雪印の食中毒事故に学ぶ・問われる経営姿勢
6月27日に発生した事故は、社会に不安を与えるとともに衛生管理の信用を失墜させた責任は極めて重い。事故以来およそ1ヵ月経過し、問題点と今後の衛生対策が鮮明とならぬまま終息したかに見える。そこで、この事故をフードサービスに照らして考察してみたい。(表=厚生省資料)
食品製造企業の生命線である衛生管理において、倫理観の欠如(モラルハザード)は、消費者に対する裏切り行為と言っても過言ではない。が、フードサービス業界の現状も決して対岸の火事では済まされない。年間の食中毒事故の約三〇%は飲食店であり、この傾向は変わらない。
経営トップはそうした衛生管理を現場任せにし、実態を把握していない例が多い点、認識を改める必要がある。消費者優先が軽視され、効率優先、売上げ絶対主義がこうしたモラル低下を助長する要因となっている。
従来のこうした企業の存続を脅かす経営手法がある。消費者軽視、反社会的経営、モラルの欠如、閉鎖的経営などである。金融不祥事、政治家の業界癒着、東海村の事故など、いずれもこうしたあしき日本型経営の特徴と言える。
一方、フードサービス業界の衛生実態は雪印の比ではなく、水浸しの厨房、常温放置の食品取り扱い、劣悪な作業環境、衛生モラルの低い作業実態など、いずれも常識以前の問題が多い。今回のような事故が起こるたび、本来問われるべきは企業倫理と経営トップの姿勢であることを痛感する。
今回の事故で消費者の不安を助長し被害を拡大させた原因は、雪印の対応のまずさであり、情報公開の遅れや二転三転する説明がさらに不信感を募らせた。迅速な情報公開がされていれば、被害はもっと少なくてすんだと予想される。
一方、HACCPは国際的衛生管理手法であり、国際社会のルールは情報公開である。HACCPの承認を受けても、こうした国際ルールが改善されない企業は多い。そのことが国際社会の信頼を得られない重要なポイントではないだろうか。
フードサービスでは、厨房内の環境改善など作業者自身経営者に強く要求することが管理者の責務である。
大阪市は、事故の原因施設と原因材料が判明した時点で営業停止や製品回収命令を出すことはできなかったのだろうか。被害拡大の原因はこうした不手際もある。また、雪印の操業再開許可にあたって、問題点に対する改善措置や汚染ルートが不明のままである点不安は拭えない。こうした例は、九七年のO157事故でも同じであり、教訓が生かされていない。
ところで、今回の事故で「HACCP総合衛生管理製造過程の承認」が改めてクローズアップされたが、日本と諸外国(先進国)のHACCPシステムの相違も明らかになった。
例えば、アメリカやカナダではHACCPの運用を政府機関が定期的に監査をしているのに対し、日本では形式的な書類審査のみで、その後の運用状況に対し適切な監査が実施されていないことである。これでは、HACCPは単なる営業上のパフォーマンスであり、消費者保護の目的は達成されない。
HACCPが有効に機能していれば中毒の原因は早期に解明されると考えられ、今回の事故を教訓にHACCPの承認方法や検証方法を見直すとともに、行政の毅然とした対応を期待したい。
HACCPやGMP(適正製造基準)は事故の問題検出ではなく、あくまで予防である点を認識するとともに、HACCPの過信は禁物である。
今回の事故では、返品製品を不衛生な環境と手順の下で外部業者が取り扱っていたことが判明しているが、作業者は適切な衛生教育を受けていたのだろうか。衛生知識があれば、こうした不適切な作業に対し疑問視し、事故を未然に防止できたのではないだろうか。
この点フードサービスでも同様で、食材納入業者などの衛生管理は徹底しているだろうか。場合によっては相手方の工場検査などをするような体制も必要である。
((株)サニテック・本山忠広)