名古屋版:対談・中食革命 料理は「作る」から「買う」時代に変化
新しい年が明けた6日、中食市場を引っぱるデパ地下惣菜の両雄、ロック・フィールドの岩田弘三社長、柿安本店の赤塚保社長とのパネルディスカッションが名古屋で行われた。両氏は中食の本質を女性の社会的地位向上による必然的な食行動の流れとした上で、デパ地下ブームは一種の「バブル」とも例え、冷静に対処する姿勢を示すとともに新たな展開として路面店へのシフトを今後の方向として明らかにした。
‐‐中食の持つ役割は。
岩田 昭和初期には、食を囲む家族像も含め健全で豊かな食生活が営まれていました。しかし時を経て今、「食育」「食楽」がクローズアップされ、改めて質的な豊かさが求められています。将来の日本の食文化を担う役割として、中食があるととらえています。
赤塚 お客様の立場に立つことが基本です。調理不可能な人たちへ、高品質な素材でおいしいものを提供することを使命にお役に立ちたいと思っています。
‐‐企業理念をどうぞ。
岩田 創業して三二年、ヨーロピアンデリカテッセンに始まり「ごちそう」としての評価をいただいていましたが、その後ライフスタイルの変化の中で、非日常から日常惣菜への道を歩み出しました。そして企業理念として「健康」「安心」「安全」「環境」に取り組んでいます。
赤塚 お客様第一主義を貫き、安心、安全、健康な食品を提供し、スピードと変化の時代ニーズに即応してきたのが現在の「柿安」の企業理念です。
‐‐デパ地下ブームの実体については。
岩田 デパートも時代に身を任せ巧みに展開を重ねてきました。高級ブランド志向からご進物がピーク時の半分に満たない時代に移り、新しい方向を模索していた中で和菓子・洋菓子と惣菜がデパ地下の大きなMDの柱になったわけです。一時的にバブリーに存在したのがデパ地下ブームで、バブルは必ずはじける日がくると思っています。
赤塚 惣菜部門を立ち上げた動機は、アナリストから従来のままでは成長性がないと指摘されたこと。小売業と料亭の経験があった私は、惣菜を簡単に考えすぐに着手しました。好調でしたが、予想外の利益率の低さに外食とは異なることを痛感しましたね。
大変厳しい現状ですが、今は質の時代、技術と素材両面にバランスをとりながら、価値を認識していくことが大切でしょう。
このバブルは決して長く続くとは思いません。だからこそ今何をやるべきかでしょう。
‐‐生活者のライフスタイルは今後どう変化し、どう対応すべきでしょうか。
岩田 女性の社会進出で消費のリーダーシップは女性の手にわたり、ライフスタイルもアメリカからヨーロッパへ移行、消費者も成熟化してきました。大きな変化の表れでしょう。
赤塚 中国では料理をするのは半数以上が男性とききますが、日本でも主婦は料理をつくらなくなりました。料理は「つくる」から「買う」時代に入ったのでしょう。そんな状況にいかに対応するべきかですね。
‐‐女性のパワーが社会を変えつつあるのですね。
ところで、「ものづくり」の点でロック・フィールドがCK、柿安が店内調理と、方向が異なります。
赤塚 基本的には職人を主とする考え方でスタート。その上で、つくってから消費者の口に入るまでの時間短縮を図ったところ、現在の方向性となりました。
レストランと惣菜の違いはつくりたてと数時間後の提供の差です。それをふまえいかに魅力的な商品をつくるかが課題です。
岩田 供給側にとって経営資源をいかに長期間もたせるかが課題ですが、生活者は新しいパラダイムを求めていることでギャップが生じました。供給側にとってお客様のニーズへ急激に転換すると短期的に収益は出せず、結果として付加価値をつけられません。ニーズと生産現場に大きなギャップが生まれたわけですね。
私どもの店舗における食のあり方と生産現場のあり方を考えた場合、お客様の多様化が大きなポイントになります。そこで商品ニーズを細かく把握し、求められる時間、求められる場所に細かく対応して供給するトヨタ方式の「ジャストインタイム」という考えをすすめていきます。
店舗で生産するのはやはり難しい。百貨店などは物をつくる場所ではないという考え方で今後は二つの工場とサポートキッチンの機能を最大限に生かしながら売り場での対応を行います。
‐‐「安心・安全」についての考えをお聞かせ下さい。
岩田 一店舗から排出される大量のごみを肥料に利用する事例が美談とされてますが、疑問をおぼえます。私どももそういった矛盾に対応していかなければならず、これは「安心・安全」以上の課題だと考えます。
赤塚 安全で健康的な人生には「食」が不可欠。それには産地の実態を把握し、生産者と情報交換しながらともに取組むことが大切です。厚生省が許可する農薬を使えば品質には直接影響はないけれど、量を求めるあまり品質の低下を招いたのでしょう。今後は食品界全体で食の信頼回復に努めなければなりません。
岩田 私も日本の食は「安全」が大前提だと思います。しかし基本的には農薬の使用が問題なのではなく、残留農薬や残留ホルモンがあるかどうかが焦点です。日本の農畜産品は付加価値があるし、自信をもって育てていくべきでしょう。そのためにも私たちが生産者とどのようにコラボレーションできるかを考えています。生産者とともに第一次産業の発展に貢献したいですね。
‐‐「デパ地下」から次の展開は。
岩田 今後は出店攻勢盛んなSCなども視野に入れていきたいですね。
赤塚 現在六〇店舗あまり出店していますが、一三〇店舗が限度です。新たな試みとして、名古屋に路面店を三店オープンさせました。五〇店舗を目標に、できれば今期四~五店はオープンさせる予定です。
‐‐今後の方針は。
岩田 ファクトリー機能を利用し、ビジネスモデルを確立していきます。
赤塚 新しいビジネスモデルを構築し、ブランド力を強め、一三二年の伝統のもと、今後三年で三四〇億円を目指します。
◆プロフィル
(株)柿安本店代表取締役社長・赤塚保氏
創業130年を誇る老舗「柿安本店」の5代目。2001年に副社長から社長に就任。惣菜事業「柿安ダイニング」を立ち上げめざましい勢いで中食市場を牽引する。信条は「現場・現物・現実主義」。桑名出身、69歳。
▽本社=三重県桑名市吉之丸8番地、電話0594・22・6881
(株)ロック・フィールド代表取締役社長・岩田弘三氏
1972年に高級デリカテッセンの新会社を設立。89年には「神戸コロッケ」を空前のヒット商品に。その後日常的なサラダ惣菜へ転換を図り、惣菜業界一の「RF1」ブランドを確立する。神戸出身、63歳。
▽本社=神戸市東灘区魚崎浜町27番地40、電話078・435・2800