70歳過ぎても脳は若返る 百歳元気新聞創刊100号記念セミナー講演から
「いままでの医学では脳細胞は増えないとされてきたが、最近七〇歳を過ぎた高齢者でも脳細胞が増えることが分かった」‐‐先月で創刊一〇〇号を迎えた百歳元気新聞の記念セミナー(11月13日)で、浜松医科大学の高田明和名誉教授が「百歳まで現役のために~一〇〇年ぼけない生活術~脳は若返る」をテーマに講演した。その中で「脳は絶え間なく作り替えられている」と強調、脳を科学的に分析、うつ病やぼけ、その要因となるアルツハイマー病などの予防策を語った。
◆脳細胞の増やし方 人生の生き甲斐のために
米国の最新研究で、いままで増えないとされてきた脳細胞が増えていることが分かりました。脳細胞は、脳の中の短期記憶が長期記憶に置き換わる“海馬”という器官で増えます。歳を重ねると、昔のことは覚えているのに新しいことをなかなか覚えられなかったり、物忘れするようになるのは、その海馬が年齢とともに衰えてくるからです。
海馬の中の脳細胞を増やしてあげれば、ぼけも防げる。どうすれば増えるかというと、まず第一に運動をすることが非常に大切です。第二に刺激的環境にいること。チンパンジーの実験では、遊び道具の多い環境で生活させると脳細胞は増え、引きこもり状態ではぼけてしまうという研究結果が報告されています。毎日の生活の中で趣味や社会活動などを積極的に行うことが肝心です。第三に頭を使うこと。受験勉強とはいかないまでも、新聞を読んだり頭を使う訓練が必要です。高齢者となっても、いかに長く社会に貢献できるかを考え生活していくことで人の価値が決まるのではないでしょうか。定年退職してぼけてしまったら何ら意味がない。頭を使っていくことは自分の生き甲斐のためでもあるのです。
◆考え方が感情を作る 脳の正常化でうつを防げ
一方、人は強いストレスの際に急にぼけが始まったりします。これはコルチゾルという物質が脳を小さくしてしまうからです。本来動物はえさを捕まえたり、逃がしたりするなど極度のストレスがかかる時、コルチゾルというホルモンが出ます。これ自体は、エネルギー源でもある血液のブドウ糖を多くする物質なので必要なものです。しかし動物はコルチゾルを出すのが一瞬なのに対して、人は繰り返し同じことを頭の中で思い出してはストレスを感じており、このホルモンを絶え間なく出し続けてしまうのです。ライオンがシカの群をハンティングする。追いつめられて一頭が餌食になる。けれど食事が終われば追う集団も追われる集団も何事もなかったように草原でのんびりと共存している。シカには恐怖体験のトラウマなどありません。
近年うつ状態の人がものすごく多くなりました。うつ病は、暗い気分や悲しいことがあるなど“感情の病”といわれてきました。だから「リラックスのために旅行などしましょう」と平気でいう人もいます。しかし、例えばリストラなどされた人にとってみたら、どんなに景色がよく素晴らしい温泉に行ったとしても、「ちきしょう、あの上司め」などと絶え間なく悩んだり考えたりしてしまうのです。逆にリストラされても、新しい仕事が前より給料が良くてやりがいもあったら誰も悩みませんよね。つまり、ものごとを自分がどう受け止めるかによって、感情も決まるわけです。自分の考え方が感情を作り出しているのです。
現在では、うつ病の薬はありますが、リストラされた人が六カ月間飲み続けても、ある日突然会社に戻れるということはあり得ない。自分自身がどういう風に解釈するか、元気なものの考え方にすることで脳内物質を変化させ、脳を正常化できるのです。
◆アルツハイマー病 老人斑と女性ホルモン
ぼけは脳細胞が死ぬことです。脳梗塞のように血管が詰まり脳細胞が死ぬ「脳血管性痴呆」と、老人斑という斑点が急速にできてしまう「アルツハイマー病」があります。近年では、アルツハイマー病の人は脳梗塞になりやすいことから区分けができなくなってきています。
老人斑とは、歳とともに顔にシミやシワなどができるのと同じように脳に斑点ができるもので、正常な人でも加齢につれて増えてきます。アルツハイマー病では急速に増えてしまうので、こうなってはいまのところ手の施しようがありません。しかし急速に増える前に抑えることはできます。急速に老人斑ができる要因として(1)頭を強くぶつける(2)強度のストレス(3)長いうつ状態(4)ホルモンバランスの異常(脳の栄養不足)(5)引きこもり(脳を使わない)‐‐これらを防いであげればよいのです。
また、脳の神経の中には電流が通っており、その電流が漏電すると困るので脂肪の膜(コレステロール)で神経を取り囲む構造になっています。また、コレステロールは女性ホルモンや男性ホルモンの元でもあります。女性ホルモンというのは、神経を刺激してぼけを防ぐため、アルツハイマー病の薬としても使われており、コレステロールもある程度摂取することが必要です。
◆プロフィル
高田明和(たかだ・あきかず) 1935年静岡県生まれ。61年慶應義塾大学医学部卒、66年同大学院修了。米国ニューヨーク州立大学助教授を経て、75年浜松医科大学第二生理学教授。01年同大学を退官、名誉教授となる。現在、日本血液学会、日本臨床血液学会、日本血栓止血学会評議員、精糖工業会顧問、昭和女子大学客員教授、(財)食肉消費センター「食肉と健康フォーラム委員会」幹事。主な著書に『元気な脳の育て方』(ポプラ社)、『ボケ、寝たきりにならない30の方法』(中経出版)など多数。