で・き・る現場監督:焼肉「むさし」千葉富士見店店長・佐々木雅博さん
夜5時に開店し、朝4時に閉店する、完全に夜型な焼き肉店。駅前に位置するため、男性サラリーマンが六割を占める。家族連れはほとんどない。夜中に入店し、閉店までいる客も珍しくない。決して売上げに好条件とはいえないが、月商は平均で七五〇万円、年商九〇〇〇万円。前年比で一〇八%アップしている。
「やはり、三店舗でまとめて仕入れして、価格を下げているのが売上げの伸びにも関係していると思います。富士見店は他の二店よりさらに若干安くしています。それは、客層とか土地柄とかを考えて、社長と話して決めました」と店長の佐々木雅博さん。
佐々木さんがこの店を任された時の第一印象は「高級感を重視しすぎている」ことだった。
「高級感があってもいいですけど、イスが布製で油のしみがたくさんついていたり、座敷も畳がすれていたんです。高級感よりも清潔感を重視したいと社長に話し、イスはビニール製にしました」
何でも社長や他の店長たちと、話し合うことで富士見店の改善を図ってきた。
常連さんが多い富士見店では、客との会話ももちろん重要。はじめは調理をしていた佐々木さんは、厨房で肉の状態を見て、その日のメニューを替えることもある。そんな時は、なぜないのか、正直にきちんと説明する。
「『なんでレバーないの』と聞かれたら、その日の肉の具合をちゃんと説明します。『今日のはレバー刺しではおいしくないので、焼いたほうがいいですよ』といったふうに。お客さんにはうそはいいたくないし、そういううそってばれちゃうんですよ。自分もお客さんには納得して食べてもらいたいですから」
そのうちお客さんから「今日のオススメは?」と聞かれるようになり、コミュニケーションが広がった。O157の時は特にその信頼関係が発揮され、客足が極端に減ることもなかった。
コスト削減として、佐々木さんが目をつけたのは人件費。これまで六人態勢にしていたのを、五人、客の少ない時は四人で切り盛りするようになった。
「自分がホールと厨房を担当するんですが、なぜかホールが忙しい時は厨房は手があいていて、厨房が忙しい時はホールは暇なんです。これなら、自分がふた役すればいいじゃないかって思いました」
最近はアルバイトでも、社員でも、全員がどの仕事でもできるようになってきた。
「責任感を与えれば、だれでもやる気になるんですよ。レジだって極力やってもらうようにしています」
そのおかげか、アルバイトは長く続けてくれる人が多い。
「同じ人は二人といませんよね。だから、みんな同じスピードで頂点まで達するのは無理なんですよ。徐々に教えていって、責任を与えていって、それで最後の到達点が同じになればよいと思っています」
佐々木さんのモットーは、会社のモットーでもある“共育”すること。教えて育つ、教えられて育つ、という意味をもつ。このモットーを今以上に実践し、会社をまだまだ大きくするのが、佐々木さんの抱負だ。
◆ささき・まさひろ(千葉富士見店店長)=昭和43年生まれの三〇歳。高校卒業後、学生時代にアルバイトをしていたむさし商事(有)に入社。今年で一六年目のベテラン。三咲店、八千代店を経て、平成8年10月に富士見店へ。はじめは調理が中心だったが、今ではホールと両方を担当。どちらかというと、接客より包丁をもった自分の方がしっくりくる、と本人。週一日の休みには、バイクでツーリングをしたり、温泉へでかけたりして気分転換を図る。夜から朝の仕事となるので、体力がものをいう。体調をよく保つには、朝日がまぶしくてもとにかく寝ることだとか。
◆焼肉「むさし」千葉富士見店/経営=むさし商事(有)/代表取締役=長山強/本社所在地=千葉県船橋市三咲三-一-一四、電話0474・48・1129/千葉富士見店所在地=千葉県千葉市中央区本千葉一-三、プリマビル二F、電話043・227・0634/むさし商事(有)は、昭和60年創業、社員一二人。千葉県内に焼肉「むさし」を三店舗(ほかに八千代本店、船橋三咲店)経営している。家族連れやサラリーマンまで幅広い客層にこたえるよう、店舗ごとに工夫を凝らす。年商三億円。