おはしで防ぐ現代病:減塩で血圧が上昇する不思議

2002.03.10 79号 14面

私たちの身体に欠かせない成分「塩」。血圧との関係・温熱効果・防腐効果など塩の話題を追った。(資料提供=(社)日本塩工業会理事・工学博士、尾方昇氏)

●塩と高血圧の関係

昭和35年、アメリカのダールが「塩の消費量と高血圧発症率は比例する」と発表し注目され、塩=高血圧の考えが定着しました。

高血圧患者で減塩が極めて有効な人がいます。ナトリウム感受性高血圧の人です。こういう人は食塩摂取に厳重な注意がいります。また降圧剤を飲んでいる人で食塩を制限すると有効な人もいます。しかし、大多数の人は塩をとる量が若干増減したところで、影響は微々たるものかほとんど関係ないといえそうです。

通常の人は、減塩よりもバランスのとれた食事を楽しくとることに気をつけた方が健康的といえるでしょう。

減塩がどこまで効果があるかを調べた例では、正常な人はやや血圧が下がる傾向はありますが、上昇する人も多く、減塩が血圧低下に役立つという結果は出ていません。

●塩浴の温熱効果

塩の入った温泉は「熱の湯」といわれます。ポカポカ温まる、湯冷めしない、抹消血管の血流が良くなる、などの効用があります。塩浴後の体温変化を見ると普通のお湯に入るのに比べて体温の低下が遅い。抹消血管の血流が良くなる結果も出ています。家庭用の風呂一八〇リットルに大さじ三杯(〇・〇一%)で効果があることが分かります。

冷え症、肩こり、腰痛などの改善、また末端血流の改善効果から抜け毛が減る、痔に効果があるともされています。

また、塩浴では角質が軟化して余分な角質を取り、隅々まできれいに、皮膚表面はツルツルにする効果があります。アトピー性皮膚炎への効果も注目されます。海水浴がアトピー性皮膚炎に効くという結果があり、その延長として塩浴の効用です。これは、一日二回一週間の海水浴治療で日光浴や運動を併用した成果であり、塩浴がそのままの効用で効くということにはなりませんが、注意深く試してみる価値はあるでしょう。

塩マッサージは粒の粗い塩を使うと皮膚を痛めるので、塩エステ用として市販されている粒子の小さい塩を選ぶか、あらじお(フレーク塩)に同量以上の水を加えてドロドロにして使うとよいでしょう。ハーブや精油を混ぜて香りを良くするとアロマテラピーの効果も期待できます。

特別の自然塩を強調した商品がマッサージに良いということはありません。国内で販売されているものはすべて海水原料の自然塩です。苦汁・ミネラルが多い塩が良いわけでもありません。

塩浴、塩マッサージの後はきれいに塩分を洗い流して下さい。塩が皮膚に残って荒れる人がいます。浴槽の金属部分もきれいに洗い流さないと浴槽を痛めます。

●塩と細菌の話

塩は防腐効果があり細菌類を死滅させたり、増殖を抑える働きがあります。昔から魚の塩物、漬物、味噌、醤油など多くの食品の保存に利用されてきました。

細菌類は塩の浸透圧で脱水されて死滅したり、繁殖が抑えられたりします。最近の減塩志向で多くの塩保存食品の塩の量が減少してきており、アルコール添加、ソルビン酸などの保存料添加、冷凍または冷蔵保存‐‐などで対応していますが、それでもなお塩の働きは重要です。

通常の細菌は一〇%食塩水でほぼ発育は阻害されます。しかしカビや酵母は食塩に強いし、細菌の中には塩が好きな細菌(好塩菌)や塩では死なない細菌(耐塩菌)もあります。せんごう塩(<注>参照)、特に日本で使われている膜濃縮のせんごう塩では菌類はありません。天日塩にはかなり菌類がいて、好塩菌数は一グラム中に一万~一〇〇万個も入っています。

好塩菌、耐塩菌の仲間には、食中毒の大きな原因になっている腸炎ビブリオ、黄色ブドウ状球菌など恐ろしい病原性細菌もあります。好塩菌は通常、赤から黄の色がついていることが多く、色がついた塩には注意した方がよいでしょう。また夏の魚介類による腸炎ビブリオがしばしば問題になりますが、大体海水汚染が原因で塩が犯人ではありません。

<注>塩は岩塩・天日塩・せんごう塩の三種に大別される。せんごう塩は釜で炊いて作るきれいな塩で食用に適す。

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