっているか。しょせん栽培物が天然に勝てるわけないが、どうやってそれに近づけるか。それが料理人の仕事。
◆紫水 長島博氏
こだわりがあるのは芋・ナス類。通年通して扱え、同じ素材に見えても季節によってエビ芋から里芋というように変わるので、煮物でも味に変化が出せる。品質のブレも少ないので、上手にだしをひいて煮含めればおいしくできる。昔は流行の料理法をいろいろ取り入れたが、最近は原点に戻ってきた。焼き物でも、里芋やレンコンなどをそのまま焼いて、クルミ味噌やウニ味噌を乗せただけというシンプルなものの方が野菜の味わいが出る。
素朴さを味わいたいという感覚は、お客様の期待の中にもあるだろう。お客様に喜んでいただける食材を選ぶ目、それを生かす下ごしらえや炊き方、そうしたことの方が大事だ。
調理法でおいしくなる工夫はたくさんある。たとえば大根とジャコを一緒に炊いて、取り出したジャコとだしと一緒にペーストしたものを、仕上げに大根に乗せる。一見ジャコとは分からない意外性があり、ジャコをそのまま大根に乗せるより口当たりが良く食べやすい。
また、面白いのはベジタブルアート。食用と装飾用と二種類あるが、刺身にちょっと添えるチョウやカエルなど、私の技法なら包丁の切れ目を覚えれば一分でできる。ニンジンからチョウという別の生き物が生まれる。それが楽しい。タケノコからツルや亀、ゴボウからツクシ、里芋から梅など、いろいろな図案があり、楽しく食卓を囲んでもらうための話題づくりに役立っている。