海外情報・ニュヨーク外食事情 新鮮・大盛りで人気の「ともえ寿司」
日本料理は、中華、インド、イタリア、韓国料理などとならんで、ニューヨークのレストラン業界でひとつの地位を確立したようだ。東京の環状線内にすっぽりおさまる程度の大きさしかないマンハッタン内だけでも、一五〇を超える日本食レストランがしのぎを削っている(ニューヨーク便利帳・7より)。このほかにも、すし、天ぷらなどを出す韓国料理店も多いので合計はもっと多い。
ラーメン、うどん、しゃぶしゃぶ、天ぷらといろんな形の日本料理店がある中で、すし屋をニューヨークで開き、客足をつなぎとめておくことは難しいことと思われる。
そのすし屋の中でも抜群の人気が「ともえ寿司」。夕方7時すぎにぶらっと行くと長い行列ができていて、あきらめざるを得ないこともあるほどである。
場所はダウンタウン。周囲にはたくさんのレストランやライブ演奏の店、はやりの服やアクセサリーの店がひしめきあって、若者が夜を徹して集う街である。店はにぎやかなブリーカー通りの角をまがった所にあり、落ち着いた雰囲気である。
ともえ寿司は八年前にオープンした。店内は小さな方だ。五席あるすしバー(カウンター)をいれても三五人で満席になってしまう。オーナーの方針で支店を出す予定はおろか、宣伝広告も一切行っていない。宣伝をしなくてもさばききれないほどの客が来店するからだ。マネジャーの北村さんいわく、ニューヨークで店を構える日本食レストランには二つのタイプがあるという。
ひとつは味よりもエキゾチックな東洋趣味を重視して、内装にお金をかける店。新鮮な材料を使う日本料理、特にすし屋は値段が比較的高価にならざるを得ないので、特別なごちそう感覚でたまにしか来店しないというアメリカ人がまだ多い。彼らにとっては味より雰囲気を楽しむ、という目的で日本料理店に行くのだから、必要以上に日本情緒を打ち出したレストランも、それなりにはやっている。しかし常連客はつきにくいともいえる。
もうひとつのタイプは、器より実をとり、多少内装に目をつぶっても新鮮な材料を適切な価格で客に提供することを第一にもってきている。会社の接待には使えないかもしれないが、個人的に通いたい店とでもいおうか。
後者の典型であるともえ寿司は、客の六割強が常連だというから忙しいのも納得がいく。人気の秘密はオーナー自らカウンターですしを握るという家庭的な雰囲気も一役かっている。しかもここのネタの大きさは、刺身が醤油の小皿からはみだすくらい巨大でしかも新鮮である。
スシ・サシミコンビネーション(一六㌦七五セント)は、男の人でも腹いっぱいになる盛り合わせだ。ほかにもレギュラー(並、一二㌦七五セント)、デラックス(特盛、一五㌦七五セント)と、すしだけの盛り合わせもほかのレストランの同じ値段のメニューよりおいしい。もちろん単品のオーダー(イカの握り一個一㌦七五セントから)も可能だし、日本産ビールや日本酒の品揃えが豊富なのもうれしい。
すしは原価率が高いし、生ものを扱うのでリスクが大きい商売である。ともえ寿司は客の回転率がよいのでその日に仕入れたネタはほとんど使いきってしまうという。在米日本人は誰でも、一見して古いとわかるすしを出された経験があるので、一度ともえ寿司に来たらほかには行けなくなる、とまでいわれている。
小さな店には、大きな店にないメリットがある。大きな店だと日本人の料理人が大勢雇えず、勢い最近増えてきているように原地の人、例えばスパニッシュ系の人達をキッチンに入れざるを得ない。ご飯の炊き方など細かい部分はやはり伝えるのが難しく、雇う側も大変のようだ。
ともえ寿司のスタッフはすべて日本人で四人。それに加えて常時四人位が毎日一五〇人ほどの客に応対している。小さな店とはいえ、客平均単価は二〇㌦を超す。現状では手いっぱいだからあまり大勢のお客さんに来られてもむしろ対応に困るそうだ。
特に目玉商品も置いていない。むしろオーソドックスなメニューが並ぶともえ寿司。ここまで人気があるのは、おいしいすしをたべたいお客さんに提供するという、オーナーはじめ従業員一同の飾り気のない信念が受け入れられているのだ。いつまでもマンハッタン内にあり続けて欲しい店である。
〈ともえ寿司〉一七二トンプソン通り(ブリーカー通りとハウストン通りの間)、電話212・777・9346、営業時間昼1時~3時、夜5時~11時、火曜定休日(オーナーが来れない日は休む場合もある)