アポなし!新業態チェック(34)「珈琲茶房椿屋」丸ビル店

2009.10.05 363号 04面

 カジュアルなパスタとケーキの店「ダッキーダック」や生麺スパゲティ専門店「ドナ」などで知られる東和フードサービス(株)は、去る6月、東京丸の内の丸の内ビルディング5階に「珈琲茶房椿屋 丸ビル店」をオープンした。

 この店は、同社の高級喫茶業態「椿屋珈琲店」のディフュージョン(普及型)ブランドであり、昨年の渋谷店に続いて商業施設内には初出店だ。銀座をはじめ超一等地だけに出店してきた「椿屋珈琲店」のブランドを生かして、より幅広い客層に対応するため、商品と価格を見直した姉妹業態として位置付けられる。

 「椿屋珈琲店」で最低価格が880円からであるコーヒーを300円近くも低く設定し、女性に人気のパスタなども取り揃える。メニューには、自家焙煎した豆をコーヒーサイフォンで抽出する「椿屋オリジナルブレンド」(600円)をはじめとしたアレンジコーヒーや紅茶などのドリンク類のほか、甘さを抑えたケーキやアイスクリームを使ったデザート、食事メニューも充実させている。ドリンクのほかにパスタなど4品がセットになった「お得なプチディナー」(1480円)は人気商品のひとつ。

 「椿屋珈琲店」と同じ「大正ロマン」をコンセプトにしつつも、店舗面積を3割ほど削減してコンパクトにした店内は、最新の商業施設にふさわしいレトロモダンなイメージを打ち出している。

 同社では、さまざまなブランドで喫茶業態を展開しているが、知名度の高い「椿屋」ブランドの活用を狙っているという。

 ★けんじの評価

 三菱地所の威信をかけた再開発により、古めかしいオフィス街が最先端のビジネスセンターと商業ゾーンに生まれ変わりつつある東京丸の内エリア。その皮切りとなったのは丸の内ビルディングの再開発だ。丸ビルの愛称で親しまれた丸の内ビルディングが建て替えられたのは2002年、近隣のビル群の中ではすでに老舗の風格が漂う。

 その丸ビルの5階に出店した「珈琲茶房椿屋」は、ある年代以上の人々にとっては、外資系外食チェーンが日本中を金太郎飴に変えて以後、忘れていた記憶を呼び戻させてくれるオーソドックスな「喫茶店」だ。

 シアトル系のローストとは異なるサイフォンでいれたコーヒーの味。素朴な高級感を感じさせるロイヤルコペンハーゲンの食器。口に含むとほのかにレモンが香るお冷やの水。店内に流れる弦楽四重奏のクラシック曲など、そのどれもが年輩の客層には懐かしい「高級喫茶」の雰囲気だが、何よりもうれしいのは、最先端(?)のメード服に身を包んだ女性スタッフの丁寧な接客に違いない。

 この店の接客を受けて初めて気づいたが、最近、こんな風にきちんとアイコンタクトを取って注文を聞いてくれる飲食店はそうあるものではない。「そう言えば、昔の喫茶店はこうだったよなあ」と、しばし感慨にふけってしまう。見ると、やはり同じような心理なのか、スタッフと会話を交わす年輩の常連客もチラホラ。

 チェーン化に向けた経営効率の問題は抜きにして、若い女性スタッフたちにこの接客レベルを遂行させている同社の意欲と誇りがうれしい。

 (外食ジャーナリスト 鷲見けんじ)

 ◆店舗概要

 店名=「珈琲茶房椿屋 丸ビル店」/開業=2009年6月27日/所在地=東京都千代田区丸の内2-4-1 丸ビル5階/席数=61席

 ◆鷲見けんじ=外食チェーン黎明期から、FFやFRなどの動向を消費者の目線で見続けてきたアンチグルメな庶民派ジャーナリスト。甘口辛口を取り混ぜた乱筆乱文でチェーンの新業態をチェック。

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