口ぐせが若さも寿命も決める!? 医学・理学・農学博士 佐藤富雄氏に聞く

2004.06.10 107号 2面

あなたが毎日話している言葉、何げなく使う口ぐせ、そんなものがあなたの身体の細胞の若さや寿命を支配しているとしたら…。「明るく前向きに考え、口にする。そうすればあなたも周りも幸せになる。健康になる」。これまで人生訓的に語られてきた話が、大脳生理学・神経工学・生化学の側面から証明されつつあるという。医学・理学・農学博士の佐藤富雄氏に話を聞いた。

考えること、思うこと、感じること…その行為の主体である「心」は、つまり脳の働きであることは現代人なら誰もが知っている。その脳は簡単にいうと、古い脳(脳幹・小脳・大脳辺縁系など)と新しい脳(大脳新皮質)に分けることができる。

古い脳の脳幹はいわゆる自律神経系と呼ばれるもので、身体のリズムをコントロールする機能を持っている。呼吸や心拍、消化・吸収など、無意識のうちに行われるような身体の働きを司っている。これに対して新しい脳はものを考えたり、判断したりする、いわば人間の意思の部分を担当している。人間が他の動物と決定的に違うところは、この新しい脳を著しく発達させたことにある。

「古い脳は本来、人間の意思など受けつけずに胃酸を出したり、血液を循環させたりしていますが、新しい脳が想像したものに対しては、反応する特性があります。例えば梅干しを頭の中に想像しただけで、唾液が出てくる。好きな人のことを思っただけで会ってもいないのに心臓がドキドキする‐‐などがそうですね」。

つまり新しい脳が思い描いたイメージに古い脳である自律神経系は反応するわけだが、ここで最も重要なことは古い脳は本当にあったことと想像したものの区別ができないことだ。

「古い脳である自律神経系は、過去・現在・未来の区別がつきません。過去の回想であれ、未来の先取りであれ、何かを意識の中に呼び起こしたとたんに、いままさにリアルタイムで体験しているかのような化学反応を身体の随所に引き起こします。また、自律神経系は同じく言葉における自他の人称を理解しません。他の誰かについて話していても、すべては言葉を発した本人のこととして受け止め、それを現実化しようとします」。

過去の苦労話を「その時は困ってしまってね…」などと話しているのに、自律神経系は「困ったことになっているんだな」と理解し、実際に困った状況を作りだしてしまう。人の悪口を言ったり、失敗を望んだりしていると…。なるほど昔の人が「人を呪わば穴二つ」と言ったわけだ。

「ですから思ったり口にしたりするのならば、幸福な思い出や未来の成功ビジョンにする。人に対しても褒める、元気づける、幸せを祝福する、成功をたたえる。良い言葉を頻繁に口にしていると、自律神経系はその特性で、言葉通りの内容を話者の身体にフィードバックします」。

◆「将来が不安で」と考えている時、あなたの血管は…

実際に意識が引き金になって起こる、生体内化学反応を見てみたい。

悲しい出来事をくよくよと思い出したり、将来の心配ばかりしているとどうなるか。

「たちまち顔色がすぐれなくなります。これを科学的に分析すると、アドレナリン系ホルモンが出て、毛細血管が縮小した状態になるから。そして大量の血液が筋肉に送られるため、脳内の血液が少なくなって、次第に脳の活動も低下していきます。そのままずっと悲しい思いや心配事を長く抱えていると、食欲も低下し、体調を崩して胃潰瘍になる場合もあります」。

反対につとめて楽しいことやワクワクすることばかり考えていると…。

「ベータエンドルフィンなどの快楽ホルモンがどんどん分泌されます。これらの快楽ホルモンは、毛細血管を広げて血行を良くし、身体の免疫力を高めたり、ストレスを発散させます」。

◆どうして犬は過去を思いわずらわないのか

「新しい脳である大脳が発達していない動物はそもそも想像力というものがない。過去を思いわずらう犬や、未来に不安を抱いて寝込んでしまう猫などいないでしょう」。

野生のフィールドでも例えば朝、ライオンの群れがシカの群れを追う。けれど1匹が餌食になればもう終わりで、夕方の狩りの時間までライオンもシカも射程距離でのんびり寝そべっている。死の恐怖に襲われて真っ青になっているシカはいないようだ。人間だったらトラウマで気が狂ってしまうだろう。

“赤提灯で仕事の愚痴をこぼす会社員”の行為は人間だからこそ…だが、最新科学の道理で分析したら、ペットの犬や野生のシカにも学ぶべきことはあるようだ。

◆身体は心の召使い!?気になることが目に飛び込んでくる不思議

「例えば転居する、家を買うなどの計画を持つと、いままでまるで気にしていなかった街中の不動産情報、電柱の張り紙や看板が目に飛び込んでくる。これは脳神経系にRAS(Reticular Activating System=網目様神経系)という機能が組み込まれているからです。その働きの一つに意識の選別能力というのがあるのです」。

簡単に言うと、自分の好むもの、関心のあるものはこの選別機能を無条件で通し、好まないもの、関心のないものははじき出し、意識の中に入れない仕組みをいう。恐いのはこの高性能マシンは、意識に命令されればそれが危険だったり間違いであっても機能すること。

「身体は心の召使いなのです。ここで心というのは、考えであり、思考であり、思いのことです。だから主人である人間の心が病気になって否定語ばかりを口にしていると、その身を滅ぼすかもしれない命令に対しても忠実に応じてしまう。意識に命令されれば、断崖絶壁から身を投じることでも実行するよう、機能することもあります。逆に、前向きな人は、強く思って願いをどんどん叶えていくことができるんです」。

心と身体は決して友達や親子のようなものでなく、忠実な主従関係にあることを肝に銘じよう。

◆96年の「百歳人」調査で判明、長生き者は意識が若い!

佐藤氏は、まだ日本に100歳以上の人が7000人程度だった1996年(2003年9月発表では20,561人)、すでに百寿者の取材を展開している。

「平均寿命を20歳前後も上回って、第一線で活躍し前向きに生きている人たちの意識構造にきっと特徴があると考え、面接を試みました。結果は思った通りでした」。

エピソードは数々ある。例えば100歳の大台、いや“超”代に乗って英語を習い出した男性は102歳にして、イギリスの40代の女性と文通を始めた。104歳現在、手紙に「アイ アム 104 イヤーズ オールド」と書いてあることを何かの間違いだと思ったペンフレンドは日本に確認にやってきて、空港での対面にビックリ。2人は楽しい数日を過ごし、ガールフレンドの帰国の途、男性はお別れのキスに見舞われ大感激。なんとも若々しい行動力、ほほえましい物語だ。

●プロフィル

さとう・とみお 1932年生まれ。東京農業大学、早稲田大学卒業。東京農業大学大学院博士課程修了。医学博士・理学博士・農学博士・経営学修士。外資系企業などの勤務を経て、Patent University of America学長、中国首都医科大学名誉教授を務める。大脳・自律神経系と人間の行動・言葉の関連性を専門とする。「口ぐせ理論実践塾」塾長としてセミナー開講中(http://www.hg-club.jp)。

●佐藤富雄氏の本

『人生にツキを呼ぶ 黄金の一日二食』(講談社)

『成功を呼ぶ「口ぐせ」の科学』(宝島社)

『あなたが変わる「口ぐせ」の魔術 言葉の心理学・生理学』(かんき出版)

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