ようこそ医薬・バイオ室へ:日本人は欧米人より早く生活習慣病になる!

2003.01.10 89号 6面

いまさら、とお叱りを受けるかもしれないが、和食の勧め。

今号のメーン特集に登場の京都大学・家森幸男名誉教授の研究には、こういうものもある。戦前に長寿県・沖縄からハワイとブラジルに移民した人たちの健康と食生活の調査が行われた。その結果、ハワイに移住した沖縄人は、現在でも伝統的沖縄食を守っており、食材は沖縄独特の魚、昆布、豚、大豆などに加えて、トロピカルフルーツや、乳製品をとる環境にあり、コレステロールは沖縄県人よりは高いものの、高血圧者は差がなく、寿命は沖縄県を凌駕していると推定された。

一方、同じ頃ブラジルに移住した人たちの食生活は、野菜や果物の摂取が少なく、もっぱら岩塩で味付けした肉食中心で、多くが高血圧と高脂血症を示していた。つまり、遺伝的にはほぼ同じ条件でも、食生活がこれら循環器の病気に直結していることを見事に示している。

そもそも、昔からアメリカ人に比べて日本人は肥満の程度が大したことはないのに、糖尿病の発症率が数倍高いことが指摘されていた。「デブ」を売り物にしているタレントの石塚英彦やパパイヤ鈴木にしても、小錦の肥満度には到底かなわない。当然、昔から高カロリー・高脂肪食をとり続けてきた欧米人と比較して、日本人に糖尿病発生が多い理由は何なのか研究が続けられ、どうも遺伝子の違いということが分かってきた。いわゆる「飢餓遺伝子」というやつだ。

日本人を含むモンゴリアンがいつ誕生したかは諸説あるとして、誕生からつい一〇〇年前まで始終飢饉に苦しめられていた。当然、食べられる時に食べて、そのカロリーをどこかに(当然脂肪細胞だが)しまっておく機能を遺伝的に身に付けてきたことは想像できる。つまり、少ないカロリーでよく働く者が生存競争に有利だったわけだ。このような飢餓に対して抵抗力をもつ遺伝子のことを節約、倹約あるいは飢餓遺伝子と呼んでいる。人間の脂肪組織に存在するアディポネクチン、ベータ3アドレナリン受容体、PPARガンマやレプチンなどの遺伝子群が飢餓遺伝子の代表例で、それらの配列に欧米人と日本人で微妙な違いがあるという。

そして、めったに獣肉などの高カロリー・高脂肪食を食べることのなかった日本人が、突然一九七〇年代以降に飽食の時代に入った。長年の習慣でこれらの飢餓遺伝子の働きによって、その時の必要量以上に体内にセッセとカロリーを貯め込んでしまい、欧米人よりも早く生活習慣病になってしまう結果になっている。

最近の研究では、生活習慣病だけでなく、アルツハイマー病にも高カロリー・高脂肪食の洋食がよくないという結果が出ている。自治医科大学大宮医療センターの調査によると、アルツハイマー病患者五一人と、同年齢の健康な人が食べている食事を分析すると、患者は青魚に多く含まれている不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)や、エイコサペンタエン酸(EPA)の摂取割合が低いことが判明している。また健康な人に比べて、男性患者では摂取するカロリーが約三割多く、逆に女性患者の場合は、一日に必要なカロリーをとっていない人が多く、海藻や黄緑色野菜の摂取量が著しく低いのが特徴的だった。

さらに、米国コロンビア大学の研究グループは、「高齢者が高カロリー、高脂肪の食事を長期間とり続けていると、アルツハイマー病にかかる危険性が高まる」ことを発表している。高カロリー、高脂肪の食品をとると活性酸素ができやすく、この活性酸素が脳細胞を含む細胞を傷つけるのだろうと考察している。

結局、日本人には農耕民族古来の野菜や魚中心の低カロリー、低脂肪の和食が一番合っているということで、我が家も今後は青魚、大豆、海草、野菜などの和食中心で行こうと固く決意したのであった。

この稿を読んで妻いわく、「美食家で高脂血症の人が言っても説得力ないわ」。確かにそうなので、せめて週末はテニスでもして運動に努めている今日この頃だ。

(バイテクプログレス研究会主宰・高橋清)

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