飲食トレンド:居酒屋で食べよう、住宅地の飲食ニーズをさらう居食屋
住宅近辺に立地する居酒屋が元気だ。本物志向のメニュー、アットホームな食卓の提供、そして地域に密着する経営志向は、従来のビルイン型の居酒屋とはまったく異なるもので、新たに“居食屋”なる業態語まで生み出している。今後の飲食店業界の中核を担う業態として、注目度は高まる一方だ。
居酒屋ニーズのドーナツ化現象に拍車がかかっている。ある大手居酒屋チェーンの幹部はこう指摘する。
「団塊ジュニアの成人化にともない住宅近辺の居酒屋が繁盛している。彼らは仕事よりも私生活を大切にする世代。私生活志向の延長線上に住宅近辺の居酒屋ニーズがある」
そして新規出店については「当然、郊外が狙い目。都市部の出店についてはもはや大型店にしか興味がない」という。
大手チェーン居酒屋の郊外進出が加速するなかで、地域密着を前提とするニュースタイルの居酒屋も増えはじめている。“居食屋”という新業態である。手作り志向の単独店が多いため目立たないが、チェーン店とは逆行するコンセプトで各地に点在している。
居食屋の特徴はいくつかある。客層が幅広く、地域住民のリピーターが多いこと。ファミリー客や女性客、地域の仲間客が大半を占め、勤め帰りのサラリーマンは少ない。住宅立地の近辺という低賃料の余裕を食材の原価率アップにあて、本物で手作りの料理を志向する。居酒屋特有の“憂さ晴らし”的雰囲気は皆無で、居食屋にとってアルコールはもはやオマケのような存在でしかない――などである。
こうした居食屋の業態化に先駆けた「八百八町」の石井誠二氏(つぼ八チェーン創始者)は、居食屋ニーズの背景をこう指摘する。
「従来の居酒屋は高度経済成長を支えた会社一辺倒のサラリーマンのやすらぎの場であり、会社や仕事を拠点に展開した。だが最近は自分や家族のためにと“プライベート”を重視する傾向にある。プライベートとは地元であり家庭です。それらを拠点とする居食屋(居酒屋)が求められる時代になったのです」
「手作り料理が支持されるのは、お客さんが横並びのチェーンストアメニューに飽きているからです」という。
夫婦共働きや子供の塾通いが一般化し、家庭料理や団らんの機会が減少している。こうした状況下、住宅地近辺の居食屋は、プライベート志向を追い風にしてさらに集客を強めそうだ。