ここだけの業界ネタ:優しい店作り「久兵衛屋」

1999.10.18 190号 14面

これからの時代を占う注目のチェーンがある。久兵衛屋(本社=埼玉県熊谷市)といううどん専門店だが、特徴的なのは高齢者やハンディキャップのある人たちが利用しやすい店づくりを行っていること。

トイレや洗面所に至るまで、すべて段差のないバリアフリーで、企業として提供しうる最大限の配慮を、ハンディを背負った人たちのために割こうとしている。

店舗はすべて木で造っているが、その木材は廃材にされてしまう規格外のものをわざわざ選んで使っている。どんなロードサイドでも、排気ガスを出す車より、自転車置き場を多く取って、徒歩や自転車で来店しやすい店を明確にうたっている。

こうした取組みがすぐに収益に結びつくものではないが、なるべく地球や人間そのものに負荷をかけないような店づくりを一生懸命やっている。

久兵衛屋の社長は、以前は大手チェーンのフランチャイジーとして数十店舗を切り盛りしていた。その時期、フランチャイジーとして「こんなことをしていいのか」という悲哀をずっと感じていたという。

自分たちが本当に正しいと思うことをやっていけるような企業にしたいという思いから、いまの店を立ち上げた。その一方、これまでフランチャイジーとして甘んじていた部分もあり、いまはすべて自分たちでノウハウを作っていかなければいけない。

こうした企業は、今後は出て来ざるを得ないし、必要とされてくるだろう。現実と理想とのギャップは常にあるが、現実がそうだから、理想を壊していいということにはならない。

理想に一歩でも近づけようと、また収益が取れる企業にするために、同社が取った選択のひとつとして、同社の考え方に同調する不動産のオーナーとしか物件の契約をしない。さらに一五〇〇万円ほどの協力金をもらっている。通常貸し手のオーナーにお金を払うことはあっても、もらうことはないだろう。それでも店の趣旨を理解して協力金を出してくれるオーナーがいる。それでいま一二店舗まで拡大してきた。

将来に向かって、その場所が周辺の人に好感を持って受け入れられるようになることは間違いない。

(林原安徳)

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