おはしで防ぐ現代病:噛む力は生きる力、咀嚼の効用

2003.08.10 96号 14面

咀嚼とは、活力の源である食べ物を噛んで体内に取り入れること。食べ物をおいしく楽しく味わうためには、健康な歯と咀嚼力が欠かせない。また咀嚼は、脳活性、免疫力向上、肩こり・腰痛緩和など、全身の健康ともかかわる。咀嚼機能改善に役立つ食品の開発・研究を進めている東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科の渡辺久・助教授に聞いた。

●キュウリも「固い」子供たち

最近の子供は、キュウリすら「固い」と言うそうです。ハンバーグやゼリー、甘い飲料など咀嚼を必要としない食品を好み、小児の歯周病や肥満が問題となっています。また、高齢者は歯の疾患などにより咀嚼力が減退すると通常の食事ができなくなり、流動食・経腸剤に頼るケースが多くみられます。その結果、消化管機能や舌機能の減退で言葉を失ったり、老人性痴呆や寝たきり状態にもつながります。さらに、若い女性のダイエットは、出産後や更年期以降の歯や歯周組織への異常、骨粗鬆症への懸念もあります。

●咀嚼力は鍛えれば向上する

いつまでも元気な毎日を送るためには、歯の健康管理に気を配り、きちんと噛む習慣づけが大切です。歯周病の治療をしたり、入れ歯の噛み合わせを治して、よく噛む習慣をつけたところ、痴呆や寝たきり状態が改善したという報告も少なくないのです。

噛む力は、腕やお腹の筋肉と同じく、鍛えれば向上します。それには普段の食生活で積極的に噛む訓練が有効です。また噛む訓練を目的とした咀嚼食品の力を借りる方法もあります。新開発した咀嚼食品を、六〇歳以上の人、一八人に四週間咀嚼してもらい、使用前後のさまざまな身体への影響を測定しました。結果、咬合力(こうごうりょく・噛む力)、記銘力(経験・学習したことを覚え込む力)について有意差が認められました(図参照「第一回咀嚼と健康国際会議」二〇〇二年9月18日発表)。

●ゆっくり食べて、よく噛む習慣を

咀嚼習慣づくりには、まず、ゆっくり時間をかけて食事をしましょう。一口につき三〇回噛むのが目安です。「アゴが疲れた」と感じるなら、これまでいかに噛んでいなかったかの証拠です。歯の状態にあわせ無理なく毎日少しずつ噛む回数を増やすことで、固めの食材もおいしく食べられる咀嚼力がつき、元気な身体づくりに役立ちます。

食事には、根菜やきのこ類、玄米など食物繊維の多い、噛みごたえのある食品を取り入れましょう。同じ素材でも、切り方や調理法によって工夫できます。また咀嚼食品を選ぶなら、低カロリーで、キシリトールなど虫歯になりにくい成分を含んだのものがおすすめです。

60~72歳の高齢者に1日3回の割合で4週間、咀嚼食品(グミ状食品)を使用してもらい、その前後で咬合力を測定。結果、平均約15キログラム上昇した。出典=『口腔機能及び記銘力に対する高齢者用咀嚼食品の効果に関する研究』(渡辺久ら、in press 2003)

◆噛むことの大切さ 日本咀嚼学会

ひ=肥満防止

み=味覚の発達

こ=言葉の発音をはっきり

の=脳の発達

は=歯の病気予防

が=がん予防

い=胃腸快調

ぜ=全身の健康

◆おいしく食べられて咀嚼力がつき、元気な身体づくりに役立つ、噛みごたえのある食品

~参考資料=齋藤滋著『噛めば噛むほど』(新講社)

★50~60回

麦飯・きゅうり(生スティック)・きんぴら・シシャモ焼き・アジ開き焼き・磯辺餅・五目豆・たくあんなど

★70~80回

皮付きリンゴ・イカ刺身・イカリング揚げ・焼き豚・ハス煮・きのこソテー・生キャベツ・メンマ・昆布など

★90~100回

クラゲの酢の物・イカ照り焼き・フランスパン・タコ刺身・煮干・クルミ・かりんとう・ゼンマイ煮など

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