チェーンストアのここに学べ:「てんや」の場合(下)
◆コンベヤーフライヤーによる調理の方法
てんやの天ぷらの調理方法の最大の特徴は、コンベヤーフライヤーを使用し調理を自動化し店舗や従業員による品質の差を無くしたという点だ。大型の給食や旅館などの調理で使われていたコンベヤーフライヤーを研究し、いろいろ改善を付け加えて完成したものだ。どんな改善をしたか見てみよう。
<コンベヤーフライヤーの改善>
(1)ヒーター容量を大型にした。当初設定より売上げが高く、能力が必要になり、ヒーター容量を上げた。当初は大型のエビや、かき揚げなどのサイズの大きいものを揚げるとやや生揚げであったが、ヒーター容量を上げ、揚げ方を工夫することにより改善した。
(2)ヒーターの加熱方式をシーズヒーターと、遠赤外線を出す赤外線ランプヒーターを併用している。種を投入する所と最後の部分はシーズヒーターを使用し、中間部分に赤外線ランプヒーターを使用した。赤外線ランプヒーターは遠赤外線を出すので、揚げ物の内部に温度がよく入る。
(3)投入口のヒーターの上部に放熱タイプの穴開きのバッフル板を置き、ヒーターの熱がきれいに上昇し、種に加わるようにした。
(4)正確な温度コントロールを可能にした。全体の温度コントロールが±一度Cになるようにした。また、設定温度より三度C以下になるまでは、全部のヒーターが加熱するが、それ以上の温度では、赤外線ランプヒーターで加熱するようにし、温度の上昇過ぎを抑えるようにして、常に一定の温度で上げることを可能にしている。
(5)かき揚げを揚げるために、投入の油の中にステンレスの板を置き、リングを置く。その中にかき揚げの種を入れる。一分三〇秒ぐらいかき揚げの形を整えて、それからコンベヤーに流す。
(6)大型のエビは、投入個所の油に入れ、いったん沈み、上がってきてから、コンベヤーに流すようにする。これにより火が十分に入るようになる。
(7)油の量を少なくするために、電気ヒーターで加熱するタイプである。そのため油の量を少なくすることができ油の回転率を一日一回転以上保つことが可能になっているのである。油量は四二リットルであり、一般的な店舗では一日に油を三六リットルほど使用するようで、ほぼ一日で油が一回転する。そのために油を捨てる必要がないのである。
(8)大きい具に火を通すために、コンベヤーは二段になっており、上下のコンベヤーに挟まれた具が油の中に浸かり、ひっくり返すことなく十分に調理されるのである。
(9)下部にはろ過機を置いて頻繁に油をろ過できるようになっており、作業が簡単である。
<コンベヤーフライヤーのメリット>
(1)調理温度、時間が一定であり、品質が安定している。
(2)作業が軽減され、調理時間が早い。常に天ぷらは一分三〇秒、かき揚げは三分間で揚がり品質が他社より安定しサービス時間も短い。
(3)揚げる量が一定であり、そのために温度が常に一定に保たれ、投入する天ぷらの量によって温度が下がらず、油を吸収しにくくさっぱりした味になる。
(4)作業が自動化されているのでピークでも二人で調理でき、労働生産性が高く、人件比率が低くなる。
(5)ピーク時の作業が簡単なので道線が混乱せず、厨房のクレンリネスも維持しやすい。
(6)油カスも自動的にとれるので作業が軽減されるなど、従業員の労働が楽で定着性が高くなる。
(7)トレーニングが容易である。調理の経験が無くとも機械が温度時間管理をするので、トレーニングが簡単であり、トレーニング時間、食材が少なくてすみ経費の削減ができる。また、フランチャイズチェーンの展開が容易である。
(8)フライヤーの表面積が大きいので大量に調理できる。
◆開発のコンセプト
<油っこい味>
◆衣の品質◆ 衣に対する油の吸油を抑え、さっぱりさせる。特に衣の開発に力をいれ、吸油を抑えながらかつ衣がカリッと揚がるという矛盾を解決した。従来の衣では、完成品重量に対して一二~二〇%の重量の油分を含んでいたが、衣の改善で、七%に抑えるようにし、毎日食べても油っこさを感じさせないようにした。
◆油の品質◆ 天丼は毎日食べるものであり、くどい味では毎日食べることができない。てんやでは店で売る天丼の味付けを最高においしいものでなく毎日食べても飽きのこないさっぱりした味を目指した。
そこで味をさっぱりすることが重要なのである。そこでごま油にこだわらず、なるべくあきのこないさっぱりした油を使用し、さらに衣への吸油を少なくするようにしている。
<天ぷら職人>
だれでも調理できるように、自動化のコンベヤーフライヤーを開発し、アルバイトでもできるようにマニュアル化をした。昼の忙しい時でも二人で天ぷらを連続で揚げることができ、ファストフードのようにサービングタイムを三分間くらいと短くすることも可能になった。
<安定した安価な食材の確保> 味の品質を統一するために、天ぷら粉、油、機械、オペレーションを開発し、指定商品しか使用しないようにした。次に大手商社の丸紅と提携し、タイなどの東南アジアでエビの養殖を行い、おいしい食材を産地から管理するようにした。KFCと同じく原材料のインテグレーションを行ったわけだ。これが天丼四九〇円という相場の半分の値段を決定したといえるだろう。
◆商品の差は歴然
てんやはオーダーしてから出来上がるのに三分~五分間であった。揚げる時間は一分三〇秒である。エビも肉質が柔らかく、衣との結着もよい。むずかしいかき揚げ丼を注文したが、衣はカリッとしており品質は大変よい。揚げる時間も三分間で早い。
D亭はサービング時間が九~一二分間と長い。揚げ時間は三~四分間である。時間をタイマーでコントロールするのではなくビジュアルで判断している。そのため衣はてんやよりカリッとしているが、中のエビは揚がりすぎで肉質が堅く衣との結着性も悪い。これは何回か別の店舗で試食したが同じ傾向で、時間コントロールをしていない欠点が出ている。この点でてんやの方が品質の安定性は圧倒的に高く、店舗や従業員による味の差が全く発生しない優れたシステムである。
ピーク時間のオペレーションを見ると、てんやは七人の従業員がいるがそのうち三人が厨房で働いている。D亭は八人の従業員でそのうち四人が厨房で働いている。両店とも一人が天ぷらを揚げ、もう一人が盛りつけをするのである。てんやの場合一人はフライヤーに具を投げ入れるだけに専念できる。反対側の出口にもう一人(女性)がでてきた具を丼ぶりに乗せその上にたれをかけるのである。
D亭も同じシステムであるが、作業の負担が天ぷらを揚げる一人に大きくかかる点が異なる。一人で二台のフライヤーを担当し、エビに衣をつけフライヤーの型をつける部分に並べる。三〇秒ほどで型がきれいについたら、スパチュラで型からはがし、深い部分に移動する。エビの周囲の泡が大きくなってきたら出来上がりなので注意深く商品を見て、出来上がったら菜箸で取り上げる。商品を手渡しで盛りつけ担当に手渡す。次にフライヤーの表面に浮いてきた揚げカスをすくいとる。温度を確認し、次にエビを揚げ始める。このように昼時のピーク時は獅子奮迅の働きであるが、天ぷらの盛りつけ係やライス盛りつけ係はのんびり作業をしている。
昼時のサービングタイムの違いは客席数の全く同じ両店の売上げを大きく左右するものと思われ、てんやはD亭の三割以上高い売上げを上げることが可能だ。
この不況の世の中、昨年の10月ごろからのてんやの売上げは快調だ。不景気だからこそ天丼の味と四九〇円という値段が注目されるからだろう。しかし、単にコンベヤーフライヤーを入れたらてんやのように繁盛するのではない。独特の調理法と、衣と油の工夫、安定したエビの入手という、調理法とおいしい原材料の確保という料理の基本を守っているのが成功の秘けつだということを忘れてはいけない。
チェーン展開をするのではなくても、てんやのように独自でノウハウを構築することにより、他店との競争に負けない老舗の味を築き上げることだろう。また、同じ売上げでもより高い利益率を確保することが可能になる。ぜひノウハウを構築し繁盛店になっていただきたい。
((有)清晃代表取締役・王利彰)