御意見番:ファミリーレストラン 押野見喜八郎・FSプランニング代表

2004.01.15 279号 4面

ファミリーレストランを取り巻く環境は悪化している。まず消費の流動化。昨年丸ビルが二四〇〇万人(延べ人数)、六本木ヒルズも半年で二六〇〇万人(同)と二大ビルだけで五〇〇〇万人(同)以上を集客。さらにお台場や品川などの再開発のビルを入れると、一億四〇〇〇万人前後(同)の集客が都心に集中している。

東京はもともと三〇〇〇万人商圏。この数字はどこから沸いてくるのかというと近県からの流入。皆がこれらのビルで食事をしているわけではないが、休日に都心に出かける人が増え、首都圏郊外のファミレスの客数を押し下げている。

また、ファミレスの主力となる年収四〇〇万円前後の客層が崩壊しはじめている。所得の伸び悩み、賃金カットなど厳しい経済環境から外食機会が減っている。さらに低価格業態でコアとなる若年層が一番厳しい。社会保険庁の調査では、二〇歳代の国民年金の未納率が五〇%を超えた。これは五〇%はまともな企業に就職していないということだ。外食にお金を使えない。内食や惣菜に切り替えが進み、ファミレスの重要顧客が外食市場から落ちこぼれ、この環境は当面続こう。

一方、外食企業そのものの収益も悪化する。ひとつは食材コストの上昇だ。輸入の牛、豚、鶏ともセーフガードや規制で価格が高騰している上、需給がひっ迫し、手当てが難しい。これまでは調達力が大きければ仕入れも安くなる市場原理が働いたが、いまは逆にネックとなっている。中国野菜も安全性の問題で輸入が減っている。また国産のコメも今年の冷害で、仕入れ価格が軒並み三割以上アップしている。為替も心配だ。米中貿易の拡大で、米国は元を上げるように圧力をかけている。そうなれば今までのような安価での輸入はできない。さらに、レイバーコストのアップも追い討ちをかける。パート従業員の年金・社会保険強制加入は、外食企業にとって避けられない負担だ。

ファミレスは、すでにフォーマットが陳腐化している。価格も中途半端、メニューに目新しさもない、レイバーコストを削って利益を捻出してきたので、サービスも荒れている。消費者にとって楽しみも刺激もない。消費者離れ、コストアップによる収益の悪化で、今年はまさに四面楚歌。さらに厳しい年になるはずだ。

お客の方もファミレスの再生を求めてはいない。過去の栄光にすがって、いずれ顧客が戻ってくると期待するのは勝手な思い込みだ。これからは消費者が新しくお金を使うに値する専門業態に転換していくしかないだろう。すでに焼き肉やイタリアンなどが模索されている。価格も必ずしも安ければ良いわけではなく、ファミレスに二回行ける価格で、専門業態には一回しか行けなくても、満足感は三倍ある。ファミレスが生き残るためには、構造的な生まれ変わりが必要。

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