これでいいのか辛口!チェーンストアにもの申す(6)吉野家現場の本当の姿

1998.04.20 150号 18面

「売上げが六〇〇億円なのに、なんで一〇〇億円もの利益を捻出できるのだろう。う~んすごいチェーン店だ!」

そんなため息まじりの声が、新聞記者や評論家、金融マンから聞こえてくる。これは吉野家の決算発表に立ち会った時のことだ。

しかしである。牛肉の高騰と放漫経営が原因で過去に一度倒産した吉野家が、または牛丼商売が、こんなにもうかるものであろうか。なんか変ではないか。たしかにチェーン店のスケールメリットは大きいのだろうが、それにしてももうかりすぎではないか。とりあえず吉野家の強さを以下に挙げてみた。

利益は100億円強さの要因10項目

(1)輸入自由化で、牛肉の価格が下がっている。

(2)コメの価格も下がっている。

(3)規格化された約六〇〇のチェーン店がある。

(4)そのためマスメリット(大量仕入れ)が効果を生んでいる。

(5)知らない人がいないくらい知名度は抜群である。

(6)メニュー価格を値上げせず据え置いている。

(7)消費税もメニュー価格に含ませ内税にした。

(8)二四時間営業で、朝食もよく売れている。

(9)立地も郊外・ロードサイドを主流としてきた。

(10)最近は若い女の子も入店するようになってきた。

ざっと挙げると、以上のような強さが目につく。たしかに収益に一番大きな影響を持つ牛肉とコメの価格が大きく下落しているのであるから、利益が大きくなるのは当然だ。しかし一〇〇億円、対売上げ約一七%の経常利益率は異常であろう。筆者は吉野家の関係者にあたってみた。そして、この一〇〇億円の利益が尋常な結果ではないことを突き止めたのである。

まず現場(社員、パート・アルバイト、取引業者、フランチャイズのオーナー)が泣いているのだ。徹底した経費削減とせこい利益至上主義がどれだけお店の現場に負担をかけ、いかに無理して利益を絞り出しているのかをここに公開したい。

交通費も出さない徹底した経費削減

まず、信じられないことがある。吉野家には、パート・アルバイトの交通費がないのだ。平成8年9月から、交通費のかかるアルバイトは採用しなくなった。本部社員を除く社員も交通費がないのだ。交通費がかかるようなところから通わせるな、というのが本部の方針なのである。これによって年間何十億円という経費が浮いた。

人情の厚い店長などは、自己負担でアルバイトに交通費を払ってやったり、アルバイトの集まらないお店では社員がタイムカードを打った後また働くなんてことがザラなのである。

経費は人件費、雑費、消耗品に至るまで徹底している。パート・アルバイトの深夜勤務は大変だろうと、一時間に一〇分間ついていた休憩時間が、有給から無給になり、ひとときでも休めば時給にならない仕組みになったのだ。これも平成8年からである。

全店が二四時間営業であることを考えると、これは深夜労働のパート・アルバイトにはきつい締めつけである。まして給料は、〆後二五日払いである。こんなことはまだまだ序の口で、もっとひどい労働強化と経費削減が、頻繁に行われている。

吉野家は社員の給料も低い。マクドナルドは、三〇歳の店長で一〇〇〇万円近い業界最高の収入がある。しかし、それと比べて申し訳ないが、吉野家は三七歳のエリアマネジャーで約六〇〇万円ぐらいという。深夜の店舗まわりや店舗チェック、スーパーバイジングを考えるとこの給料では安すぎる。

そのためか、年間四〇〇人近く採用される新人が一年間で三〇%も辞めていくらしい。その後三年間で、約七〇%、二八〇人が辞めていくともいわれる。こんな企業があるだろうか。

もうやめてほしい飽くなき拡大主義

吉野家の牛肉は、ボナカウという一種の水牛の肉である。コメも北海道の余りうまくないコメである。最近は古米を使っているらしい。しかし牛丼のたれがおいしいから、あの牛丼が食べられるのであるが、このボナカウ肉の原価はおおよそ一㎏三〇〇円である。それがFCには一㎏一〇〇〇円以上の値段で卸される。卵の卸価格は一個二〇円である。どんなスーパーで買ったって、今どき卵が二〇円以上するだろうか。その他の資材のほとんどが、原価の倍はかかっているにちがいないほど高いのである。

しかし、FCはそれを使わないわけにはいかない。であるから、FC店の食材原価率とFCロイヤルティーを合計すると、おおよそ五〇%にもなってしまう。しかし、売上げが高く人件費が低いカウンタービジネスなので、FCは二〇%の営業利益(オーナーの手取りと合わせた収入。そこからP/Aの人件費を引かなくてはならない)を手にすることができる。

しかし、こんなに高い卸売り価格があるだろうか。だから本部の差益は無限大である。だから一〇〇億円もの利益を計上できるのだ。毎年の大幅な増収増益こそチェーンストアの正しさを物語る、と誇示したいがためのデモンストレーションなのだろうか。そんな飽くなき拡大主義はもうやめてくれといいたい。もっと社員が豊かに楽しく働ける職場づくりをしたらどうなのですか、阿部社長。

(仮面ライター)

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