焼き肉最新動向 競合しのぐこれからの焼肉店
外食産業界は、すでに二九兆円に迫ろうとしている。これは二〇年前の約三倍の拡大だ。そうした中での焼き肉店の実態はどうか。平成4年10月現在の商業統計調査によると、日本全国の焼き肉店の数は一万七三〇〇店。その三年前の調査では、東洋料理店としてくくられているが、その店舗数は一万二〇一九店。焼き肉店単独での調査にもかかわらず五〇〇〇店以上も増えたことになり、四四%の増加となった。こうした実態は、焼き肉という料理が全国に浸透したことを裏づけている。一部の人の食べ物ではなく、広く大衆的な食べ物として大きく成長するとともに、焼き肉店の業態も多様化し、激しい競合状況を迎えている。
大型の居酒屋タイプにニーズ
従来の一部の人が食べに行く焼き肉店だけでなく、ファミリー客を意識した大型タイプのもの、居酒屋的な利用動機にも対応するもの、レストラン的なもの、食べ放題のバイキング型と、ますます多様化している。
これからのお客さまのニーズを考えた場合に、焼き肉店に求められているのは何かといえば‐‐
(1)本物=気軽に海外へ出かける時代であり、お客さまは海外で本物体験をしている。さらに、外食が日常的になった。昔は、ファストフード、ファミリーレストランが外食の楽しみだったが、外食元年といわれてから二八年が過ぎ、高度になったお客さまのニーズには応えられない時代となっている。
(2)専門店(味・サービス・雰囲気)=本物とは専門店の味であり、専門店のサービスであり、専門店の楽しみ方である。そのためには、ほかと圧倒的に差別化できるメニューがなくてはならない。「何でもあり」のメニューではなく、圧倒的にお客さまの支持を得る専門店こそ、今求められている。
(3)○○屋らしさ=店舗、看板、内装、商品、サービス、雰囲気、人材はもとより、コンセプト、店名ロゴ、サービスの仕方、メニュー、盛り付け、販促など、すべてに「○○屋」という個性が求められている。
(4)楽しい夜の食事=夜の食事時間帯に、いかに真価を発揮することができるか。この時間帯に、本当のパワーを発揮してこそ本物の専門店である。
OGMコンサルティングが提唱し続けている「ファミリーダイニング(FD)」がそれ。ファミリーレストランとディナーハウスの中間の業態で、客単価が一五〇〇~五〇〇〇円程度で、家族や親しい友人たちと夜の食事を気軽に楽しむことができる店のこと。不景気感が漂う中で、お金を正しく使い分けられる生活者は、賢く使うようになっている。
従来の古いイメージの焼き肉店は、一部の特殊な客層が相手になりがちだった。しかしマクロ的には、ファミリーが主要客層の郊外ロードサイド立地店が優勢で、古いイメージの焼き肉店は、苦戦を強いられている状況にある。
ロードサイド立地店に人気
ここで、焼き肉の歴史を振り返ってみよう。焼き肉店の歴史は、焼き肉を売ることそのものに価値があり、今までにない料理や味を提供する新しい店からスタートし、この新しいものに関心を持つ人たちによって支えられ、味覚を好む働き盛りの男性により圧倒的に支持された。
その次にやってきたのが、肉料理の一つとして、食べる焼き肉とした専門店。そのころステーキや、しゃぶしゃぶは、まだ高級感があったが、それに比べて焼き肉は安くて気軽に食べられた。この時代は盛り合わせとか、セットメニューとか、何人前でいくらとか、焼き肉を知らない人でも分かりやすい売り方を工夫してあって、若い人たちが消費者の中心だった。
そういった中で、油でギトギト、何か焦げ臭い臭気がする、アルコールとヘビーなスタミナ料理が中心、素材・産地の表示はない、つけだれとつけ込みだれはどんな肉もいっしょ、といったイメージを完全にかえたのが、ファミリーが主要客層の郊外ロードサイド立地の焼き肉店だった。
商売の勢いという観点からみると、ロードサイド立地店に人気が集まり、古いイメージの焼き肉店は苦戦を強いられている。
郊外にできた焼き肉店の影響だけではないが、古いイメージの焼き肉店は、特殊な夜の客層の利用頻度が減少し、来店頻度も減少している。それは、競合による影響だけとはいえず、現在の消費の冷え込みによる不況感や、それぞれの地域で抱えている立地、店舗規模、価格帯、客層の変化など、いろいろな要因がからみ合ってのものと思われる。
高級感を払拭し清潔感を強調
基本的に、焼き肉を焼くというシステムは変わらないが、特殊な夜の客層をもち、客単価も高かったのが古いイメージの焼き肉店だとすれば、これからの焼き肉店は、かつての焼き肉店の高級感を完全に払拭し、焼き肉専門店としてそん色ないレベルの商品を提供する仕組みをつくりあげたところにある。
それは、昼から始めて夜までの営業(深夜はない)、清潔で明るいファミリー的な店内、ランチや家族・友人で楽しむ夕食メニューの充実、素材・産地の明確化、つけだれとつけ込みだれの肉による使い分け、リーズナブルな客単価、といったもので、こうした店がこれからの新しい焼き肉店になってくる。
明るく清潔で、主要客層をファミリー層にしたロードサイドの焼き肉レストランは、清潔感あふれる店内で、素材(肉質・たれ)にこだわった焼き肉料理を提供する。
楽しむごちそうメニューは、肉質とオリジナルのたれからなり、肉質と部位によってたれを使い分けるなどのこだわりを持つ。具体的には‐‐
(1)素材を重視した基本的なメニューをそろえる。つけだれとつけ込みだれの使い分けによって素材の特性を引き出す。
(2)ファミリーを主力顧客としたセット料理を中心に構成。特選大皿セットなどでお値打ち感を訴求する。
(3)お手ごろなコース料理やレディス用のコースを設ける。
(4)一品料理、サイドメニューの充実、サラダ・デザートにも力を入れる。
このように、お客さまのさまざまな利用目的に応じられるようにするには、焼き肉と一品料理の両方の魅力を引き出し、ファミリーが安心して利用できるような商品構成、価格帯を配慮する必要がある。また、焼き肉と一品料理を組み合わせることによって居酒屋的なニーズにも対応できる。
鮮度の高い素材はむろん、素材のうまさをいろいろと引き出す工夫は、これから、生と違った味わいを工夫することで、焼き肉店としての魅力をさらに増すことになる。
焼き肉店としての基本の素材をきちんとそろえ、その一方で他店にはない素材を活用したり、オリジナルの一品料理をそろえるなどして、飽きさせないことも大切。アルコールを充実させ、若い客層から年配の客層まで楽しませる工夫も重要となる。
客が客に誇れる店、人づてにこんな素晴らしい店があると語れる店が、これからの焼き肉店だ。
焼き肉店としての誇れることは、高い生産性と経営効率である。つまり、(1)一人当たりの客単価が高い(2)労働生産性が高い(3)食材が扱いやすく食材ロスが少ないこと。
ランチタイムでも一〇〇〇円台であり、夜の客単価は優に二五〇〇円を超える。ファミリーダイニングの客単価実現が可能だ。
二番目の労働生産性の高さは、お客さまが調理を楽しむということ。素材や野菜をお客さまに提供し、お客さまが自由に楽しむ点にある。その分、よりフレンドリーなサービスができる。それが高い生産性を可能にし、それが人時売上高四〇〇〇~四五〇〇円を可能にする。
三番目の肉という食材の扱いやすさについては、調理はお客さまがするので調理ロスも少ない。肉の取り扱いのカット作業は大変だが、熟練調理人でなければならないというわけではない。ただ、仕入れ、検品時の肉質を見分ける目と、美しい盛り付けは、一朝一夕で身につくものではない。
その点で、商品知識と調理技術を持ったプロは必要である。そういう人たちのいるお店が、お客さまを喜ばせることができる店であり、高い売上高を実現し、働く従業員が楽しく働くことのできる店となる。
現代の焼き肉店の競合は、単に古いイメージの焼き肉店と、これからの焼き肉店の競合という形だけでなく、もはや業種・業態の垣根を越えた戦いになっている時代であることも認識すべきである。
◆筆者紹介◆ 杉山博美(すぎやま・ひろみ)昭和28年茨城県出身。コックドール(株)を経て、平成元年(株)OGMコンサルティングに入社、コンサルティング部所属。