高度成長する惣菜・デリ パン小売店が注力、多様なメニュー提案

1993.04.05 25号 20面

おいしい惣菜は、「できたて・つくりたて」であるとともに素材の鮮度が重要である。従来、生鮮品の残り物処理レベルの惣菜・デリを提供していた量販店は、最近では惣菜・デリを第四の生鮮品と位置づけたマーチャンダイジングを打ち出すようになった。一方、百貨店はこれまで老輔の和惣菜や海外高級ブランドのデリカテッセンなどのテナント充実に傾注してきたが、ここにきて地域の量販店のお株を奪うほどに生鮮品売場の拡充を図っている。

生鮮品と惣菜・デリの取扱いウエートは異なるものの両業態ともに生鮮品と惣菜・デリをうまく連動させたフレッシュ・マーチャンダイジングを志向していることは疑いない。

これは百貨店、量販店などの大規模小売店舗だけの傾向ではない。地域生活に密着した昔ながらの精肉小売店、鮮魚小売店、青果小売店においても同様の傾向が見られる。

たとえば、精肉小売店では従来、片手間で作っていた「コロッケ」「メンチカツ」などの揚げ物惣菜を、最近では具材・味付け面にこだわった商品にリニューアルしたり、オリジナルブランド化を進めるといった店も登場し始めている。

これらはいずれも、新鮮な食材の仕入れノウハウがあるからこそ、特徴ある惣菜・デリの開発が可能であったとも言えるが、むしろ既成のフレッシュな店舗イメージが惣菜・デリの品揃えを違和感なく取り込めた結果と言うことができよう。

生鮮品ではないが、店に漂うフレッシュイメージが重要な業態コンセプトとなるものにパン・菓子小売店がある。特に「焼きたてパン」をメインマーチャンダイジングとする店は、「できたて・つくりたて」を身上とする惣菜・デリショップと相通じる業態特性を持つといえよう。しかし、根本的に異なるのは、一般の惣菜・デリショップがいわゆる“おかず”をメインマーンダイジングとしているのに対し、パン・菓子小売店は“おかず”ではなく、主食的商品が中心であることだ。

そこで、パン・菓子小売店では、新たなパン食シーンの創造と新規需要開拓のためのひとつの方向として、惣菜・デリの取組み、品揃え強化が進められるようになった。

今回はそうした、パンと惣菜の複合業態店を目指す「メゾン・プー」の事例を紹介することにしよう。

《パンに合うデリを品揃え固定客獲得》 「メゾン・プー」を経営するケーシーデリカ㈱は、川崎商事八〇%、敷島製パン二〇%出資の合弁会社。デリカテッセンとパンを組み合わせた新しいタイプの店として、九〇年三月、東急田園都市線青葉台駅近くにオープンした。

同店の特徴は、何と言ってもパリの「メゾン・プー」本店のレシピを、フランス料理のシェフとして有名な水口多喜男氏が日本人の嗜好に合うようにアレンジした、いわばパリと日本の合作によりデリメニューの数々である。

同店の立地条件は、典型的な住宅街で、ニューファミリーから老夫婦まで幅広い年代層が生活している。生活レベルもまさに中流的だ。よって日常の食生活において、気軽に食べる惣菜・デリに対してまず求められるものは、「お手頃感」である。その一つのプライスラインは二五〇~三〇〇円と言えよう。

そこで、同店をオープンするに当たり、まず日常の食生活レベルにマッチしたメニューと価格とのバランスを実現するべく生産・販売店の合理化を図った。商品化のプロセスは、パリの「メゾン・プー」本店から送られてくるデリのレシピを、いったん水口氏に検討してもらい、最終的に同店の判断によって生活者のニーズに合った材料に置き換えるという具合だ。

同店にはもう一つ特徴がある。それは独自の品質安定システムである。デリ、ベーカリー全ての商品がマニュアル化されているので、パート中心のオペレーションでも、日々安定した品質の商品を提供し続けることが可能となっている。

また、店内に陳列されているデリ、ベーカリーともに時間に応じてタイミングよく補充されており、デリとベーカリーのフレッシュ感が見事に店内全体に漂っている。

主なデリメニューを紹介すると、ドリア・グラタン類では「なすのグラタン」(三二〇円)、「えびのドリア」(二八〇円)、「シーフードドリア」(二八〇円)など約一〇種類、コロッケ類は「牛肉コロッケ」(九〇円)、「カニクリームコロッケ」(一四〇円)、「ポテトコロッケ」(一三〇円)など六種類。サラダ類は「ハムポテトサラダ」(一八〇円)、「ツナポテトサラダ」(一六〇円)など四種類。その他、フライ類三種類、ベーカリーとデリの組み合わせ商品が九種類など全部で約五〇種類のラインナップだ。

《パン食の拡大図る》 人気メニューは、「コールスロー」「大根サラダ」「ハムポテトサラダ」「カニクリームコロッケ」「南瓜コロッケ」「ロールキャベツ」「ハンバーグ」「なすのグラタン」「えびのドリア」「わかさぎのマリネ」など。客単価は六五〇円前後とのこと。

同店の周辺環境には、大手量販店、CVSをはじめ、同じ商店街に軒を連ねるパン小売店が数店あり、厳しい競合関係にある。そんな中にあって、同店はオープン以来、確実に固定客を増やしているのは、パンと惣菜を組み合わせた“デリベーカリー”というコンセプトを商品的にも店舗イメージ的にもうまく踏襲できていることに起因する。その代表商品はやはり、「サンドイッチ」ということになるが、むしろ、主食的なベーカリーとサイドディッシュとしてのデリの豊富な品揃えによって、従来のパン小売店にはできなかった多様なメニュー提案を実現できている点が大きく影響していると言えよう。

現在、パンとデリとの品揃え比率は、三対一であるが、今後もパンに合ったデリメニューを基本に、新しいパン食需要の拡大を図りたいとしている。

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