麺・ご当地ラーメン徹底研究「佐野ラーメン」
佐野といえば、佐野厄除け大師がすぐに思い浮かぶ。しかし近年では、佐野といえば佐野ラーメンが先に思い浮かぶ人も少なくないだろう。
注目されはじめたのはここ十数年だが、その歴史は全国的にみてもかなり古い。ルーツを探ると、それは大正時代にさかのぼる。「エビス食堂」という洋食店に雇われていた中国人のコックが、青竹で打つ手打麺を出したのがはじまりだという。
小麦粉も味方
佐野ラーメンの強みは、麺の主成分である小麦粉の産地であること。その国産の小麦粉に、水とカン水を加え、よくかきまぜる。そして手のひらを使ってよくこねて出来上がったドウを、身の丈以上もある長くて太い青竹にまたがり、リズムに乗って前後に移動しながらのばしていく。
均等の厚さに広がった麺帯をたたんでから包丁で切る。均一の太さに切るのは職人芸だが、それでも厚さや太さが多少まちまちになるところが、手づくりの良さである。そのまちまちな太さの麺がスープのからみや舌ざわりにアクセントを加え、独特の触感をつくり出している。
加水率の高いなめらかな麺は、太めの平打麺で、ピラピラと唇で踊る感覚が特徴。水分が多いため、見た目よりもゆで上がりが早い。この技術が佐野市に広がり、手打麺を出すラーメン店が非常に多い。
昭和初期から、人口五万人ぐらいの町に一五〇軒を超えるラーメン店があったというから、ラーメン処としてのキャリアは博多や札幌をもしのぐものがある。
昔から外食はもとより、訪問客に出前を取ってもてなすなど、ごちそうとして古くから愛されていた。元祖ラーメン処といっても過言ではないほどのラーメン文化を持っている。
澄んだ醤油味
佐野ラーメンの特徴が顕著なのは麺である。スープや具はオーソドックスで素朴なパターン。澄んだ醤油味スープが主流で、サラリと飲み干せ、キレのあるタイプ。チャーシュー、メンマ、なると、刻みネギという具のパターンも昔ながらである。
ただし、サブメニューとして、シーフードやローストビーフを乗せるなどのアイデアメニューを取り入れている店も増えてきている。
八万五〇〇〇人の人口に対し、二〇〇軒近くのラーメン店のある佐野市は、人口対ラーメン店数比率を、全国で喜多方市と一、二を争っている。昭和62年に喜多方ラーメン会発足に続き、昭和63年に佐野ラーメン会を発足するなど、観光名物としてのご当地ラーメンのステータスもいち早く築き上げている。
東北自動車道にのれば、東京から佐野藤岡インターまで約一時間。インターをおりれば一〇分ぐらいで佐野に着いてしまう。意外なほど東京から近くに位置している。インターをおりなくても、上りの佐野サービスエリアで本格的な佐野ラーメンが味わえ、おみやげラーメンも用意されているなど、ラーメンの街としての意識は非常に高い。
銘水でキレ味
もう一つ、佐野ラーメンにとって忘れてはならない重要な素材は「水」である。佐野の水の源泉は環境庁認定の日本銘水百選にも名を連ねる出流原(いずるはら)弁天池。この銘水がラーメンのキレ味を増す。
多加水麺の佐野ラーメンは水分が五〇%ぐらい。それをゆでるお湯はもちろん、スープにも水という素材が使われる。麺に水分が多く日持ちがしないのと、水質に違いがあるため同じ味が出せないということが、佐野ラーメンがある程度認知度の高いラーメン処であるにもかかわらず、東京でチェーン展開を図れない要因であると思う。
東京からも気軽に行ける場所なので、東京にあまり進出せず、現地に来て食べてもらうというスタンスが、街おこしというスタンスからも賢明なありかたかもしれない。